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「インスタグラムが14歳の娘の自殺を幇助した」父親が死のアルゴリズム撤廃を訴え

木村正人在英国際ジャーナリスト
インスタグラムが連鎖自殺を広げると父親が訴え(写真:ロイター/アフロ)

自殺と自傷行為の投稿

[ロンドン発]英国のイアン・ラッセル氏は2年前に14歳の三女モリーさんを失いました。宿題を済ませ、明日学校に行く準備を済ませたあと、モリーさんは自らの命を絶ったのです。

「ごめんなさい。すべては私のせい」という遺書がノートに残されていました。娘はどうして死を選んだのか――。ラッセル氏はモリーさんの写真共有アプリ、インスタグラムを調べました。

すると自殺や自傷行為を誘う投稿を閲覧していたことが分かったのです。ラッセル氏は英BBC放送で「私はインスタグラムが娘の死を幇助したことを疑いません」と訴えました。

「彼女は普通の十代に見えました。未来思考で情熱的でした。良いところがたくさんあったのに、もう帰らぬ人になってしまったのです」

ソーシャルメディアは光と闇を極端に増幅します。多感で不安定な十代はちょっとしたことで自信をなくし、落ち込んでしまいます。

自殺願望が芽生えた時、自殺や自傷行為の投稿を見てしまったら、どうなるのでしょう。

「世界は狂っている。もう見たくない」

モリーさんのインスタグラムからはリストカットの写真や動画、「飛び降りろ」と書かれた歩道橋の手すりや首吊りの絵、「死」と刻んで血をにじませた手首、睡眠薬の写真がたくさん出てきました。

両目を潰して包帯で覆い、テディベアを抱いてベッドで眠る少女の絵には「世界は狂っている。もう見たくない」という言葉が添えられていました。

インスタグラムに「#self-harm(自傷行為)」と入力して検索すると、複数のアカウントが表示されます。何回か「自殺」「憂鬱(ゆううつ)」と入力していると次のような表示が出てきました。

「助けが必要ですか? 検索している単語やタグに関連する投稿は、自傷行為や死に繋がる行動を助長するものである傾向があります。何か悩みを抱えていて、サポートが必要な場合はご相談ください」

新興のソーシャルメディアは、レガシーメディアの新聞、雑誌、ラジオ、テレビと違って善悪のフィルターを通さずに情報を拡散させる能力があります。

過去に検索したり閲覧したりしたデータをもとにユーザーに合わせた表示をするソーシャルメディアのアルゴリズムがユーザーを死へと追いやってしまう恐れが十分にあるのです。

連鎖自殺は十代に起きやすい

特に連鎖自殺は十代や青年期に起きやすく、十代の自殺の1~5%は連鎖自殺という研究報告もあります。多感なこの時期は、親しくなった人と悩みや苦痛を共有したいと思うようになるからでしょう。

「共有」が特徴のソーシャルメディアは闇の中でこうした死のネットワークと連鎖を広げてしまう危険性があります。

世界保健機関(WHO)によると世界で40秒ごとに1人が自殺を選んでおり、その数は年80万人近くにのぼっています。自殺未遂はその20倍にも及ぶそうです。

10~14歳の自殺は9368人。15~19歳は5万2750人です(2016年データ)。15~29歳の死因の中で自殺は交通事故に次いで多いのです。

ソーシャルメディアと自殺に関する2012年の研究で、自殺に関連した373サイトのうち中立は31%。29%は自殺に否定的だったのに対し、11%は自殺を肯定していたそうです。

先進7カ国(G7)の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は次の通りです。

(1)日本 14.3

(2)米国 13.7

(3)フランス 12.1

(4)カナダ 10.4

(5)ドイツ 9.1

(6)英国 7.6

(7)イタリア 5.5

G7の中でも自殺率がそれほど高くない英国では昨年、孤独担当相に続いて自殺防止担当相を新設し、孤独や自殺防止に取り組んでいます。

自殺率が最も高い日本ではソーシャルメディアを通じた連鎖自殺への注意がなおさら必要なのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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