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日米首脳会談 トランプ米大統領に抱きつく安倍首相と、媚びないメーガン妃の違いとは

木村正人在英国際ジャーナリスト
トランプ米大統領が来日 炉端焼き店で非公式夕食会(写真:ロイター/アフロ)

5回目の日米首脳ゴルフ

[ロンドン発]日本の安倍晋三首相は26日、令和初の国賓として前日から来日しているドナルド・トランプ米大統領と千葉県内で恒例のゴルフに興じました。日米首脳ゴルフはこれで5回目だそうです。

昼食は米国産牛を使ったダブルチーズバーガー。農産品の関税撤廃が大きな争点の一つになっている貿易交渉への配慮を示しました。

トランプ大統領はこの日夕、安倍首相と両国国技館で大相撲を観戦、幕内優勝力士の朝乃山に米国の国鳥ワシがあしらわれた重さ約30キロの「米国大統領杯」を授与しました。

安倍首相は「今日は、お天気もいいですし、お相撲も盛り上がっていますので、新しい令和の時代も、日米同盟が更に揺るぎないものとしていきたいと思います」と笑顔で話しました。

一方のトランプ大統領もご機嫌でツイート。

「大変楽しい。安倍晋三首相と会談。日本の多くの高官が私にこう話した。民主党は私や共和党が成功するよりむしろ米国が失敗するのを見たいのだろうと。人の失敗を願う奴らめ!」

「日本との貿易交渉は大きく前進している。農業分野や米国産牛肉は重要だ。7月に行われる日本の参院選まで待とう。安倍首相の大勝(農産品の関税撤廃の数字をかけている可能性も)を期待している」

対米外交も満足にできない英国

一方、第二次大戦以来、米国との「特別な関係」を維持してきた英国も6月3~5日、国賓としてトランプ大統領を招きます。

しかしテリーザ・メイ英首相は欧州連合(EU)との離脱交渉を完全に座礁させた責任を取って同月7日に与党・保守党党首を退くことを涙ながらに発表したばかり。トランプ大統領にとって外交的には何の意味もない公式訪問になってしまいました。

トランプ大統領の公式訪問は実務訪問に格下げされ、昨年7月に一度実現していますが、その際、ロンドンでは6万人規模の抗議デモが行われました。大統領は4日滞在中、2日を、スコットランドのターンベリー・リゾート「トランプ・ターンベリー」でゴルフを楽しむなどプライベートに当てました。

トランプ大統領の訪英に合わせて行われた抗議デモ(昨年7月、筆者撮影)
トランプ大統領の訪英に合わせて行われた抗議デモ(昨年7月、筆者撮影)

トランプ大統領の首席戦略官兼上級顧問だったスティーブン・バノン氏は今年3月中旬、英TVスカイニューズで、トランプ大統領がメイ首相に与えたEU離脱交渉の極秘アドバイスの内容を明らかにしています。

メイ首相が訪米した際、トランプ大統領はこう助言したそうです。

「よく聞きなさい。まず、合意を巡って意見は対立するので最終の着地点より高い目標を掲げなさい。次に6カ月以内に合意することにこだわりなさい。第三にたとえ後で訴訟になったとしても矢筒の中のすべての矢を使いなさい」

メイ首相は、「ディールの神様」を自認するトランプ大統領のアドバイスを一笑に付したそうです。バノン氏は「彼女は交渉の複雑さを理解しておらず、率直に言って恐ろしいほど洗練されていなかった」とこき下ろしました。

強硬離脱派のナイジェル・ファラージ元英国独立党(UKIP)党首は新党「ブレグジット党」を立ち上げ、「合意なき離脱」を唱えています。バノン氏は「トランプ大統領はメイ首相よりファラージ氏から大きな影響を受けている」と明かしています。

トランプ大統領との晩餐会を欠席するメーガン妃

トランプ大統領を国賓として招く英王室では王位継承順位6位のヘンリー王子(34)と元米人気女優メーガン妃(37)の第一子である男児アーチーちゃんが生まれたばかり。

メーガン妃とヘンリー王子(2017年12月、筆者撮影)
メーガン妃とヘンリー王子(2017年12月、筆者撮影)

ロイヤルファミリーの一員というよりフェミニストのハリウッドセレブリティ・アクティビストとしての本領を発揮しだしたメーガン妃。英大衆紙は、メーガン妃は「産休」を理由にトランプ大統領を招待する晩餐会を欠席すると報じました。ヘンリー王子は出席するそうです。

英国もEU離脱・残留を巡り国が真っ二つに割れていますが、米国も「トランプ」か、「反トランプ」かでもっと分断しています。

米南部アラバマ州で、全米で最も厳しい人工妊娠中絶を禁止する法律が成立したことを受け、全米50州で400もの「中絶禁止阻止(#StoptheBans)」を訴える抗議集会が開かれました。

母親や胎児の命に危険が及ぶ場合を除き、原則、中絶を禁止する極めて厳しい内容です。レイプによる望まない妊娠についても中絶を禁止しており、中絶手術をした医師は最大で99年の禁錮刑が科されます。

胎児の心音を聞き取れる段階で中絶を禁止する「ハートビート(心拍)法」が最近、アラバマ州、中西部オハイオ州、南部ミシシッピ州、南東部ジョージア州、南部ケンタッキー州の5州で成立しました。

背景には、中絶反対の宗教保守・キリスト教右派が支持する共和党と、女性の権利として中絶を擁護するリベラルな民主党の対立があります。

ヒラリーのキャンペーン顧問を雇ったメーガン妃

2016年の米大統領選では民主党のヒラリー・クリントン候補を応援し、インスタグラムに民主党候補を支持する投稿をしたメーガン妃。トランプ大統領を「男尊女卑」「不和を起こす人」と表現したことがあります。

競争の激しいハリウッドを勝ち抜いたキャリアウーマンのメーガン妃は早朝に起きて午前5時半にはスタッフに電子メールでその日の指示を送ることから「わがまま妃」という有り難くないニックネームを頂戴してしまいました。

ウィリアム王子とキャサリン妃とは別のアカウントを新設して無料の写真共有アプリ、インスタグラムを使って自分たちの情報発信を始めました。ヒラリー氏のキャンペーン顧問を広報チームのトップに雇い入れました。

「産休」が明けてもメーガン妃がトランプ大統領と席を同じくすることはあり得ないでしょう。これは非常に根が深い文化対立です。

トランプ大統領に抱きつく安倍首相と違って、媚びないメーガン妃には、保守反動の権力と対決することで名声を高めるハリウッド流のしたたかな計算があるようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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