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カトリック教会神父が魔女狩り?『ハリー・ポッター』や『トワイライト』の本燃やす ポーランドで

木村正人在英国際ジャーナリスト
英作家ローリングさんの魔法使いシリーズ『ハリー・ポッター』(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]ポーランド北部グダニスクにあるカトリック教会の神父が英人気作家J・K・ローリングさんの魔法使いシリーズ『ハリー・ポッター』や人間の女性と吸血鬼の恋を描いた米ベストセラー小説『トワイライト』の本を燃やし、衝撃を広げています。

(C)Facebook/Fundacja SMS Z NIEBA
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ポーランド北部コシャリンに拠点を置く「天国からのSMS財団」を名乗るグループが3月31日、『ハリー・ポッター』や『トワイライト』の本を燃やす一連の写真を投稿したのがきっかけです。この団体は神の言葉とカトリック教会の神聖な考えを広げることを使命としています。

(C)Facebook/Fundacja SMS Z NIEBA
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一連の写真には、教会で子供たちが差し出した『ハリー・ポッター』や『トワイライト』の本、アフリカの伝統的なお面、象や猫の置物、人気キャラクターのハロキティの傘を複数の神父がバスケットに入れて運び出し、焼き場で燃やす様子が映し出されています。

(C)Facebook/Fundacja SMS Z NIEBA
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投稿には「神の言葉に従います」と記され、「すべての占いは拒絶されるべきです」「魔法や魔術のすべての実践は信心深さの美徳と矛盾しています」と本や像を燃やした理由を説明しています。旧約聖書は、偶像礼拝を禁じており、それを実践したというわけです。

(C)Facebook/Fundacja SMS Z NIEBA
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ドイツの作家ハインリヒ・ハイネ(1797~1856年)は「書物が焼かれるところでは、最後には人も焼かれる」という警句を残しています。

ポーランドのニュースサイトNaTemat.plが「1930年代の悪夢を思い起こさせる」と報じました。1933年、ナチスを信奉する学生たちが「非ドイツ的な」本を燃やした事件は歴史的に有名です。ドイツメディアも一斉に反応しています。

超能力やオカルトを邪悪と決めつけ、排斥する行為はオカルトそのものより危険です。

欧州でも魔女信仰は古くからあります。最初は迷信として禁止されただけでしたが、12世紀ごろから魔女狩りが行われるようになりました。スペイン、フランス、ドイツでは大規模な弾圧が行われ、ユダヤ人や思想的な異端者までも残酷な迫害の対象となりました。

この教会が属するグダニスク教区のヤン・コハルスキ神父はNaTemat.plのインタビューに次のように答えています。

――教会の前で本や他のオブジェクトを燃やす目的は何ですか

「本は一つも燃やしていません。魔法やオカルトに関係する物を燃やしたのです。お守りや魔除けも含まれています。今がそれをなすべき時だからです」

ソーシャルメディアでは、カトリック教会での児童性的虐待を念頭に「これだから教会に子供を任せるのは危険」などの書き込みが相次いでいます。

2004年に欧州連合(EU)に加盟したポーランドでは急激な経済成長が起きた反動で、社会の保守化が目立っています。今回の出来事は、1989年のベルリンの壁崩壊、EU加盟により加速したグローバリゼーションの波と無関係とは思えません。

ポーランドのドナルド・トゥスク元首相はEUの大統領(首脳会議の常任議長)を務めています。

ポーランド系移民が大量になだれ込んだ英国ではEU離脱を巡る集団ヒステリーが起きています。「合意なき離脱」を唱える最強硬派の集会でドイツ人経済記者がやり玉に挙げられる様子を見て、”魔女狩り”のような空気を感じました。

英国ではスプーン曲げで知られる自称・超能力者ユリ・ゲラーさんが「テレパシーを使って英国のEU離脱を阻止する」と宣言したことがニュースになり、日本ではそれを報じたテレビ朝日系報道番組「報道ステーション」が批判されています。

21世紀にEU加盟国で魔女狩りとも言える焚書(ふんしょ)事件が起きたことに驚愕します。意見や考えの違いを許さない不寛容が世界中に広がっていることを恐れます。こうした現象が集団ヒステリーを引き起こさないことを祈らずにはいられません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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