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「自分でパソコンを打たない」サイバー担当・桜田大臣発言が象徴するのは日本の凋落か、政治の恐竜化?

木村正人在英国際ジャーナリスト
東京五輪・パラリンピック担当相として初入閣した桜田義孝氏(写真:ロイター/アフロ)

パソコンいじったことがないのにセキュリティ担当

[ロンドン発]「25歳の時から独立してやっており、従業員や秘書に指示をしてきたので、自分でパソコンを打つことはない」

2020年の東京五輪・パラリンピックを控えてサイバーセキュリティ基本法改正案を担当する桜田義孝五輪相(68)が衆院内閣委員会でこう答弁したニュースが世界中を駆け巡りました。

「パソコンをいじったことのない方がサイバー空間のセキュリティ対策をするなんて信じられない」(立憲民主党会派の今井雅人氏)という野党側の批判に、桜田氏はこう応じました。

「私の事務所や国が総力を挙げて総合的にやることだ。落ち度はないと自信を持っている」

歴代の財界総理も紙でやりとり

読売新聞の連載「解剖財界 復権へ 中西流改革」(10月24日)で取り上げられたエピソードも衝撃的でした。

<経団連会館の23階にある会長執務室。中西(筆者注・宏明、72歳)が部屋の主(あるじ)になった5月、卓上に初めてパソコンが備えられた。中西は事務局の役員やその部下らに、メールで施策の進展状況などを問う。部屋でパソコンを操る財界総理はいなかった。

メールを受け取った職員の一人は言う。「最初は本当に驚いた。これが中西さん流だ。主に紙でやり取りしてきた職員の働き方も変えようとしている」>

ビフォー・インターネットのシーラカンス

ビフォー・インターネット、アフター・インターネットと区分されるように1990年代のパソコンとインターネットの普及によって、世界は一変しました。

英語とグーグルの機能が使いこなせるだけで、情報処理の力は飛躍的にアップします。長年の経験や勘が以前ほど重要ではなくなりました。

桜田氏も、中西氏より前の財界総理もビフォー・インターネットの時代を引きずるシーラカンスと言えるのかもしれません。

一昔前までは「電子立国」と呼ばれ、パソコンやデータ通信で世界断トツの強さを誇った日本の凋落ぶりを象徴するニュースとして欧米メディアは面白おかしく桜田発言を取り上げています。

英BBC放送「コンピューターを一度も使ったことがない日本のサイバーセキュリティ大臣」

英紙ガーディアン「システムエラーの桜田氏、国会質問でUSBドライブでも混乱」

米紙ニューヨーク・タイムズ「コンピューターを使わない人は多くいるが、国家のサイバーセキュリティ担当者になる人はほとんどいない。しかし1人いた。日本の桜田氏だ」

米紙ワシントン・ポスト「彼が日本のサイバーセキュリティ大臣になるの」

豪紙シドニー・モーニング・ヘラルド「サイバーセキュリティを修理する大臣がコンピューターを使わない」

独経済紙ハンデルスブラット「桜田氏、サイバーセキュリティ大臣にあってはならない知識の欠如をさらけ出す」

トップがパソコンを使わないと、報告はPDFを印刷した紙で行うことになります。すると情報共有が遅れ、処理に手間取る上、組織のペーパーレス化、ICT(情報通信技術)化に支障が出ます。

しかし桜田氏がサイバーセキュリティ責任者として相応しくないと批判して済まされる問題なのでしょうか。

パソコン普及率

100人当たりパソコンを持っている割合はワールドアトラスによると、

(1)スイス 65台

(2)米国 57台

(3)スウェーデン、デンマーク 51台

(5)ノルウェー 49台

(6)バミューダー諸島、シンガポール 48台

(8)オーストラリア 47台

(9)ルクセンブルク 46台

(10)カナダ 42台

(11)香港 40台

日本はトップ10に入っていません。

スマホ普及率

スマートフォン(多機能携帯電話)の普及率はnewzooというサイトによると

(1)英国 82.2%

(2)オランダ 79.3%

(3)スウェーデン、ドイツ 78.8%

(5)米国 77%

(6)ベルギー 76.6%

(7)フランス 76%

(8)スペイン 72.5%

(9)カナダ 72.1%

(10)オーストラリア 68.6%

(11)韓国 67.6%

やはり、日本はトップ10に入っていません。

(18)日本、中国 55.3%

4Gのアクセス率

4Gのアクセス率(時間)はOpenSignalというサイトによると

(1)韓国 97.49%

(2)日本 94.7%

(3)ノルウェー 92.16%

(4)香港 90.34%

(5)米国 90.32%

4Gの普及では日本は韓国に次いで世界2位です。

FAXをまだ使っている

日本のICT化が遅れている象徴として良く例に出されるのが、FAXとカセットテープ、現金決済です。FAXは稟議や決裁、押印、係長・課長・部長・取締役・社長と何度も繰り返される意思決定といった日本のビジネス習慣が深く関係しているのでしょう。

完全オフラインの桜田氏は「究極のサイバーセキュリティ対策を実践している」と皮肉られていますが、サイバー犯罪を未然に防ぎ、将来の裁判対策としてFAXを使うケースが増えてきているのも確かです。

キャッシュレス化

キャッシュレス化はforexbonusesというサイトによると

(1)カナダ 6.48点

(2)スウェーデン 6.47点

(3)英国 6.42点

(4)フランス 6.25点

(5)米国 5.87点

(6)中国 5.17点

(7)オーストラリア 4.92点

(8)ドイツ 4.14点

(9)日本 3.12点

(10)ロシア 1.95点

ここでも日本はかなり遅れを取っています。

ロボットやAIが普及してもなくならない究極の仕事

世界経済フォーラムの報告書「仕事の未来2018年」によると、ロボットや人工知能(AI)が普及してもなくならない仕事は次のようなものです。

取締役、最高経営責任者(CEO)、一般・オペレーション管理職、ソフトやアプリの開発者とアナリスト、データのアナリストとサイエンティスト、セールスとマーケティングの専門家、営業、卸売および製造、技術の担当者、人事担当者、財務や投資のアドバイザーなどです。

政治家をロボットやAIに置き換えたら政策決定過程が大幅に改善するという指摘もありますが、政治家はどんなに技術革新が進んでも最後の最後まで残る仕事なのかもしれません。

政治は理性より感情で動く生き物だからです。AIに人生の不条理を理解するのは不可能でしょう。

電子メールは滅多に使わないトランプ米大統領

「ツイッター大魔王」として知られるドナルド・トランプ米大統領ですが、電子メールやインターネット、コンピューター全盛時代に懐疑的だと報じられています。

トランプ大統領は間違いなく感情の産物です。

かつてこう語ったことがあります。「コンピューターは私たちの生活を非常に複雑にした。コンピューターの時代、誰も何が起きているのか正確には知らない。必要なセキュリティが施されているのか私には分からない」

先の米大統領選でロシアによるサイバー攻撃が明らかになり、電子投票の危険性が強調されました。セキュリティが確立されるまで、ICT化を決して急いではならない分野もあるようです。

筆者には桜田発言を物笑いにすることはできません。ICT先進国から見ると随分取り残されてしまった日本や自分自身を笑うことになるからです。

AIの技術革新が目覚ましい中、仮にパソコンやスマホを使っていたとしても新しい知識やスキルを吸収する努力を続けない限り、桜田氏と大して変わらないのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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