EU離脱交渉が進展 6兆円手切れ金・市民の権利・国境問題で合意も、メイ英首相の苦難は続く

ようやく第1フェーズで合意に達したメイ首相とユンケル欧州委員長(写真:ロイター/アフロ)

早朝合意

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱交渉・第1フェーズのデッドラインだった12月4日、英・北アイルランドとアイルランドの国境をどうするかで暗礁に乗り上げた協議が8日早朝、合意に達しました。これで第2フェーズの通商協議に入ることができるため、在英の日系企業約1,000社もホッと胸をなでおろしています。

テリーザ・メイ英首相は8日午前6時(日本時間8日午後3時)、EUのジャン=クロード・ユンケル欧州委員長と会談。このあとユンケル委員長はメイ首相との共同記者会見で「十分な進展」があったとして第2フェーズに入る考えを明らかにしました。

早朝協議の様子を伝えるユンケル委員長の報道官のツイートです。

第1フェーズでクリアしなければならないハードルは(1)イギリスがEUを離脱するに当たり債務を清算する離脱清算金(2)イギリス、EU双方の市民の権利保障(3)アイルランドと北アイルランドの国境問題でした。

【離脱清算金】

EU側は差し引きして600億ユーロの支払いを要求。メイ首相は当初200億ユーロの支払いに応じる意向を示す。最終的な金額の言及はなかったが、英紙ガーディアンによると400億~450億ユーロ(約5兆3000億~6兆円)で決着。メイ首相は「イギリスの納税者にとって公平」な金額だと説明。

【EU市民の権利保障】

イギリスがEUを離脱したあとも、イギリスで暮らすEU市民とEU域内で暮らすイギリス国民の権利はこれまで通り保障される。司法管轄権はイギリスとEUに分かれる。

【国境問題】

北アイルランドとアイルランドの国境に出入国管理や税関といった目に見える国境は復活させない。北アイルランド和平の礎になったベルファスト合意を守る。北アイルランドとイギリスの憲法上と経済上の一体性は保たれる。「北アイルランドに特別な地位を認めるわけではないが、特別なアレンジメントは必要」とメイ首相。

【移行期間】

メイ首相から要望のあった2年の移行期間はイギリスは意思決定に参加できないが、EU法や欧州司法裁判所(ECJ)の判断に従い、EU予算も負担する。

よほどのことがない限り今月14、15日のEU首脳会議で承認される見通しです。

追い詰められていたメイ首相

EUは、イギリスの強硬離脱(EU単一市場と関税同盟からも離脱、ハード・ブレグジット)を想定して、第2フェーズの通商協議の内容が分からないと決めることができない離脱清算金と国境問題を第1フェーズに組み入れることでメイ首相を追い詰める戦略をとりました。

当初は強気だったメイ首相は政権基盤を強化して交渉を有利にしようと強行した今年6月の解散・総選挙でよもやの過半数割れを喫し、北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP、10議席)の閣外協力を取り付けて何とか政権運営をしている有様です。

弱気になったメイ首相は現実的な穏健離脱(単一市場と関税同盟へのアクセスをできるだけ残す、ソフト・ブレグジット)に舵を切ります。がしかし、閣内の強硬離脱派ボリス・ジョンソン外相、マイケル・ゴーブ環境・食糧・農村地域相と対立。

保守党内の強硬離脱派が「メイ下ろし」に動けば、いつ政権が崩壊してもおかしくない状況です。

メイ政権に圧力かけた業界団体

EUへの玄関としてイギリスに拠点を置く外資系企業は交渉期限が2019年3月末と設定されていることから気が気でありません。新しい貿易協定が結ばれるまでのつなぎとなる「移行期間」を設けてもらわないと突然、人とモノの移動が遮断され、企業活動に大きな支障が出る恐れがあるからです。

業界から強い圧力を受けたフィリップ・ハモンド財務相が穏健離脱を主導し、第1フェーズで立ち往生するより、通商協議の第2フェーズへの移行を急いだ結果、イギリスが大幅に譲歩する形で双方の合意が成立しました。

国境問題では、現状を維持するため北アイルランドだけが単一市場と関税同盟に残ればDUPが納得せず、強硬離脱で目に見える国境が復活すればアイルランドが合意しないというジレンマが残っていました。

このジレンマを解消するため編み出されたのが「レギュラトリー・アライメント(規則の一貫性)」という誰にも説明できない言葉でしたが、メイ首相は北アイルランドも他のイギリスと一緒にEUから離脱すると明言し、DUPも納得。アイルランド側もこれを受け入れたのが今回、合意に至った背景です。

(おわり)