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王子さまと野宿者の残酷な対比 挙式に48 億円 ロイヤルウェディングのリハーサル本番ムード 狙撃手も

木村正人在英国際ジャーナリスト
ウィンザーの街はメーガンさんとヘンリー王子の結婚ムード一色(筆者撮影)

戦友・グルカ兵もパレード

[ウィンザー発]アメリカの人気女優メーガン・マークルさん(36)と英王位継承順位6位のヘンリー王子(33)の結婚式を2日後に控えた17日午前、ロンドン西郊のウィンザー城で本番さながらの結婚式リハーサルが行われました。馬車パレードの予行演習を一目見ようとウィンザー城周辺はたくさんの地元住民や観光客で埋まりました。

馬車パレードのリハーサル(筆者撮影)
馬車パレードのリハーサル(筆者撮影)

近衛兵や衛兵、英軍の各部隊、最強の兵士として名高いネパールの山岳民族で構成されるグルカ兵もリハーサルに参加しました。結婚式当日に使われる天蓋なしの馬車はさすがにこの日は見ることはできませんでしたが、代わりの天蓋付き馬車がパレードを始めると、沿道から歓声が沸き起こりました。

ヘンリー王子の戦友・グルカ兵も行進(筆者撮影)
ヘンリー王子の戦友・グルカ兵も行進(筆者撮影)

自分でデッサンして作ったお手製レプリカの「大英帝国王冠」を着けてリハーサルを見学しに来たウィンザー在住のキャロライン・ワグスタッフさん(58)はこう声を弾ませました。

お手製の「大英帝国王冠」をかぶるキャロライン・ワグスタッフさん(筆者撮影)
お手製の「大英帝国王冠」をかぶるキャロライン・ワグスタッフさん(筆者撮影)

「ロイヤルウェディングを生で見るのは今回が初めて。英王室にアメリカ人でミックスレースのメーガンさんが加わるのは素晴らしい。旅行客やビジネスをイギリスに呼び込んでくれるはずよ」

追っかけさんの「特等席」

ロイヤルファミリーの追っかけさん(筆者撮影)
ロイヤルファミリーの追っかけさん(筆者撮影)

キャサリン妃とウィリアム王子の結婚、ジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子の出産には必ず泊まり込みでやってくる常連の追っかけさんたちもウィンザー城前に「特等席」を作って陣取っていました。

常連のテリー・ハットさん(82)に「昨晩は寒かったのではないですか」と声をかけると、「若い頃、軍隊で鍛えたから心配しないで。準備さえすれば、すぐにどこでも熟睡できるよ」との答えが返ってきました。

観光客との記念撮影に大忙しのテリーさん(左、筆者撮影)
観光客との記念撮影に大忙しのテリーさん(左、筆者撮影)

「ロイヤルウェディングと聞けば響きは良いけれど、王族には結婚して王位継承者を増やす使命があり、ミッション・マリエッジです。メーガンさんとヘンリー王子は恋に落ちての結婚。本当のラブ・マリッジ。2人の間にはトゥルー・ラブ(真実の愛)があります」とテリーさんは表情を崩しました。

対ドローン砲や狙撃手も配置

文字通り、戦友のグルカ兵との友情はヘンリー王子がアフガニスタンに従軍した時に築かれました。しかしイスラム過激派テロリストの恨みを買って、天蓋のない馬車に乗ったヘンリー王子とメーガンさんが狙撃手の標的になるかもしれないと報道されました。

半自動小銃を持つ警官(筆者撮影)
半自動小銃を持つ警官(筆者撮影)

この日のリハーサルでも半自動小銃で軽武装した警官が街頭で警戒に当たりました。テロリストを狙撃するライフルを入れているとみられるサイズの長い黒色バッグを肩にかけた警官2人がビルから出てくるのも目撃しました。

結婚式プランニング会社の試算では、挙式費用は総額3200万ポンド(約47億8800万円)。結婚式そのものに200万ポンド(約3億円)、警備費にドローンを妨害電波で墜落させる装置100万ポンドを含め3000万ポンド(約44億8900万円)。費用の内訳は次の通りです。

・銀製トランペット20本9万ポンド(約1346万円)

・レモン・エルダーフラワーケーキ5万ポンド(約748万円)

・花輪11万ポンド(約1645万円)

・ウィンザー城に招かれた市民に振る舞われる銀のお皿に盛ったソーセージロール2万6000ポンド(約389万円)

・レセプション会場になるガラス製テント30万ポンド(約4489万円)

ウェディングドレスは6000万円か

注目のウェディングドレスは、メーガンさんが婚約写真の時に着た特注のドレス(5万6000ポンド)をつくったオーストラリア出身のデザイナー、ラルフ&ルッソが手掛けると報じられており、お値段は30万~40万ポンド(4489万~5985万円)とみられているそうです。

しかし、これはあくまで推測で、当日になってみないと、メーガンさんがどんなウェディングドレスを着るかは分かりません。

ちなみにチャールズ皇太子とダイアナ妃の挙式費用は8400万ポンド(約125億7000万円)。ウィリアム王子とキャサリン妃は2000万ポンド(約30億円)。キャサリン妃のウェディングドレスはアレクサンダー・マックィーンのブランドデザイナー、サラ・バートンさんの作品で 25万ポンド(約3740万円)でした。

