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「ダイアナ2.0」目指すメーガン・マークルさんとヘンリー王子が結婚式に込めた心温まるメッセージ

木村正人在英国際ジャーナリスト
昨年12月、ノッティンガムを訪れたヘンリー王子とマークルさん(筆者撮影)

「私たちの贈り物より寄付を」

[ロンドン発]1992年、チャールズ皇太子と故ダイアナ元皇太子妃の結婚生活の破綻を暴露したミリオンセラー『ダイアナ妃の真実』で世界中にセンセーションを巻き起こした英作家アンドリュー・ モートン氏が新著『メーガン:ハリウッドのプリンセス』の出版に合わせて11日、ロンドンで記者会見しました。

筆者の質問に答えるモートン氏(筆者撮影)
筆者の質問に答えるモートン氏(筆者撮影)

ヘンリー王子(33)と米女優メーガン・マークルさん(36)の結婚式は5月19日、ロンドン郊外のウィンザー城にある聖ジョージ礼拝堂で執り行われます。モートン氏の新著によれば、メーガンさんは16歳の頃からダイアナ元妃にあこがれ、「ダイアナ2.0」を目指しているようです。

2人は「もし私たちへの贈り物を考えられておられるようでしたら、チャリティーへの寄付をお願いします」とスポーツ活動を通じた社会支援、女性の社会進出、自然保護、環境問題、ホームレス保護、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)陽性者や傷痍軍人への支援を呼びかけています。

筆者と同じYahoo! Japan ニュースのオーサーで、病児・障害児・小規模保育のNPOフローレンス代表、駒崎弘樹さんはこうツイートしています。

トランプ大統領ではなくテロ犠牲者の12歳少女を招待

初の公務でも息の合ったところを見せた2人(筆者撮影)
初の公務でも息の合ったところを見せた2人(筆者撮影)

結婚式には、テリーザ・メイ英首相も、何かと物議を醸し続けるドナルド・トランプ米大統領も、ヘンリー王子と仲が良いバラク・オバマ前大統領とミシェル夫人も招かれないことが明らかになりました。ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式と違って「政治」とは距離を置きました。

一方、ウィンザー城の敷地内にピクニック用の食事持参で招かれた市民1,200人の中には昨年5月のマンチェスター自爆テロで負傷したアメリア・トンプソンちゃん(12)も含まれています。

英BBC放送によると、聴覚障害者や知的障害者を支援する人たち、リサイクリング活動に取り組む小学校教師、貧困家庭の若者に職業訓練を施している焼き菓子マカロンの職人さんも招待されました。

思わずホロリとさせる心遣いです。最愛の母親を人生の目標にするメーガンさんをヘンリー王子はほれ直したに違いありません。筆者も初公務の取材で天使のようなメーガンさんを追いかけた時から「メーガン・マニア」になってしまった1人です。

ダイアナ元妃に信頼された記者

メーガン本を出版したモートン氏がどれだけダイアナ元妃の信頼を得ていたのか、から振り返っておきましょう。

ダイアナ元妃が信頼する医師を通じてモートン氏は、元妃が破綻した結婚生活について赤裸々に語る録音テープを入手。関係者にインタビューして録音テープの内容を再構築するかたちで元妃本人が「ネタ元」であることを隠します。

タブロイド紙(大衆紙)を通じてチャールズ皇太子が垂れ流すあまりに一方的な「ダイアナ像」に対抗するのが狙いでした。『ダイアナ妃の真実』出版計画が事前に漏れるとバッキンガム宮殿からの圧力で潰されてしまう恐れがあったため、秘密保持には細心の注意を払ったそうです。

モートン氏は「今回も同じようなアプローチを取りましたか」という筆者の質問に、「メーガンさんからは直接インタビューしていない。友人や知人、家族から取材した」と答えました。筆者はヘンリー王子の橋渡しで、モートン氏はメーガンさんから直接、話を聞いているはずだとみています。

白でも黒でもない新しいチェックボックスを作る

メーガンさんは1981年8月4日、白人の父親とアフリカ系の母親の間に生まれ、ロサンゼルスの「ブラック・ビバリー・ヒルズ」と呼ばれる高級住宅地で育ちました。学芸会で演じるのが大好きな女の子でした。

モートン氏は言います。

「取材していて本当に驚いたのは、メーガンさんは子供の頃からアクティビストだったということです。10歳の時、第1次湾岸戦争に反対する姿がテレビに映っています。フェミニズムの運動に参加したのは13歳の時です」「働き者の父、善悪の意識の強い個性的な母親の影響を受けました」

