テレビ朝日の女性記者に「はめられた可能性は否定できない」自爆発言繰り返す麻生財務相の迷宮

自爆発言を繰り返す麻生財務相(写真:ロイター/アフロ)

政官一体の迷走

[ロンドン発]テレビ朝日の女性記者に対する福田淳一前財務事務次官のセクハラ問題で、麻生太郎財務相の「問題発言」が止まりそうにありません。

「いかなるセクハラも女性の社会参加を阻むもので絶対に許されません。財務省として厳正に対処する」と発言すればいいものの、麻生氏にはそれがどうにもできないようです。

11日の衆院財務金融委員会での発言は次の通りです。

「(福田氏がはめられて訴えられているんじゃないかとか、ご意見はいっぱいあると発言したことについて)よく言われている話で、そういう可能性は否定できない。本当に事実かもしれない。(福田氏の)裁判で結果がきちんとされていくと思う」

「あの場で言ったのは不適切だったというのであれば、そうなるかもしれない」「(福田氏)本人が(セクハラは)ないと言っている以上、私どもとしてあるとはなかなか言えない」「個人としていかがかと聞かれたからお答えした。財務大臣としては(セクハラを)認めた」

これが財務相の国会答弁だと思うと情けなくなります。かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(エズラ・ヴォーゲル著)と言われた日本ですが、その原動力だった官僚の信頼は失墜し、政官が一体となって迷走しています。

これまでのセクハラ問題をめぐる麻生発言を各紙報道や大臣会見の記録から振り返っておきましょう。

4月12日発売の週刊新潮がセクハラ問題をスクープ

4月12日、自派のパーティー後の懇親で(週刊新潮)

「(セクハラが嫌なら)次官担当を男性記者に代えればいい」。麻生氏側は「記録がなく確認できない」

4月17日の閣議後記者会見

「状況がわかるようにするために、相手の音声の持ち主、声の人が出てこなければいけないでしょう。その声の人達は財務省には来にくいだろうと思ったから弁護士にということを申し上げているのだということで、本人が申し出てこなければ、どうしようもないですね」

4月18日、福田氏が辞任

4月19日(日本時間20日午前)、ワシントンで20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議後の記者団の取材に

「出された(テレビ朝日の)抗議文というのは一枚紙で書いてありましたんで、もう少し大きな字で書いてもらった方が見やすいなと思った程度ぐらいに読みましたよ」「(福田氏の実績は)この一件をもって全否定されるべきものではないというように思っております」

4月24日の閣議後記者会見

「(福田氏が)はめられて訴えられているのではないかとか、いろいろ御意見は世の中いっぱいありますので、(福田氏)本人の人権も考えて、本人の話も向こう(テレビ朝日の女性記者)の話も双方伺った上でないとなかなか決められないと思いますけれども」

5月4日、黒田東彦日銀総裁との共同会見

「役所に対しての迷惑とか、役所に対していろいろな意味で品位を傷つけたとか、いろいろな表現があるでしょうけれども、そういった意味であの種の処分をさせていただきました」

「セクハラ罪という罪はないのですよね。殺人とか傷害とは違いますから。訴えられない限りは、親告罪ですから。少なくともそういった状況ですから、向こう(テレビ朝日の女性記者)にまだ言われていないわけですから、抗議が来ただけで、別に」

5月8日の閣議後記者会見

「セクハラ罪は親告罪であって、意味わかりますか。これは親告をされたことによって、訴えられているという話も伺っていませんから、私どもとしてはセクハラ罪という罪はないということなのであって、事実を申し上げているだけです」

「私どもは最初からこのセクハラが事実だとすればアウトと、これは最初から言っていましたから。こういったような話は、いわゆる傷害罪とかと違って相手側から訴えられない限りは、親告罪ですから。その話は私どもとしては基本的には今申し上げた事実に基づいてやっていかなければなりません」

麻生氏は論点を整理せずに発言しているので、問題をさらに複雑にしているようです。

(論点1)麻生氏は、テレビ朝日の女性記者に対する福田氏のセクハラを認めているのか

財務大臣としては「(セクハラを)認めた」ので、個人的な意見は述べる必要はありません。だれも麻生氏の個人的な意見を聞こうとは思っていません。女性記者が隠し録音していた音源を聞く限り、福田氏のセクハラに疑いを差し挟む余地はありません。

