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バルサ出身、マンCのグアルディオラ監督にみるカタルーニャ独立の魂「俺たちの方が上手くできる」さあ決戦

木村正人在英国際ジャーナリスト
胸に黄色いリボンを着けて指揮するグアルディオラ監督(写真:ロイター/アフロ)

負けなしの17勝1分で首位独走

[バルセロナ発]強豪チームひしめくサッカーの英イングランド・プレミアリーグで負けなしの17勝1分で首位を独走するマンチェスター・シティを率いるのはジョゼップ・グアルディオラ監督(46)です。スペインのFCバルセロナ、ドイツのFCバイエルン・ミュンヘンでは7年間に21のタイトルを手にした名将中の名将です。

スペイン北東部カタルーニャ自治州で生まれ、育ったグアルディオラ氏の家族は、独裁者フランコ時代に公で語ることを禁じられたカタルーニャ語を守るため地下に潜ってまで保護運動を続けた独立派団体オムニウム・クルトゥラルのメンバーです。グアルディオラ氏も熱烈なカタルーニャ・ナショナリストです。

スペインの「揺るぎなき統一」を定める憲法に反する独立住民投票を扇動したとしてオムニウム・クルトゥラルとカタルーニャ国民会議(ANC)のリーダー2人とカタルーニャ州政府の元閣僚8人が投獄され、今も4人が獄中です。手配されたカルラス・プチデモン前州首相ら5人はブリュッセルに逃亡したままです。

州議会選(定数135)の投開票は12月21日。投票前日の20日は「休戦日」で選挙活動は行われない代わりに、新聞の1面に各政党の州首相候補の公式写真が掲載されるのが恒例です。がしかし、プチデモン氏は国外逃亡中、独立派のもう1人の候補は獄中で公式写真を撮影できないという異常事態の中、投票日を迎えます。

逃亡先のブリュッセルで抗議活動に参加するプチデモン氏(12月7日、ANCのアーカイブから)
逃亡先のブリュッセルで抗議活動に参加するプチデモン氏(12月7日、ANCのアーカイブから)

モウリーニョが黄色いリボンに疑問

グアルディオラ氏は獄中にいるオムニウム・クルトゥラルのリーダーら4人の即時釈放を求めて、黄色いリボンを着けてイングランド・プレミアリーグやUEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグの試合に臨んでいます。

「1日でも大変なのに、もう何日も市民のリーダーや政治家が獄中につながれています。黄色いリボンを外せる日が来ることを願ってやみません」とグアルディオラ氏はメディアに訴えています。

グアルディオラ氏の好敵手、マンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督は「自分が同じことをしても許されるだろうか」と疑問を呈しています。UEFAは「政治やイデオロギー、宗教に関する挑発的なメッセージとなるジェスチャーや言葉、オブジェクト」を禁止しているからです。

モウリーニョ氏がレアル・マドリードの監督をしていたことも関係しているのでしょうか。マドリードはカタルーニャ独立には絶対に反対です。しかしUEFAはFCバルセロナの本拠地、カンプ・ノウの観客席にカタルーニャ独立旗が掲げられるのを黙認していることから、グアルディオラ氏の黄色いリボンもお咎めなしになりそうな雲行きです。

グアルディオラ氏がイングランド・プレミアリーグにやって来て、モウリーニョ氏が持ち込んだ守り優先のがちがちサッカーに風穴を開けました。ポゼション重視でパスをつなぎ、相手のボールを奪って波状攻撃をかける――。マンCのイレブンはグアルディオラ氏の指導で完全に生まれ変わりました。

「マドリードに従うより自分たちでやった方が良くなる」

グアルディオラ氏は建築家アントニ・ガウディと同じようにカタルーニャの反骨魂が生んだ大天才です。独立反対派は「とにかくカタルーニャはスペインの一部だ」と繰り返すばかりですが、独立派はナショナリストというより「マドリードに従うより自分たちでやった方がカタルーニャはずっと良くなる」と信じて疑わない人たちなのです。

州議会選の結果は誰にも予想できません。しかし過去の得票数を見ると何が勝負の分かれ目になるのかが浮かび上がってきます。

旋風を巻き起こしているイネス・アリマーダスさん(筆者撮影)
旋風を巻き起こしているイネス・アリマーダスさん(筆者撮影)

独立派3党(10月の独立住民投票204万4,038票) 

プチデモン氏を州首相候補に立てるカタルーニャのための団結(JxCat)、ERC、CUP

独立反対3党(2015年州議会選160万8,840票

シウダダノス(Cs)、社会労働党(PSC)、国民党(PP)

中立(同36万7,613票

ポデモス(Podem)

ポイントは36歳の女性弁護士イネス・アリマーダスさんが州首相候補のシウダダノスがどこまで無投票層を掘り起こせるかです。知り合いの地元公共メディア、カタラン・ニュースのナンバー2、アルベルト・セグラさんに状況をうかがいました。

アルベルト・セグラさん(筆者撮影)
アルベルト・セグラさん(筆者撮影)

セグラさんは強烈な独立派です。カタルーニャ独立をシングルイシューにする政党がカタルーニャのための団結(JxCat)なら、それに対抗するように独立反対をシングルイシューに掲げて猛烈に追い上げているのがシウダダノス(Cs)です。

少し前まで独立できると考える人はそれほど多くはありませんでしたが、独立反対派の危機感はピークに達しています。問題は、独立に賛成か、反対かというだけで、それ以外の政策がこの2党には全くないということです。プチデモン氏が主導した独立には何の青写真もなかったとセグラさんは言います。

公共メディアの出張はスペイン中央政府が決裁

「プチデモン氏との会見のためブリュッセルに出張する際、出張旅費が出るかどうか、すべてスペイン中央政府の決裁を仰がなければなりません。独立運動につながると判断されれば、却下される恐れがあるということです」とセグラさんは言います。

先日のエントリーで筆者は「カタルーニャ州が独立住民投票を受け一方的に独立を宣言してから、3,000社が登記を州外に移した」と書きましたが、セグラさんは「正確にはカタルーニャ州が独立したら登記を移すと言っている企業が3,000社で、実際に移したのは300社。マドリードが誘導するフェイクニュースの見本です」と指摘します。

自治権が一時停止され、解散された公的機関に勤めていた知人によると、24機関が解散させられ、251人が仕事を失ったそうです。16の省庁がマドリードに支配され、108のイニシアティブがストップしてしまいました。スペイン中央政府が直接統治に乗り出して、独立派は怖気づくというより、ますます頑なになっているのではないでしょうか。

ある調査で収入が増えれば増えるほど、カタルーニャ独立を支持する人の割合が多くなることが分かっています。セグラさんは「学歴が上がれば上がるほど独立を支持する人が増えると言った方が的確です。難民問題にしても、地球温暖化対策にしても、マドリードに指示されるより自分たちでやった方が上手く行くと独立派は思っているのです」と話しています。

州議会選の結果はフタを開けてみるまで分かりません。セグラさんによると、独立派が勝利するとプチデモン氏はカタルーニャに帰還すると話しているそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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