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世界経済の減速顕著に「米国が景気後退すれば60%の確率で世界も景気後退入りする」世銀エコノミスト

木村正人在英国際ジャーナリスト
新年早々「アップル・ショック」が世界の株式市場を揺るがした(写真:ロイター/アフロ)

「広がる暗雲」

[ロンドン発]世界銀行のフランツィスカ・オーネゾルゲ発展見通しグループ部長が8日、ロンドンで記者会見し、世界経済見通しを発表しました。タイトルは「広がる暗雲(Darkening Skies)」です。

ロンドンで行われた世界銀行の記者会見(筆者撮影)
ロンドンで行われた世界銀行の記者会見(筆者撮影)

7日に緊急発表されたジム・ヨン・キム総裁の辞任については言及を避けました。

世界経済の実質国内総生産(GDP)成長率は昨年3%(推定)、今年2.9%(予測)、来年2.8%(同)と、世界銀行は昨年6月時点の予測よりそれぞれマイナス0.1%ポイント下方修正しました。

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米国では景気刺激策が続けられているため景気後退入りする可能性はいまのところ、かなり低いものの、もし米国が景気後退入りすれば世界経済も60%の確率で景気後退入りする――と、オーネゾルゲ氏は断言しました。

世界銀行のリードエコノミスト、オーネゾルゲ氏(右、筆者撮影)
世界銀行のリードエコノミスト、オーネゾルゲ氏(右、筆者撮影)

世界経済見通しのポイントは次の通りです。

・世界の経済成長は穏やかになり、昨年の3%から今年は2.9%に減速する。

・国際貿易や製造業の活動は緩慢になる一方で、貿易を巡る緊張は高まったままだ。いくつかの大きな新興国市場や途上国経済は資金不足を経験した。

・こうした環境に対して、新興国市場と途上国経済の成長率は昨年も今年もそれぞれ4.2%に失速すると予測されている。商品輸出の回復は期待したより弱く、商品輸入の減速は期待したより速いことを反映したものだ。

・ダウンサイドリスクはさらに強まっている。金融市場への圧力と貿易を巡る緊張は関係国や世界の経済活動を損ない、エスカレートする恐れがある。

・こうした課題に対して、新興国市場と途上国経済の政策立案者は政策の幅を再構築し、力強い経済成長を実現するために求められる改革を加速させる必要がある。

貿易戦争が悪化すると世界貿易の5%に影響

米国、中国、ユーロ圏、日本の経済予測は下のグラフの通りです。

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中国経済を巡っては新年早々の「アップル・ショック」をきっかけに限界論が唱えられていますが、世界銀行は「中国当局の公式発表に沿って予測している」(オーネゾルゲ氏)とのことです。

米国と中国の経済規模は貿易で見た場合、世界の計20%。国内総生産(GDP)では世界の計40%を占めています。米中貿易戦争が悪化し、俎上に上っている関税がすべて発動された場合、世界貿易の5%に影響を与える恐れがあるそうです。

下のグラフを見ると、世界の鉱工業生産も新規の輸出受注もドナルド・トランプ米大統領になってから急に落ち込んでいることが一目瞭然です。

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米国と中国の成長率がともに1%減速すれば、世界経済も0.75~1%減速する恐れがあります。オーネゾルゲ氏が挙げたリスクは次の4つです。

(1)金融システムの混乱

(2)米中貿易戦争の激化

(3)政策や政治の不確実性

(4)米中両国で同時に起きる景気後退

グレート・ディスインフレーション

オーネゾルゲ氏によると、新興国市場と途上国経済のインフレ率は1974年の17.3%から昨年には3.5%前後まで下がっています。

世界金融危機の影響もありますが、インフレターゲットの導入や国際貿易や金融市場の統合を促進したことが大きいそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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