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ビットコイン包囲網 英ロイズ銀行が仮想通貨のカード購入を禁止 EU、中国、韓国で規制強化

木村正人在英国際ジャーナリスト
ビットコインをはじめ仮想通貨の規制強まる(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ビットコイン昨年12月の最高値1万9,343ドルから7,731ドルに急落

[ロンドン発]ロイズ銀行グループは2月5日から、顧客が同グループのクレジットカードでビットコインをはじめ仮想通貨を購入するのを禁止しました。欧州連合(EU)加盟国や中国、韓国でも仮想通貨を規制する動きが目立ってきました。

日本では仮想通貨を取り扱う日本の大手交換所コインチェックから約26万人の顧客が預けていた580億円相当の仮想通貨NEM(ネム)が不正送金される事件があったばかり。

政府や中央銀行から管理されないビットコインのような仮想通貨をコントロールしようという動きが一気に加速してきました。

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仮想通貨サイトのcoindeskによると、昨年12月に終値で1BTC=1万9,343ドルの史上最高値をつけたビットコインは今年2月5日時点で7,731ドルまで暴落しています。それでも2013年11月に1,000ドル近くに迫り、翌14年4月に400ドル台前半に急落した時に比べると、まだまだ高値です。

ロイズ銀行グループは、ビットコインをはじめ仮想通貨の取引価格が急落しているため、顧客がクレジットカードで仮想通貨を購入して巨額の債務を抱えるのを懸念しています。禁止措置は傘下のロイズ銀行、バンク・オブ・スコットランド、ハリファックス、MBNAが発行する800万枚のクレジットカードに適用されるそうです。

仮想通貨は脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)、犯罪組織による銃器・麻薬取引、買春に使われるとして、イギリスの捜査当局や銀行はこれまでも慎重な姿勢を崩していませんでした。

広がるビットコイン包囲網

テリーザ・メイ首相は1月下旬、世界経済フォーラムのダボス会議に出席し、ビットコインをはじめ仮想通貨についてこんな見方を示していました。

「ビットコインのような仮想通貨について我々は非常に真剣に考えるべきです。仮想通貨の使われ方、特に犯罪者が仮想通貨を悪用しているからです」

メイ首相は、欧州連合(EU)から離脱すれば、イギリスはフィンテック(ファイナンシャル・テクノロジーの略)をはじめテクノロジー企業にとって魅力的な進出先になると強調しました。これは、少し希望的観測過ぎる気がします。

中国はすでに仮想通貨の交換業者や仮想通貨発行によるクラウドファンディング(ICO)を禁止していますが、交換業者は香港に移転、利用者も海外の交換業者を使って仮想通貨の取引を続けてきました。

しかし中国当局が海外の交換業者を使うのも禁止するとの観測が流れ、仮想通貨価格の下落に拍車をかけているようです。

韓国は仮想通貨が脱税や犯罪に悪用されるのを防ぐため、1月30日から匿名の銀行口座を仮想通貨取引に使用するのを禁止しました。

仮想通貨の交換業者は銀行口座の名義と仮想通貨ウォレットの名義が一致しない限り、取引を扱ってはならないというわけです。銀行に適用される「Know Your Customer(KYC)」の原則を仮想通貨の交換業者にも広げたかたちです。

フランスのブリュノ・ル・メール財務相は、仮想通貨をめぐる相場操縦の憶測や可能性がもたらす危険性について警告を発する一方で、「中央銀行のチーフに新しいルールを考案するよう指示した」と発言しています。

同財務相は、エマニュエル・マクロン大統領は、巨大テクノロジー企業がタックス・ヘイブン(租税回避地)を使って過剰な節税を行うことに一切、譲歩しないつもりだと強調しました。

ドイツ連邦銀行(中央銀行)も「仮想通貨の規制は国際社会の協力があって初めて意味がある。国家レベルの規制は自ずと限界がある」と強調。

EUはビットコインをはじめとする仮想通貨がマネーロンダリングやテロ資金の調達に使われるのを防ぐため、厳格なルールを作ることで合意しています。

フェイスブックも仮想通貨の広告禁止

インターネット上にはこんな広告が氾濫しています。「世界中どこでもすぐに決済できるノーリスクの仮想通貨について知りたい方はここをクリック」「年金を使ってビットコインを購入しましょう」

巨大テクノロジー企業のフェイスブックもICO広告にはミスリードやデタラメが多いとして仮想通貨をめぐる広告の全面禁止に踏み切りました。

仮想通貨を支えているのは、決まった台帳管理者を置かずに参加者が同じ台帳を共有しながら資産や権利の移転を記録していくブロックチェーン技術です。

ブロックチェーン技術は貿易の信用状、温室効果ガスの排出権取引、不動産取引の登記簿、金融機関の独自通貨への応用が大いに期待されています。しかし国際社会の規制強化によって、資金流入がストップし、技術開発のスピードが落ちてしまうかもしれません。

「根拠なき熱狂」の収束

日本は昨年4月、世界に先駆けて仮想通貨交換業者の登録制を導入しましたが、580億円相当の不正送金事件を防ぐことができませんでした。20カ国・地域(G20)は3月の首脳会議で仮想通貨規制の世界的な枠組みについて話し合う見通しです。

仮想通貨相場の「根拠なき熱狂」は収束し、健全な市場形成と仮想通貨の悪用防止、持続的なブロックチェーン技術の開発を進める大きな転換点を迎えたようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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