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ヘンリー王子、あのレイチェル役女優マークルさんと婚約発表 ロイヤル・ファミリーの未来は

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヘンリー英王子、米女優との婚約発表 (2017年9月資料写真)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]チャールズ英皇太子の次男ヘンリー王子(33)=王位継承順位5位=と恋人の米女優メーガン・マークルさん(36)の婚約が11月27日、王室から発表されました。今月初めに婚約。挙式は2018年春の予定だそうです。おめでとうございます。

欧州連合(EU)離脱、アメリカのドナルド・トランプ大統領の国賓としての訪英延期とイギリスの「リトル・ブリテン」化が顕著になる中、永遠に不滅のロイヤル・ファミリーからうれしいニュースです。

ウィリアム王子(兄)の妻キャサリン妃が第3子を妊娠。この20日にはエリザベス女王とフィリップ殿下が結婚70周年(プラチナ婚)を迎えたばかり。

ヘンリー王子は2004~10年、ジンバブエ国籍を持つチェルシー・デイビーさんと交際していましたが、男友だちとの付き合いを優先させることが多く、破局。ヘンリー王子は11年「シングル」を宣言しました。

そのあとアンドルー王子の次女ユージェニー王女の紹介でエドワード7世(1841~1910年)直系のクレシダ・ボナスさんと12~14年まで交際。16年6月からは友人に紹介されたマークルさんと交際を続けていました。

母親の故ダイアナ元皇太子妃が愛に恵まれなかったことからヘンリー王子の家族志向は相当なものだそうです。ウィリアム王子とキャサリン妃が第1子ジョージ王子をもうけてからヘンリー王子の結婚願望にさらに拍車がかかったと言われています。

優等生のウィリアム王子と違って、ハメを外すことが多いヘンリー王子は英メディアによく叩かれました。仮装パーティーにナチス・ドイツの制服を模したスタイルで登場したり、12年にはラスベガスの高級ホテルのスイートルームで全裸になっている姿を撮影されたりしたこともありました。

しかし陸軍を15年に除隊、その後、人権活動に熱心なマークルさんと付き合うようになってからはすっかり大人になり、チャリティー活動に一段と力を入れるようになります。国民のエンパシー(感情移入を伴う共感)を得るように発言できるようになったのもこの頃からです。

昨年12月には最愛の母ダイアナを失った時の気持ちについて次のように話しました。

「僕は実際のところ何が起きたかにとことん背を向けてきました。胸の中で封印した感情はたくさんあります。人生の大半、僕は本当に母の死について考えたくありませんでした」

「しかし僕は昔の自分とは大分違う見方で人生を見ています。かつての僕は砂の中に頭を突っ込んでいたのです。僕の周りにある自分をずたずたに引き裂いてしまうものすべてを埋めてしまったのです」

「僕は(王室や王族、それを取り巻くメディアや世間という)システムと闘ってきました。今も闘っています。僕は母のようにはなりたくありません。母が亡くなったのは僕が非常に幼い頃です。僕は母が置かれていた状況に置かれたくありません」

ヘンリー王子は陽気でハメを外しても国民の人気者でしたが、メディアを味方につけるコミュニケーション能力を身につけました。女優でもあるマークルさんの愛のこもったアドバイスが生かされているのは間違いないでしょう。

ヘンリー王子は昨年11月、マークルさんとの交際を認めるとともに「彼女に対する暴言や嫌がらせが押し寄せている」とメディアを厳しく非難する一方で、ポジティブなニュースを流したと言われています。

マークルさんとは一体どんな女性なのでしょう。1981年8月4日、白人の父親とアフリカ系の母親の間に生まれ、ロサンゼルスの「ブラック・ビバリー・ヒルズ」と呼ばれる高級住宅地で育ちました。ローマ・カトリック系のカレッジで学び、ノースウェスタン大学でコミュニケーションを専攻、女優としてのキャリアをスタートさせます。

2011年に映画のプロデユーサーと結婚しますが、わずか2年で離婚。編集長を3年務めたライフスタイル・サイトを17年4月に閉鎖、11年からレイチェル役としてレギュラー出演していた人気TVシリーズ「Suits(スーツ)」に来年は出演しないことを発表したため、婚約準備をしているという観測が流れていました。

同年9月にはアメリカのファッション雑誌ヴァニティ・フェアのインタビューに「ヘンリー王子と私は本当に幸せで愛し合っています」とのろけています。彼女のフォロワーはインスタグラム190万人、ツイッターが35万人。性差をなくす運動にも熱心で、国連の活動に積極的に協力してきました。

エリザベス現女王の治世を描いたネットフリックスの人気シリーズ『ザ・クラウン』をご覧の方はご存知の通り、イギリス国教会は2002年まで、前の配偶者が生きている離婚者との再婚を禁じていました。イギリスでは宗教上の権威はイギリス国教会にあり、世俗上の権威は神様から君主(国王または女王)に授与されることになっています。

このため英王室ではさまざまなスキャンダルと悲劇が繰り返されてきました。1936年、エドワード8世は二度の離婚歴があるアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人と結婚するため退位し、「王冠を賭けた恋」と世界中を驚かせます。

第二次大戦の「空の英雄」で離婚歴のあるタウンゼント大佐と恋に落ちたエリザベス女王の妹マーガレット王女は結婚を望みながらも、王室の威信を守るため引き裂かれます。2013年に王位継承法が改正されるまでは、ローマ・カトリック教徒と結婚した者は王位継承権を失うという非情な定めが残っていました。

ヘンリー王子とマークルさんはもう、そんな心配をする必要はありません。

マークルさんの活動がイギリスの国益と反するような時、どのような判断が下されるのかは、まだ誰にも分かりません。しかしヘンリー王子とマークルさんの生き方がロイヤル・ファミリーだけでなく、新しいイギリスの国のかたちを作っていくことになるのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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