メーガン効果

リハーサルで盛り上がるファン(筆者撮影)
リハーサルで盛り上がるファン(筆者撮影)

ウィンザーの商店街や住宅にはイギリス国旗のユニオンジャックとアメリカ国旗の星条旗が飾られ、メーガンさんとヘンリー王子の結婚ムード一色。小売店の女性店主は「観光客が増え、関連グッズの売れ行きも絶好調よ」と話しました。

コンサルティング会社ブランドファイナンスによると、2人の結婚の経済効果は今年だけで10億ポンド(約1500億円)以上。内訳はレジャー・宿泊費・旅行・交通費3億ポンド(約449億円)。さらに次のような経済効果が期待できるそうです。

・イギリス・ブランドのPRと放映権3億ポンド(約449億円)

・リーテール・レストラン2億5000万ポンド(約374億円)

・ファッションにおけるメーガン効果1億5000万ポンド(約224億円)

・記念コイン・切手・マグカップ・バルーン5000万ポンド(約75億円)

ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式でイギリスへの旅行者は年間35万人増えました。ちなみに昨年の王室効果は年間18億ポンド(約2693億円)。英王室の資産価値675億ポンド(約10兆1000億円)。イギリス国民1人当たりのコストは年4.5ポンド未満(673円、1日1ペニー強)だそうです。

メーガン効果

イギリスは通商国家です。トレーダーというか、商売人の国なんですね。日本の皇室と違って、算盤勘定ができなければ「ロイヤルファミリー株式会社」のメンバーは務まりません。

アメリカで大成功を収めた人気女優のメーガンさんがロイヤルファミリーに加わったことで一気にマーケットが世界最大の経済大国アメリカに広がったのです。

メーガンさんとヘンリー王子が婚約を正式に発表した数時間後にはカナダのオンライン宝石店が3つのダイヤモンドをはめ込んだ同じデザインの婚約指輪を販売。他のスタイルに比べて売れ行きは15%もアップしました。

メーガンさんが着ていた「Line」というブランドの白コートはすぐに売り切れ、サイトはクラッシュしてしまいました。いわゆるメーガンさんが身に着けたことで売り上げが増える効果は1億5000万ポンド(約224億円)と推計されています。昨年、英王室全体で同じ効果は2億ポンド(約299億円)だったそうです。

ブランドファイナンス社のデービッド・ハイ最高経営責任者(CEO)はこう話しています。

「メーガンさんは世界的な人気と強力なパーソナルブランドを持った熟練した女優です。そこに王室ブランドが加わり、特に彼女の出身地であるアメリカでイギリス・ブランドの強力な大使になるでしょう」

「私たちは『メーガン効果』の初期段階を見ているに過ぎないのに、メーガンさんはファッション産業への信じられない影響力で素早くキャサリン妃に肩を並べるか、いや追い越すことになるでしょう」

野宿死5年間で230人

国内外のメディア5000社以上がメーガンさんとヘンリー王子の結婚式を取材します。残念ながら結婚式でメーガンさんの手を引いて礼拝堂のバージンロードを歩く予定だった父親トーマス・マークルさん(72)は体調不良のため結婚式への出席を正式に取りやめました。

2人は自分たちへのお祝いの代わりに、スポーツ活動を通じた社会支援、女性の社会進出、自然保護、環境問題、ホームレス保護、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者や傷痍軍人の支援団体への寄付を呼びかけています。

ウィンザーでもホームレスが目立つ(筆者撮影)
ウィンザーでもホームレスが目立つ(筆者撮影)

ウィンザーを取材中に少なくとも4人のホームレスを見かけました。そのうちの1人、ワインさん(42)は仕事を失い、1年前から路上で暮らすようになりました。ウィンザーは彼女と別れた場所だと言います。「シェルターに行かないの」と尋ねると、「ウィンザーにはシェルターがないんだ」とワインさんは話しました。

ホームレスのワインさん(筆者撮影)
ホームレスのワインさん(筆者撮影)

今年1月、ウィンザーの保守系地方議員がロイヤルウェディングを前に警察を使ってホームレスを立ち退かせようと要求したことがあります。結婚式の日が近づくにつれ、警察やチャリティー団体が簡易シェルターのバスに移動するようホームレスに声をかけています。

しかし彼らは動こうとはしません。ロイヤルウェディングは彼らにとっても稼ぎ時だからです。

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英政府のデータでは野宿生活者は2010年の1768人から昨年は4751人まで増えました。賃金の底上げを図るため法定生活賃金が導入されたものの、社会保障費が削られたため落ちこぼれる人が出てきたのです。13年以降、路上で死亡したホームレスは合計で230人を超えました。

ホームレスの増加は保守党政権の失政が原因とは言うものの、「奴隷と王様」の血を引くメーガンさんとプリンスの結婚は図らずもウィンザー城で結婚式を挙げる王子様と野宿死の運命が待ち受けるホームレスの残酷な対比を浮かび上がらせています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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