Yahoo!ニュース

世界経済の台風の目はやはりこの男「企業債務と保護主義、地政学リスク」世銀が警鐘 日本は人口減で低成長

木村正人在英国際ジャーナリスト
世界経済の台風の目はやはりこの男トランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

日本の成長率は2020年に0.5%に

[ロンドン発]世界銀行は5日、世界経済見通しを発表しました。世界経済は昨年に続いて今年も実質国内総生産(GDP)成長率で3.1%と横ばい状態です。

筆者作成
筆者作成

インドや低所得国の成長力が目立つ中、日本の成長率は昨年の1.7%から2018年1%、19年0.8%、20年には0.5%に落ち込むと予想されています。

日本の失業率は1990年代レベルまで下がっています。しかし石油の上昇が実質所得を侵食し、雇用の拡大は減速、膨れ上がった政府債務を支えるため2019年10月には消費税率が10%に引き上げられます。

こうしたことが成長を損ないます。長期的には高齢化と生産年齢人口の減少が重くのしかかってきます。

高齢者と女性の就労だけでは限界

ロンドンで記者発表した世界銀行のフランツィスカ・リーゼロッテ・オーネゾルゲ・リードエコノミストに日本の人口減少について質問しました。オーネゾルゲ氏はこう答えました。

世銀のオーネゾルゲ氏(筆者撮影)
世銀のオーネゾルゲ氏(筆者撮影)

「生産年齢人口の減少を補う方法はいくつかあります。まず移民を受け入れることです。次に労働参加率を上げることです。定年退職した人や女性の雇用を増やしていくことです」

極めて同質性の高い日本では移民はタブーとされてきましたが、外国人留学生・技能実習生がいなければ、さまざまな分野で人手不足を解消できなくなっています。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土志田るり子研究員は経済レポート「2030年までの労働力人口・労働投入量の予測」(今年3月)で次のように指摘しています。

「30年の労働力人口は6693万人と17年の水準を27万人下回るにとどまる。30年の就業者数は、17年と比べて23万人増加すると見込まれる。失業率は 17 年度の 2.8%から低下が続き、30年度には 2.1%に達する」

「非正規雇用者比率の上昇によって1人当たりの平均労働時間が減少するため、労働投入量は23 年から減少ペースが速まり、29 年にはリーマン・ショック直後の09年の水準を下回る。生産性を向上させる取り組みが遅れれば、その後の経済成長を阻害することとなる」

高齢者や女性、外国人が働きやすい環境をつくるとともに、ビッグデータや人口知能(AI)を活用して生産性を向上させることが急務になってきます。

中国の債務問題

中国の成長率は昨年6.9%、今年6.5%、19年6.3%、20年6.2%と減速していくと予想されています。今年第1四半期、中国は01年以来、初めて経常収支の赤字を記録しました。過去2年間で過剰生産能力は劇的に削減されています。

財政支出は抑制され、慎重な金融政策はシャドーバンキングに象徴される過剰な債務の拡大にブレーキをかけ続けています。非金融企業のGDPに占める債務の割合は減っているものの、積み上がった債務は膨大です。住宅市場は規制され、資本逃避を防ぐ規制も強化されています。レバレッジ取引も徐々に解消されています。

中国経済のダウンサイドリスクは金融セクターの脆弱性と保護主義の台頭です。

民間非金融部門への信用総量は対GDP比で210%に達しており、過去に金融危機が起きた日本やスペインのレベルに急接近しています。中国でも金融危機が起きるのか。中国の債務問題についても、世銀のオーネゾルゲ氏に質問しました。オーネゾルゲ氏はこう回答しました。

「中国の債務は急ピッチで膨らみました。しかし中国当局は数年間、住宅市場の規制、金融システムの監督といったさまざまな対策を講じています。政府債務は完全に管理できます。多くの緩衝帯があります。成長を維持しながら、十分に債務レベルをコントロールできます」

「中国の金融市場は世界とそれほど一体化しておらず、中国の金融不安が世界に与える影響は限定されています。それより中国の成長が減速する方が新興市場に与える影響は甚大です」

日銀の緩和策も出口に向かう

オーネゾルゲ氏は「中央銀行は次第に(量的緩和やマイナス金利といった)非伝統的金融政策を正常化させていくでしょう」と指摘しました。量的緩和を進めた日銀の国債保有残高は429兆円に達しています。米国や英国はまだしも、インフレ率が1%を超えない日銀も出口に向かうのでしょうか。

オーネゾルゲ氏いわく「日本や米国を含む先進国では18年から20年にかけ金融政策の正常化に向かうでしょう。成長率は潜在成長率を上回っています。中央銀行は非常にゆっくりと出口に向かうでしょう」

一方、新興・途上国の企業債務は17年までにGDPの86%に達しました。08年の世界金融危機前のレベルに比べると実に30%ポイントも上昇しました。

中国の企業債務を除くと、増加分の半分近くは外貨によるものです。先進国における金融政策の正常化で金利が上昇すると、新興・途上国の借り入れコストを押し上げます。また急激なドル高は外貨による借り入れの負担を増大させます。

世界経済の台風の目はトランプ

今後3年間で新興・途上国の借り換えが予想されることから、金利が急上昇すれば資金ショートする恐れがあります。

ドナルド・トランプ米大統領の主導する貿易戦争で関税が引き上げられれば、世界貿易量は9%も縮小する可能性があり、先進国より新興・途上国を直撃します。

さらに北朝鮮の核・ミサイル開発、宗派対立が激化する中東の混迷といった地政学上のリスクが膨らんでいます。ドル高、貿易戦争、地政学リスクの中心にいるのは間違いなくトランプ氏です。

オーネゾルゲ氏は「世界経済見通しは制御不能な金融市場の動き、貿易保護主義のエスカレート、地政学上の緊張の高まりといった顕著なダウンサイドリスクから逃れられない」と警鐘を鳴らしています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事