アメリカではかつて異人種間結婚は禁じられていたため1年間収監される判決を受けた白人男性と黒人女性が起こした訴訟で67年、最高裁判所が異人種間結婚を禁じる法律を無効にする判断を下しました。「メーガンさんは白人でも黒人でもない多様性を持って生まれました」

メーガンさんは女性ファッション雑誌エルに自分の背景についてこう書いています。

「私は黒人半分、白人半分です。二分法では、はっきりしなくなります。グレーゾーンです。子供の頃、学校の先生が私に白人のチェックボックスに印をつけるよう言ったことがあります。非常に困りました。家に帰ると父が『同じことが起きたら、次は自分自身でチェックボックスを書き加えなさい』と教えてくれました。私は強く、自信に満ちた混血の女性であることを誇りにしています」

ダイアナ元妃の棺を見て泣いたメーガンさん

16歳だったメーガンさんはダイアナ元妃の葬式をテレビで見ていて、棺がクローズアップされた時、涙を流しました。それ以来、ダイアナ元妃のスタイルだけでなく、何物にも影響されない人道的な使命を果たす姿勢はメーガンさんのロールモデルになったそうです。

ローマ・カトリック系のカレッジで学び、ノースウェスタン大学でコミュニケーションを専攻、女優としてのキャリアをスタートさせます。パーティーにもよく行きました。ブエノスアイレスのアメリカ大使館でインターンをしたあと、米国務省で働くため試験を受けますが、不合格になります。

「メーガンさんは若い頃、外交官や政治家、法律家になろうと思っていました」とモートン氏は言います。もし国務省の試験に合格していたら、ヘンリー王子とは出会っていなかったでしょう。

2011年に映画のプロデユーサーと結婚しますが、2年で離婚。レイチェル役としてレギュラー出演していた人気TVシリーズ「Suits(スーツ)」で人気を集めます。メーガンさんは性差をなくす運動にも熱心で、国連の活動に積極的に協力してきました。

「メーガンさんは生まれながらのアクティビスト、ダイアナ元妃はケアラー(世話をする人)という違いはあります。ダイアナ元妃からメーガンさんへとバトンタッチされたヘンリー王子は大きな変化を遂げたように思います」とモートン氏。

「政治」とは距離を置く

メーガンさんの活動がイギリスの国益と反するような時、どのような判断が下されるのでしょう。2人は当初、トランプ大統領ではなく、オバマ前大統領夫妻を呼ぶことを検討していたようです。しかし、欧州連合(EU)離脱後をにらんで対米関係を重視するメイ政権から反対されたと報じられました。

王位継承順位2位のウィリアム王子と、キャサリン妃の間に第3子が誕生すると、ヘンリー王子の王位継承順位は現在の5位から6位に下がります。2人は「政治」から距離を置き、オバマ前大統領夫妻とは後に会う機会を設けるようです。メーガンさんも英王室のプロトコルに従って、息の長い活動を続けていくはずです。

メーガンさんに一目惚れしたヘンリー王子は16年11月、「彼女に対する暴言や嫌がらせが押し寄せている」とメディアを厳しく非難したことがあります。婚約を公式に発表した後、英BBC放送のインタビューに2人はこう答えています。

――メーガンさんの人種的背景がメディアの取材にさらされたことがありましたね

メーガンさん「世界中で人種的背景にこれだけ注目が集まることは残念です。差別につながりかねないでしょう。しかし私は自分であること、自分の出自に誇りを持っています。すべての雑音を取り除いた時、2人で一緒にいることをエンジョイするのは簡単だと悟りました」

――ヘンリー王子に聞きます。バックグラウンドの異なる2人が一緒になることは新しい何かをロイヤル・ファミリーもたらすという意識は持っていますか

ヘンリー王子「何が新しいのか、私には分かりません。私にとっては新しいメンバーが家族に加わったということです。歪んだ見方より、正しい感覚で若い世代や他の人たちが世界を見ることができるよう勇気づけていくことこそ、ロイヤル・ファミリー全員が望んでいることです」

偉大なラブストーリー

モートン氏は「ヘンリー王子とメーガンさんは100年後に振り返ってみても偉大なラブストーリーになるはずです。メーガンさんは英王室の大きな財産になります」と断言しました。両親の離婚を経験し、父親側の家族と交流のないメーガンさんは、最愛の母親を失ったヘンリー王子の孤独を理解できたのでしょう。

「これまで自立したキャリアを歩んできたメーガンさんが出産したら、周りからのサポートが必要になります。その時、どう変わっていくのか楽しみです」(モートン氏)

ヘンリー王子とメーガンさんの生き方が新しいイギリス、引いては世界の方向性を示しているというのは持ち上げすぎでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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