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中国で3万8千頭の豚が殺処分「死の病」アフリカ豚コレラが中国と欧州で拡大 清浄国の日本も警戒

木村正人在英国際ジャーナリスト
ロシアで発生したアフリカ豚コレラ(写真:ロイター/アフロ)

8月に中国で第1例

[ロンドン発]中国国営新華社通信によると、同国で8月に初めて確認されたアフリカ豚コレラ(ASF)の感染が5省に広がり、9月1日の時点で3万8000頭以上の豚が殺処分にされたそうです。

ASFはバルト三国やポーランド、ルーマニアなど欧州連合(EU)域内でも拡大しており、国連食糧農業機関(FAO)は注意を呼びかけています。

日本上陸はまだ確認されていないものの、訪日客は年に中国735万人、欧州152万人にのぼります。ASFに感染した豚のふんが旅行者の靴に付着してウイルスが日本国内に持ち込まれる恐れもあり、農林水産省や養豚農家は警戒を強めています。

農林水産省HPより
農林水産省HPより

農水省や国際獣疫事務局(OIE)によると、ASFはアフリカ豚コレラウイルスがダニの媒介や直接的な接触、豚やイノシシのよだれやふんを介して豚やイノシシに感染していく伝染病です。致死率は100%に近く、2~10日間で死亡。発熱、食欲不振、全身や内蔵の出血性病変が特徴です。

有効なワクチンや治療法がなく、 感染が拡大した場合、畜産業界への影響は甚大です。人への感染はありません。

日本ではこれまでASFの発症は確認されたことがありませんが、家畜伝染病予防法で「家畜伝染病」に指定され、患畜・疑似患畜を見つけた場合、速やかな届出と殺処分が義務付けられています。

中国とEUは2大生産地

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中国とEUは豚の2大生産地です。世界最大の生産国である中国では8月初めに遼寧省で同国第1例目のASF発生を確認しました。

同月1日に農家の豚にASFらしき症状が現れ、飼っていた383頭のうち47頭が発病、47頭が死亡。同月3日になって動物衛生・流行病学センターがASFと診断しました。

中国の農業農村部はASF緊急計画に基づき、封鎖、殺処分、無害化処理、消毒を行い、封鎖された地域への豚、感染しやすい動物、物品の持ち込み・持ち出しを禁止しました。

これまでに遼寧省、河南省、江蘇省、浙江省、安徽省で7例のASF発症を確認し、3万8535頭の殺処分を行いました。河南省で発症した豚は2000キロ離れた黒龍江省の市場から運ばれていました。

浙江省と江蘇省は、日本との行き来が多い大都市・上海市に隣接しています。

農業農村部は8月31日、ASFを含めて動物疾病の発生予防と管理に関するビデオ会議を開催。9月1日時点で2303万5000農場、1億300万頭の豚の検査を終えたそうです。

アフリカから欧州に侵入

ASFは1978~81年にブラジルで、78~84年にハイチで大流行したことがあります。欧州では60年にスペインやポルトガル、イタリアのサルデーニャで確認されました。

93年のポルトガルに続き、95年にはスペインが根絶に成功。85年にベルギーで、86年にオランダでも限定的に流行しましたが、根絶されました。欧州においてASFはサルデーニャの地方病として残りました。

農林水産省HPより
農林水産省HPより

しかし2006年末ごろ、ASFは再びアフリカから欧州に侵入し、07年にジョージアで発症が確認されます。

その後、アルメニア、アゼルバイジャン、ロシア、ウクライナへと広がり、14年以降、バルト三国やポーランド、ルーマニアへと一気に拡大していきます。

対策急ぐ欧州

英紙ガーディアンは「『これはもしではなく、いつの問題だ』。豚の死の病が世界中に拡大する」と報じています。感染拡大のスピードがこれまで以上に速く、世界の半分近い豚を生産する中国にも飛び火したからです。

野生イノシシはASFウイルスを保有したまま移動するため、感染地域を広げます。感染した豚を処理した肉の中のウイルスや、衣服、靴、土に付着したウイルスの生存期間は長く、感染経路を完全にシャットアウトするのは至難の業です。

ロシアでは08~12年に、約10億ドル(1100億円)の被害が出ました。スペインやポルトガルはASFを根絶するのに30年以上かかりました。

こうしたことから、EU最大の生産国ドイツでは、養豚農家がASFウイルスを媒介する野生イノシシの70%を駆除するよう求めています。

デンマークでは野生イノシシの侵入を防ぐためドイツとの国境にフェンスを張り巡らすことを計画しています。ASFがデンマークで発生するのも時間の問題だとして、ASFが流行した場合、最大100億デンマーク・クローネ(1730億円)の被害を想定しています。

16年と17年に世界で30万頭以上の豚が殺処分にされました。EUはASFの拡大防止のため120万ユーロ(1億5465万円)を関係国に配布しました。

ちなみに、1971年にキューバでASFが流行し、50万頭の豚が殺処分にされたのは、米中央情報局(CIA)の工作員がウイルスをキューバに持ち込んだからだという疑惑が報じられたことがあります。

一度、上陸を許すと、感染した豚のふんが着いた車などによって一気に拡大する恐れがあります。備えあれば憂いなし。訪日客が多い隣国・中国でのASF発生を受け、日本でも警戒が必要なのは言うまでもありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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