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少女買春の国際協力団体 性的虐待を告発した避難民を紛争地に送り返す 英ショップで未成年者虐待16件

木村正人在英国際ジャーナリスト
ハイチの大地震で支援活動を行ったオックスファムだが(写真:ロイター/アフロ)

はびこる「性的虐待文化」

[ロンドン発]2010年のハイチ大地震に派遣された国際協力団体オックスファムの支援隊員が少女買春に関わっていた問題を調査していた英独立行政機関チャリティー委員会は11日、オックスファムにはびこる「性的虐待文化」とマネジメントのまずさを厳しく批判する報告書を公表しました。

問題は一過性ではなく、少女買春や性的虐待に寛大な文化がオックスファムの組織内に何年にもわたって広がっていたと指摘しています。

オックスファムは昨年、このスキャンダルが発覚してから寄付者7000人と1400万ポンド(約19億2700万円)の寄付を失いました。英国政府もこの1年半の間に2000万ポンド(約27億5300万円)の資金援助をカットしました。

10万~16万人が死亡、数百万人がホームレスになったハイチ大地震では、オックスファムは支援隊員を派遣。11年、支援隊員数人がオックスファムの施設内で買春や性的虐待を行っていた疑惑が浮上し、4人が解雇され、カントリー・ディレクターを含む3人が辞職しました。

しかし、オックスファムは性的搾取が行われていた事実を公表していませんでした。

8年間に起きた問題は245件

1年半に及んだチャリティー委員会の調査によると、ハイチ以外で、オックスファムGB(英国)や国連の職員から受けた性的虐待を告発した避難民がキャンプから紛争地域に送り返されたという証言が寄せられました。

英国のチャリティーショップでも18歳未満の未成年者が被害にあった深刻なケース16件が報告されました。

2011~18年度に起きた問題は245件。11年度の12件から16年度の87件、17 年度の155件に急増していました。245件のうち146件はチャリティー委員会に報告しなければならない深刻な事例でした。被害者の中には以下の人たちが含まれています。

18歳未満の27人

避難民や被災者16人

リスクにさらされた成人11人

オックスファムのスタッフ51人

成人ボランティア10人

第三者18人

英国で犯罪に当たる51件のうち28件は警察か適切な当局に届けられていましたが、犯罪になるかもしれない11件については届けた形跡は見当たりませんでした。

報告書のポイント

ハイチに関する報告書のポイントは次の通りです。

・11年にハイチで発覚したスタッフの少女売春問題は一過性の問題ではなかった。10年6月にはすでにハイチで活動するオックスファムGBスタッフの問題行動は明らかになっていた。

・11年7月、オックスファムGB本部の会合で内部告発者から疑惑が指摘された。調査チームがハイチに派遣され、スタッフ10人と証人40人を調査。8月に報告書をまとめるも、調査内容が漏洩し、証人がいじめられたり、脅されたりする。

・オックスファムGBは他の団体と異なり、食料や衣服と交換の性行為や18歳未満の未成年や弱者との性行為を禁止する行動規範を持っていた。現地国が買春を禁止していたなら、それに準ずることになっていた。

・内部調査によるとスタッフ4人が買春していたか、その疑いが持たれていた。買春が行われた場所にはチャリティーの住居も含まれており、相手が未成年者だった疑いは払拭できなかった。

・11年7月、13歳の少女が「私と友人は生存のために買春に応じることを強いられた。オックスファムの“ボス”ら2人の男から殴られ、使役された」と電子メールで告発。翌月にも告発メールが送られてくるも、当時のオックスファム最高経営責任者(CEO)は「ガセネタ」と十分な追跡調査を行わず。

・後の調査では9人がオックスファムの雇用を打ち切られる。英警察に届けられたのは18年になってから。

・オックスファムGBは当時、団体の評価が下がり、人道活動に支障が出るのを最小限に抑えるために疑惑の中心人物だったカントリー・ディレクターを辞任させた。不品行の疑いが持たれているのは計12人にのぼった。

・06年に採用されたカントリー・ディレクターを巡っては07年、チャドでも買春疑惑がウワサされていた。この人物はそれより以前にリビアで問題を起こして解雇されていたが、人材派遣会社を通して採用したため、気づかなかった。

・ハイチで疑惑がもたれたスタッフのうち3人はチャドで、2人はインドネシアで問題を起こした人物と重なっていた。ヒラのスタッフより上級スタッフは寛大な処分を受けていた。

・こうした疑惑をもみ消した記録は発見されなかったが、寄付者やチャリティー委員会には事案を報告すべきだった。オックスファムの理事会にも報告されていなかった。カントリー・ディレクターの辞任は外からは監督責任で、問題に直接関わっていたからではないとみなされた。

・被害者が受けるショックやリスクは二の次とされ、真剣には取り上げられたとは言えない。

腐敗の源泉は権力と金

「英国版FBI(米連邦捜査局)」と称される英国家犯罪対策庁(NCA)はハイチの12歳と13歳の少女に対する性的虐待について捜査を始めています。

腐敗の源泉は権力と金です。チャリティー団体のオックスファムもこの法則から逃れることはできませんでした。解体的出直しが求められています。

組織防衛のため身内の不祥事にはどうしても穏便に済ませようというベクトルが働きますが、組織の透明性を増し「ゼロトレランス」で厳格に臨むべきです。

被災者や避難民といった救いを求めている弱者をターゲットにした性的虐待はオックスファムに限ったことではありません。ハイチの問題で勇気ある内部告発がなかったら、少女買春という国際支援の闇はもっと広がっていたでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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