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【W杯現地報告】「赤い悪魔」対「サムライ」ベルギーはやはり強かった 一瞬のスキ突かれた日本代表

木村正人在英国際ジャーナリスト
2018 FIFA W杯 決勝トーナメント1回戦 日本はベルギーに逆転負け(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

スーパーカウンター攻撃に沈む

[モスクワ発]サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の決勝トーナメント1回戦(ロストフ・ナ・ドヌ)。日本は終了間際の後半49分、ゴールキックのチャンスから一転、ベルギーの「スーパーカウンター攻撃」に沈み、悲願のベスト8進出はかないませんでした。

日本代表のサムライ・ブルー、西野朗監督、そして日本サポーターの皆さん、本当にご苦労様でした。1次リーグの第3戦、ポーランド戦で時間稼ぎのパス回しが「茶番」「日本と日本人の恥」とまで批判された日本代表でしたが、最後まで「サムライ」の名にふさわしい戦いぶりを見せてくれました。

大会直前のヴァヒド・ハリルホジッチ前監督解任に始まり、ピッチ外のごたごたが続いた日本代表ですが、サムライと西野監督の結束は私たちが考えていた以上に強かったようです。日本の長所は速いパス回しと組織力、チームワーク、そして自己犠牲の精神です。サムライが見せたサッカーは見事なまでに日本の美しさを表現していました。

攻撃力はよく切れる日本刀そのもの。そしてサムライらしく鮮やか過ぎるほど鮮やかに散ってしまいました。今大会で改めて突き付けられた高さと強さ、ゴールキーピングという限界は、日本人の体格が関係しているので、なかなか克服するのが難しいのかもしれません。日本にとって速いパス回しとボールを奪う組織プレーは最大の防御になっています。

48年ぶりの逆転劇

1次リーグ3連勝でG組を首位通過、FIFAランキング3位のベルギーは「赤い悪魔」の異名を取るだけあって、さすがに強かったです。W杯の決勝トーナメントで0‐2から逆転したのは1970年以来のことだそうです。

終了間際、わずか6秒で自陣ゴール前から速攻を仕掛け、日本ゴールを揺らした赤い悪魔の早業は鮮やかというしかありませんでした。

西野監督は試合後の記者会見で「2‐0でリードした時、選手を交代しなかったのは、もう1点ほしかったからだ。終了間際、フリーキックとコーナーキックを取った時、ゲームを終わらせたかった」と話しました。本田のコーナーキックがGKクルトワにキャッチされた時、あんな劇的な幕切れが待ち受けているとは夢にも思いませんでした。

 

日本の攻撃力は世界をアッと驚かせました。後半3分、レジスタ柴崎の長いスルーパスを受けた原口がワンテンポずらしてから左隅に先制ゴールを決めます。同7分、香川のパスを受けた乾が狙いすまして追加点。さすがのサムライも2点目でベスト8進出を意識し始めたのではないでしょうか。そのスキを赤い悪魔は見逃しませんでした。

選手は剣闘士ではない

ベルギー戦は移動の日程が合わず、モスクワの鉄道駅カフェでのテレビ観戦になってしまいましたが、サッカーの醍醐味を満喫させてもらいました。しかし、気になることがあります。

代表選手は、古代ローマ時代、コロッセウムで戦わされた剣闘士ではないということです。ポーランド戦、最後の10分間、まだ試合が終わっていないのにピッチ上のイレブンにブーイングを浴びせた日本サポーターはどういうつもりだったのでしょう。

「日本と日本人の評判を貶めた」という論評はどんなもんなんでしょう。

1次リーグは3試合トータルで戦うもので、批判するのは大会が終わってからでも遅くはなかったはずです。西野監督の、余力を残して決勝トーナメントに進むというのも作戦としては正しかったのではないでしょうか。

メディアは選手に負担をかけるな

選手とサポーターをつなぐメディアもポーランド戦の先発メンバーを前打ち記事で載せる禁じ手を使ってしまいました。西野監督は試合前の練習通りの先発メンバーを組むため、公開練習を見ると、先発メンバーが分かるそうです。

ポーランド戦前の練習は非公開でしたが、選手には先発メンバーが簡単に予想できました。メディア対策は日本サッカー協会や広報担当の仕事ですが、本田選手はツイッターでメディアにこんな苦言を呈しています。

大会中の選手のコメントの中には明らかにメディアに向けられたものが少なくありませんでした。

ベルギー戦は出番がなかった岡崎選手から「もっと、上手くなりたい」というお話を直接うかがったことがあります。日本代表を目指している選手は全員ストイックに、ただひたすら世界で勝つことだけを考えて日々、練習に励んでいます。

刺激的な見出しを掲げないと売れないのは分かりますが、もっと戦術的、技術的な話、メンタルな駆け引きについて突っ込んだ記事が読みたいと読者は思っているのではないでしょうか。

どうしてやる気のないポーランドから点が奪えなかったのか、ベルギーに対して2点のリードを守り切れなかったのはなぜか。今大会で方向性が見えた日本サッカーをこれからどう伸ばしていくのか。

建設的で、素晴らしい分析記事を期待しています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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