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勝てば監獄 マンCのグアルディオラ監督、国家反逆罪で捜査 CLでスペインに行けなくなる

木村正人在英国際ジャーナリスト
グアルディオラ監督が逮捕される?(写真:ロイター/アフロ)

[バルセロナ発]カタルーニャ独立に反対する市民政党シウダダノスの州首相候補イネス・アリマーダスさんについて記事を書くとバルセロナに住む独立派の知人から「注意しろ」というメッセージが届きました。その意味がすぐに分かりました。

強豪チームひしめくサッカーの英イングランド・プレミアリーグで負けなしの17勝1分で首位を独走するマンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督(46)が国家反逆罪で訴追される恐れがあるというニュースが飛び込んできたからです。

シウダダノスはマリアーノ・ラホイ首相の国民党以上に強く、州議会選で勝利すればカタルーニャの自治権を縮小すると唱えていました。州議会選の投票が行われた12月21日、スペイン国家憲兵は独立運動を扇動した31人の容疑者リストを最高裁判所に送りました。

グアルディオラ氏は先日のエントリーで紹介したように筋金入りの独立派です。これまでも独立派のイベントに何度も顔を出しており、6月11日のイベントで独立運動に向けて市民を扇動するマニフェストを読み上げた容疑があるということです。

勝てば監獄

草の根独立運動団体・カタルーニャ国民会議(ANC)の広報責任者で大学教授のアドリア・アナルシナさん(35)は筆者の取材に「これがスペイン流のカタルーニャの民主主義潰しの実態です。カタルーニャの人々を標的にしたものです。もし中央政府の意向に反するようなことをすればこうなるという見せしめです」と話しました。

容疑者リストにある人については捜査が進められ、訴追され、投獄される恐れがあるとアナルシナさんは指摘します。裁判官の判断次第です。「この日の選挙結果は、スペイン当局がカタルーニャの市民リーダーや政治家を投獄したことを認めないという意思表示です」

ANC元リーダーの1人、ジュゼップ・ペドロルさんも「選挙で負ければスペイン中央政府に支配され、勝てば投獄されるということです」と話しました。

グアルディオラ氏はスペインのFCバルセロナ、ドイツのFCバイエルン・ミュンヘンでは7年間に21のタイトルを手にした名将中の名将です。

スペイン北東部カタルーニャ自治州で生まれ、育ったグアルディオラ氏の家族は、独裁者フランコ時代に公で語ることを禁じられたカタルーニャ語を守るため地下に潜ってまで保護運動を続けた独立派団体オムニウム・クルトゥラルのメンバーです。グアルディオラ氏も熱烈なカタルーニャ・ナショナリストです。

スペインの「揺るぎなき統一」を定める憲法に反する独立住民投票を扇動したとしてオムニウム・クルトゥラルとANCのリーダー2人とカタルーニャ州政府の元閣僚8人が投獄され、今も4人が獄中です。手配されたカルラス・プチデモン前州首相ら5人はブリュッセルに逃亡したままです。

グアルディオラ氏は獄中の4人と同じ運命をたどる恐れがあるのです。

黄色いリボンに込められた意味

グアルディオラ氏は獄中にいるオムニウム・クルトゥラルのリーダーら4人の即時釈放を求めて、黄色いリボンを着けてイングランド・プレミアリーグやUEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグの試合に臨んでいます。

「1日でも大変なのに、もう何日も市民のリーダーや政治家が獄中につながれています。黄色いリボンを外せる日が来ることを願ってやみません」とグアルディオラ氏はメディアに訴えています。

グアルディオラ氏の好敵手、マンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督は「自分が同じことをしても許されるだろうか」と疑問を呈しています。UEFAは「政治やイデオロギー、宗教の関する挑発的なメッセージとなるジェスチャーや言葉、オブジェクト」を禁止しているからです。

モウリーニョ氏がレアル・マドリードの監督をしていたことも関係しているのでしょうか。マドリードはカタルーニャ独立には絶対に反対です。しかしUEFAはFCバルセロナの本拠地、カンプ・ノウの観客席にカタルーニャ独立旗が掲げられるのを黙認していることから、グアルディオラ氏の黄色いリボンもお咎めなしになりそうな雲行きです。

グアルディオラ氏がイングランド・プレミアリーグにやって来て、モウリーニョ氏が持ち込んだ守り優先のがちがちサッカーに風穴を開けました。ポゼション重視でパスをつなぎ、相手のボールを奪って波状攻撃をかける――。マンCのイレブンはグアルディオラ氏の指導で完全に生まれ変わりました。

グアルディオラ氏は建築家アントニ・ガウディと同じようにカタルーニャの反骨魂が生んだ大天才です。人権を錦の御旗に掲げる欧州連合(EU)はいつまでラホイ政権の独立派弾圧に目をつぶるつもりでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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