寛容の国スウェーデンで極右が台頭するワケをグラフで見える化してみた

スウェーデン民主党のオーケソン党首(写真:ロイター/アフロ)

ネオナチに起源を持つスウェーデン民主党

[ロンドン発]「寛容と国」として知られる北欧スウェーデンの議会選(定数349、比例制)の投開票が9日行われます。右派と左派のポピュリズムが欧州を席巻する中で、ネオナチに起源を持つスウェーデン民主党が躍進するのは確実な情勢となっています。

同党のジミー・オーケソン党首(39)は8日夕、「ジミー、ジミー」という歓声に迎えられてストックホルムの広場に登壇。「ステファン・ロベーン首相の退陣を欲しているのは誰だ」と叫ぶと、支持者は「我々だ」と応じました。

オーケソン党首は「私たちの国が安全だったことは一度もない」と危機感をあおりました。同党が攻撃するのはスウェーデン社会に同化しないイスラム系移民、難民、犯罪の多発、ソーシャル・リベラリズム(社会自由主義)、多文化主義です。

そしてスウェーデン民主党は、自国の主権を弱体化させているとして欧州連合(EU)からの離脱を唱えています。

一方、続投を目指す社会民主労働党のロベーン首相は「スウェーデン民主党に投票するのは火に油を注ぐようなものだ。危険で逆効果」と有権者に慎重に投票するよう呼びかけました。

なぜ、完全雇用、高福祉高負担の成功モデルとされ、格差の少ないスウェーデンで、極右政党が台頭してきたのでしょうか。

戦争と危機のオンパレード

過去の議会選と欧州議会選でのスウェーデン民主党の得票率と主な出来事を見てみましょう。

欧は欧州議会選の意味
欧は欧州議会選の意味

2001年、米中枢同時多発テロ(9・11)、アフガニスタン戦争

03年、イラク戦争

04年、欧州連合(EU)拡大で旧東欧諸国、バルト三国の10カ国が新規加盟

08年、世界金融危機

10年、欧州債務危機

11年、シリア内戦、リビア内戦

15年、欧州難民危機

9・11以降、アフガン・イラク戦争で中東・北アフリカ地域が不安定化し、難民が大量に発生する一方、欧州でイスラム過激派のテロが多発するようになり、「欧州のイスラム化」をあおる反移民・難民の極右勢力が台頭してきました。

EU拡大と欧州債務危機で経済格差の大きい域内加盟国間の人の移動が激増します。

スウェーデンではマイナス金利政策が導入され、金利を生活費の一部にしてきた高齢者の懐を直撃。その一方で、成長分野の産業は借金がしやすくなり成長の勢いを増しました。

激変する人口構成

20世紀初め、スウェーデンの人口は510 万人で、外国生まれは3万6000 人弱。外国生まれの比率は0.7%に過ぎませんでした。第二次大戦中に他の北欧諸国やバルト三国を逃れた難民が流入し、高度成長期の50~60 年代に北欧諸国からの移民を受け入れます。

ハンガリー動乱、旧ユーゴスラビア紛争やアフガン・イラン戦争などのたび難民を積極的に受け入れ、「人道大国」と称賛されます。17年に人口は1012万人まで増えましたが、このうち外国生まれは188万人、移民二世は56万人。外国背景を持つ人口割合が24.1%に達しています。

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上のグラフをみると、外国生まれ人口と移民二世を合わせた外国背景を持つ人口割合が、ベルリンの壁崩壊後、急増し、スウェーデン社会の人口構成を激変させたことが分かります。これに15年の欧州難民危機でなだれ込んだ16万3000人の難民が加わりました。

悪化する治安

スウェーデンの犯罪防止国民会議の調査では16年に国民の15.6%が暴行や脅迫、性犯罪、強盗などの被害に遭っていました。前年の13.3%から上昇し、06年に統計がとられるようになってから最悪を記録。05~14年には平均0.9%だった性犯罪は2.4%に跳ね上がり、若い女性の14%が被害を訴えていました。

移民2世、3世の若者がギャング団を結成し、銃を使った殺人が多発するようになり、1990年代は年4件だったのが昨年は10倍の約40件にまで膨れ上がりました。銃撃事件は306件。

今年8月には南西部ヨーテボリ郊外で100台以上の車が放火され、容疑者の1人がトルコで拘束される事件が発生しました。

15歳以上への犯罪の届け出数は1990年代から急増しました。

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昨年4月にはストックホルムで過激派組織IS(「イスラム国」)に参加するウズベキスタンの亡命申請者がトラックを暴走させ、5人を殺害、14人を負傷。イスラム過激派のテロが多発し、それに呼応するように極右のテロも起きています。

もはやスウェーデンは「安全、安心な国」とは言えなくなってしまったのです。

広がる格差

スウェーデンの成長率は3.3%。失業率は6%。穏健党のカール・ビルト首相(1991~94年)、フレドリック・ラインフェルト首相(2006~14年)時代に市場主義を導入しました。

格差を表すジニ係数(1に近づくほど格差が広がる)はネオリベラリズムの旗手だった米国や英国に比べるとまだまだ低いとは言うものの随分、上昇しました。

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上のグラフで灰色は不動産や株式といった資産価値の上昇(キャピタルゲイン)を含めたジニ係数が急上昇していることが一目瞭然です。低成長時代に生産性を上昇させるためには、優秀なヒトと資本を成長分野に集中させる必要があります。

その陰で非生産的とみなされた人はどんどん切り捨てられてしまうのです。

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コスト競争力を維持するため労働市場をフレキシブルにした結果、パートタイムと短期契約を合わせた非正規雇用は一時40%を超えました。もっと長く働きたい、もっと良い賃金の仕事に転職したいと望んでいる労働者はかなり多いはずです。

15年時点の国民負担率は56.9%で、日本の42.6%(財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は48.7%)より高くなっています。その意味ではスウェーデンはまだまだ世界に冠たる福祉国家と言えます。

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しかし生粋のスウェーデン人とニューカマーの移民や難民を同じように遇しようという寛容の精神が人々をますます不寛容にしてしまうのです。

完全雇用、高福祉高負担の「スウェーデン・モデル」は国境が閉じられていた時代のモデルであって、オープン・プラットフォームのグローバル時代に入って崩壊し始めています。

ポピュリズムの源泉

移民がそれほど多くなかった時代は犯罪もテロも少なくて、格差がなくて良かったとノスタルジーに浸る人が増えても何の不思議もありません。未来を想像するのは難しく、多くの人は過去と現在を比べながら生きているからです。

スウェーデン民主党の台頭を右派ポピュリズムや極右といった言葉で片付けるのは簡単です。しかし移民や難民をスケープゴートにするスウェーデン民主党の主張が正しいと信じて投票している人が果たしてどれだけいるのでしょうか。

スウェーデン民主党の得票は既存政党への批判の裏返しです。スウェーデン民主党を批判して済ませるのは、原因を作り出した自らの責任に頬かむりして結果を批判しているのと同じことです。

所得配分と富の再分配の機能を回復させるためには緊急避難措置として人の自由移動にブレーキをかける必要があります。スウェーデンは加盟しているわけではありませんが、単一通貨ユーロ圏の共同債を発行してEU全体のインフラ整備を進める21世紀のマーシャル・プランのような大胆な構想が求められているのです。

英国のEU離脱決定を教訓に、加盟国の民主主義を次第に壊死させていくEUの桎梏を緩めてやり、柔構造への設計変更は避けては通れないと思うのですが、皆さんはどうお考えですか。

(おわり)