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メーガン・マークルさんとヘンリー王子に初の試練 どうしてオバマ前米大統領を結婚式に呼べないの?

木村正人在英国際ジャーナリスト
傷病兵スポーツ大会で意気投合するヘンリー王子とオバマ前大統領(今年9月)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]アメリカの人気女優メーガン・マークルさん(36)と婚約発表、来年5月に結婚するヘンリー王子(33)が結婚式にバラク・オバマ前米大統領とミシェル夫人を招待するかどうかが大きな論争になっています。

英大衆紙サン(電子版)によると、2011年にロンドンのウェストミンスター寺院で結婚式を挙げた兄のウィリアム王子とキャサリン妃の招待客は1,900人。

サッカーのスター選手だったデービッド・ベッカム夫妻、母ダイアナ元皇太子妃の葬儀で追悼歌を熱唱したエルトン・ジョン氏、故タラ・パルマー=トムキンソンさんら錚々たるセレブが顔をそろえました。

一方、ヘンリー王子とマークルさんの式場は、ロンドン・パディントン駅から列車で約半時間の距離にあるウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂。礼拝堂の大きさから招待客の数は800人が限界です。

初の公務でノッティンガムを訪れたヘンリー王子とマークルさん(筆者撮影)
初の公務でノッティンガムを訪れたヘンリー王子とマークルさん(筆者撮影)

サン紙の予想では、ヘンリー王子が確実に招待するとみられているのは交流のある海外の王族、英連邦の要人に加えて、トム・インスキップ氏やガイ・ペリー氏ら旧友、ヘンリー王子がアフガニスタンに従軍した時の兵士仲間、世界ヘビー級スーパー王者のプロボクサー、アンソニー・ジョシュア氏ら。

マークルさんはプロテニス選手セリーナ・ウィリアムズさん、人気TVシリーズ「スーツ」で共演した俳優パトリック・J・アダムス氏をはじめ多くのセレブを招待するのではと予想されています。

離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚するため退位したエドワード8世(1894~1972年)の時代、イングランド国教会は離婚歴のある人との結婚を認めていませんでした。

今ではその戒律もなくなり、離婚歴のあるマークルさんはイギリスの王族と結婚する初めてのアメリカ人になります。しかもマークルさんの母親はアフリカ系黒人。さあ誰がアメリカを代表する目玉ゲストとして招かれるのでしょう。

欧州連合(EU)から離脱するイギリスは第二次大戦以来続くアメリカとの「特別な関係」を強化せざるを得ません。そこで英保守党のテリーザ・メイ首相はドナルド・トランプ米大統領を国賓として公式にイギリスを訪問するよう招待しています。

しかし大統領選のキャンペーンでイスラム教徒のアメリカ入国禁止をぶち上げ、メキシコ系移民をレイプ犯扱いするなど人種差別発言を繰り返すトランプ大統領の評判は、多文化主義のイギリスでは散々です。

先日もイギリスの極右団体「ブリテン・ファースト(イギリス第一)」副代表の反イスラム投稿を連続リツートして、メイ首相に「アメリカの大統領がこんなことをするのは間違っている」とため息をつかせました。

最近の世論調査ではイギリス国民の48%がトランプ大統領に対する公式訪問の招待状を取り消すべきだと答えています。トランプ大統領は新年にイギリスを訪問するとみられていますが、嵐のような抗議デモが起きるのは必至です。

マークルさんは2016年5月、アメリカのTV討論番組で大統領選のトランプ旋風について質問され、「社会を分断させている」「女性蔑視的」と批判したことがあります。婚約前だったとは言え、イギリスの王族は政治や外交に関して中立を守って発言しないのが慣例です。

トランプ大統領が婚約前のマークル発言に気付いているのかどうか、定かではありません。ヘンリー王子とマークルさんの結婚式に呼ばれても呼ばれなくてもトランプ大統領はうれしくとも何ともないでしょう。

ヘンリー王子は今年9月、カナダのトロントで開いた傷痍軍人のためのスポーツ大会インビクタス・ゲームズでオバマ前大統領とすっかり意気投合しました。ヘンリー王子によるオバマ前大統領のインタビュー(事前収録)も12月27日、英BBC放送のラジオ番組で放送されました。

オバマ前大統領は、ツイッターで差別主義を撒き散らすトランプ大統領の名こそ挙げませんでしたが、「インターネットの危険性の一つは、人々が全く異なる現実を持ってしまう可能性があることです。偏見をさらに強める情報の繭に包み込まれてしまう恐れがあるのです」とソーシャルメディアの弊害に警鐘を鳴らしました。

ラジオ番組の中で結婚式にオバマ前大統領を招待するかどうか尋ねられたヘンリー王子は「まだ分からないよ。招待状や招待客一覧はまだ準備していないし、誰が招待されるか誰にも分からない。サプライズを台無しにしたくない」と答えました。

しかしサン紙によると、ヘンリー王子とマークルさんは側近に自分たちの結婚式にオバマ前大統領を招待したいと告げたそうです。EU離脱後はアメリカとの「特別な関係」にすがりつくしかない首相官邸と外務省はこれを知ってびっくり仰天。トランプ大統領のオバマ前大統領嫌いは良く知られているからです。

政府要人はサン紙に「トランプ大統領がエリザベス女王に面会する前に、オバマ前大統領がヘンリー王子とマークルさんの結婚式に出席したら、トランプ大統領は大いに気分を害するだろう」と話しています。メイ政権はオバマ前大統領を招待しないようヘンリー王子に再考を求めたと報じられています。

現在、閣内で協議が続いており、ヘンリー王子は最終的にはメイ首相の判断に従わなければならないそうです。

しかし実際のところトランプ大統領に気兼ねしているのは保守党内のEU離脱強硬派だけで、イギリスの一般市民はヘンリー王子とマークルさんと同じようにオバマ前大統領を招待することを望んでいるはずです。

アメリカだけでなく世界中でゼノフォビア(外国人への嫌悪)、エスノセントリズム(自分が属する集団を中心に考える傾向)が強まる中、ヘンリー王子とマークルさんの結婚と、その結婚式にアメリカ初の黒人大統領のオバマ氏がお祝いに駆けつけることは人種と民族の融和のメッセージになるからです。

それにしてもEUを離脱してトランプ大統領に頼るしかないイギリスはどこに向かっているのでしょう。いずれにせよ、イギリスの外交・安保上のポジションは大きく失われています。オバマ前大統領の招待問題は、イギリスの決して明るくない未来を占う試金石になるかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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