(論点2)福田氏と働く女性2531万人のどちらが日本に貢献しているか

麻生氏は「(福田氏と)6年ぐらい直接の縁がありましたけれども、その間の仕事ぶりを見ましても別に遜色はありませんし、私の4~5人の次官の付き合いの中ではそう思っております」と福田氏を擁護しています。

しかしセクハラを擁護していると受け取られかねない発言をすると、働く女性2531万人にとって大きなマイナスになります。すでに処分を下したセクハラ官僚を守ることに、一体どんな意味があるのでしょう。

福田氏1人と働く女性2531万人の日本に対する貢献度は後者の方が大きいのは言うまでもありません。

(論点3)テレビ朝日の女性記者の隠し録音に福田氏は「はめられた」のか

日本ではいわゆる囮(おとり)取材は一般的ではありませんが、イギリスでは日常的に行われています。囮取材や潜入取材以外に真実を伝える手段がない場合は許されるのではないでしょうか。

日経新聞に買収された英高級紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は裕福なオール・メンズ・クラブのチャリティー・ディナーに女性記者2人を送り込み、大衆紙のタブロイド顔負けの潜入ルポを書きました。360人の男性ゲストを相手に、ピチピチの黒服を着たコンパニオンに扮したのです。

高級ホテルの会場では男性のエリート層が信じられないような行為に及びます。男たちはコンパニオンたちの体をまさぐってセクハラ行為をしたり、体の関係を求めてきたりしたのです。男性器を出してコンパニオンに見せたという証言もあったそうです。

日経新聞やテレビ朝日にもFT紙に負けないようにセクハラ退治に取り組んでほしいものです。

(論点4)セクハラは親告罪か

かつて強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪、準強姦罪は親告罪であり、被害者側の告訴がなければ公訴を提起することができませんでした。事件が公になると被害者の不利益になることがあるため、訴追するか否かは被害者の意思に委ねられていました。

昨年の刑法改正で「強制わいせつ及び準強制わいせつの罪」「強制性交等及び準強制性交等の罪」は被害者の告訴がなくても起訴できるように改められ、親告罪の規定が削除されました。告訴するか否かを被害者の意思に委ねていることが負担になっているという声が強まってきたからです。

性的な言動や卑わいな行為などの性的嫌がらせは「痴漢」に当たり、迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪が適用されます。迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪は親告罪ではありません。

確かにセクハラと言っても範囲が広く、「セクハラ罪」という名前の罪はありません。しかし福田氏の行為は犯罪を構成する疑いが十分にあり、被害者側の告訴は必要ではありません。

(論点5)安倍vs反安倍

麻生氏は安倍晋三首相の盟友であり、政権の大きな柱です。しかし財務省は森友学園への国有地売却問題や福田氏のセクハラ問題で大揺れです。反安倍の野党、安倍1強を苦々しく思っている自民党内の反安倍勢力も麻生氏の去就をめぐって、手ぐすねを引いています。

安倍首相に食い込む経済産業省とそれ以外の省庁の熾烈な権力闘争も背景にあるでしょう。無恥というか、無知と非常識をさらけ出した麻生氏が安倍首相の防波堤になっているかと言えば、もはや安倍政権のブラックホールと化しています。

最後に、各メディアの世論調査から内閣支持率を見てみましょう。

NHK(4月6~8日)不支持率45%、支持率38%

共同通信(4月14、15日)不支持率52.6%、支持率37%

読売新聞(4月20~22日)不支持率53%、支持率39%

毎日新聞(4月21、22日)不支持率49%、支持率30%

産経新聞・FNN(4月21、22日)不支持率54.1%、支持率38.3%

日経新聞・テレビ東京(4月27~29日)不支持率51%、支持率43%

朝日新聞(3月中旬~4月下旬)不支持率56%、支持率36%

麻生氏だけでなく、安倍政権もすでに「危険水域」に突入しているようです。

(おわり)