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「イスラム国」の花嫁と子供の帰還を許すべきか IS壊滅で世界が直面する悪夢とは

木村正人在英国際ジャーナリスト
15歳でISに入った英女性が帰国を希望 (2015年2月資料写真)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

二重国籍者の国籍を剥奪

[ロンドン発]2014年に「カリフ国」建国を宣言し、一時はイラクやシリアで800万人近くを支配した過激派組織「イスラム国(IS)」が支配地域をほぼ失う中、欧米などからISに参加した外国人戦闘員や「花嫁」の帰還をどう取り扱うのかが大きな国際問題になっています。

米ワシントンのシンクタンク、戦争研究所(ISW)の最新リポートによると、2月7~8日、シリア北部ラッカで米軍が支援するラッカ国際安全保障軍(RISF)がテロ活動容疑で63人を逮捕しています。ISは14~15日、シリア東部で小規模の反撃を試みた程度で支配地域の大半を失ってしまったことが分かります。

シリアに渡航してISに参加した米アラバマ州出身の女性ホダ・ムサナさん(24)の父親が「トランプ米政権が娘の米国籍を認めず、帰国させないのは違憲」として21日、訴訟を起こしました。ホダさんは1歳半の息子を連れて帰国を望んでいます。

英国でも15歳の時、友人2人とともにロンドンからシリアに渡航し、ISに参加したバングラデシュ系英国人シャミマ・ベガムさんも生まれたばかりの乳児とともに帰国を希望しています。しかしサジット・ジェイビッド英内相はシャミマさんの英国籍剥奪(はくだつ)を決定しました。

人道活動や取材活動以外でシリアなどの戦闘地域に行くことは今年2月から罪に問われるようになりました。

「イスラム国の宣伝に使われるつもりはなかった」

シャミマさんは英BBC放送のインタビューに「2017年に英マンチェスターで起きた自爆テロで罪のない市民22人が犠牲になったのは間違いだ。しかしイスラム国でも爆撃によって女性や子供が殺されている。あれはある種、ISに対する攻撃への報復だ」と答えました。

「イスラム国の宣伝に使われるつもりはなかった」「私はいくつかの英国の価値観を支持している。英国に戻ってリハビリを受けたい」「赤ちゃんには英国人になってほしい」とも話しました。

シャミマさんと同じようにISに参加するためイラクやシリアに渡航した英国人は900人以上。このうち二重国籍を持つ100人以上は英国籍を剥奪されたそうです。

米シンクタンク、ソウファン・センターは2017年10月、ISに参加した外国人戦闘員は110カ国以上、4万人を超えると分析。ロシアが最も多く3417人、続いてサウジアラビア3244人、ヨルダン3000人、チュニジア2926人、フランス1910人の順になっています。

地域別にみると――。

旧ソ連圏 8717人

中東 7054人

西欧 5778人

マグレブ(北アフリカ) 5356人

南・東南アジア 1568人

バルカン諸国 845人

北米 444人

IS掃討作戦により支配地域から脱出した外国人戦闘員33か国5600人以上が帰国。ロシア400人、サウジ760人、ヨルダン250人、チュニジア800人、フランス302人。ちなみに英国は425人。米国はわずか7人だそうです。

それから約1年4カ月が経過し、帰国者の数はもっと増えている可能性があります。昨年5月に公表された欧州議会の報告書では、欧州連合(EU)域内からISに参加した外国人戦闘員の帰国率は約50%だそうです。

「イスラム国の花嫁と子供」は

ソウファン・センターによると、ISに嫁いだ花嫁と子供数は欧州の主要国では次の通りです。

フランス 最大320人(子供460人)

ドイツ 最大190人(同56人)

オランダ 90人超(同90人)

英国 100人超(同50人)

同センターは「IS帰還兵がもたらす特定の脅威を評価するのは難しい一方で、彼らはこれから何年にもわたって多くの国々に困難を突き付けるだろう」と指摘しています。

1979年に旧ソ連がアフガニスタンに侵攻し、完全に撤退したのは1989年です。アフガンでのムジャヒディン(ジハードに参加する戦士)に参加した国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディンが米中枢同時テロを起こしたのは12年後の2001年のことです。

英国が「イスラム国の花嫁」の帰国を認めない理由

ISが壊滅しても、テロの危険性はなくなりません。英国が「イスラム国の花嫁」シャミマさんの英国籍を剥奪した理由はいくつか挙げられます。

(1)英国からISに参加したロンドン出身の「ジハーディ・ジョン」ことモハメド・エムワジが日本人ジャーナリスト後藤健二さんや湯川遥菜さん、英国人援助活動家、米国人ジャーナリストを残虐な方法で多数殺害した

(2)ISに参加した英国人戦闘員は英空軍のドローン攻撃により現地で「処刑」されている

(3)マンチェスターや議会、ロンドン橋でのテロの記憶が生々しく、国民感情として「シャミマさんの英国籍剥奪」を支持する声が78%にも上っている

(4)英国に帰国させたあと刑事事件として立件する証拠を集めるのが困難

(5)IS外国人戦闘員の帰国を大量に受け付けると英情報局保安部(MI5)の能力では監視できなくなる

(6)シリアやイラクで戦闘経験を積んだIS帰還兵を受け入れると、テロを防げなかった場合のリスクが極めて大きくなる

(7)脱過激化のプロセスには膨大な時間と費用がかかる

(8)欧州ではテロ実行犯は現場ですぐに射殺する方針をとっており、テロと被害拡大の防止が最優先課題になっている

欧州に引き取りを迫るトランプ米大統領

米国のドナルド・トランプ大統領は2月17日、ツイートでEUに対して次のように迫りました。

「米国は英国、フランス、ドイツと他の欧州の同盟国に対し、我々がシリアで捕まえたIS外国人戦闘員800人を引き取って自国で裁判にかけるよう求めている。カリフ国は崩壊しようとしている。彼らを釈放したら良くない結果がもたらされる」

「米国はIS帰還兵が欧州に浸透するのを見たくはない。我々は多大な努力を払い、資金を使った。今度は欧州の番だ。欧州はできることをなすべきだ。米国はカリフ国に対して100%の勝利を収めたあとに撤退する」とツイートでトランプ大統領は欧州を脅しています。

フランスは英国と違ってIS帰還兵を引き取る姿勢を見せています。

英国でテロ対策がイスラム社会に広げる問題に取り組む市民団体「CAGE」はこう訴えています。

「英国民のシャミマさんの帰国は認められるべきです。ISの残虐性には疑いを差し挟む余地はありません。当初、ロンドン警視庁はシャミマさんら3人について帰国しても訴追されないだろうと保証していました。もしシャミマが起訴されるなら公正な裁判が行われるべきです」

IS壊滅に伴うテロ・リスクの拡散は私たち市民社会の価値と寛容を厳しく問いかけています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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