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独立派とスペイン統一派が二分するカタルーニャ 統一派30万人デモ 包囲される地元メディア もみ合いも

木村正人在英国際ジャーナリスト
バルセロナを占拠した30万人のスペイン統一派(筆者撮影)

「州首相を監獄にぶち込め!」

[バルセロナ発]「プチデモン(州首相)を監獄にぶち込め!」「私たちにも投票させろ(中央政府が州議会を解散したのは当たり前だという含意がある)」――。

スペイン北東部カタルーニャ自治州の分離・独立派が憲法に反して独立を宣言、中央政府が自治権を剥奪して対立が激化している問題で日曜日の10月29日、スペイン統一派(ユニオニスト)が独立に反対する大集会を開きました。

「プチデモンを監獄にぶち込め!」と叫ぶ統一派の市民(筆者撮影)
「プチデモンを監獄にぶち込め!」と叫ぶ統一派の市民(筆者撮影)

今月21日、カタルーニャ独立運動のシンボル旗「アスタラーダ」を打ち振る独立派45万人が埋め尽くしたグラシア通りを今度はスペイン国旗とカタルーニャ州旗を掲げる統一派30万人が占拠しました。

「38%はカタルーニャではない」という大きなプラカードが目につきました。投票率43%の住民投票で9割が独立に賛成してもそれは38%の民意でしかないという意味です。独立派が抑圧の象徴としてブーイングを浴びせたスペイン国家警察のヘリが上空を飛び過ぎるたび、統一派は歓声と喝采をあげます。

統一派デモンストレーションの本質は、カタルーニャを屈服させてスペインの統一を守ったことへの歓喜です。

27日、統一派の50人余が退席する中、州議会は賛成70票、反対10票で独立を一方的に宣言。これに対してマドリード(中央政府)のラホイ首相は上院の承認を受け、州議会の解散を宣言。12月21日に州議会選挙が行われます。

カタルーニャ国民党の州首相候補(筆者撮影)
カタルーニャ国民党の州首相候補(筆者撮影)

カタルーニャ国民党の州首相候補が姿を現すと参加者から大歓声が起こりました。国民党の支持率はカタルーニャでは10%程度で、それほど高くありません。しかしデモンストレーションの最前列は国民党支持者で固められ、国民党の州首相候補は熱烈な歓迎を受けました。

大接戦、スペイン統一派が独立派を若干リード

直近の世論調査(エル・ムンド紙)によると、独立派が42.5%で、統一派は43.3%と12月の州議会選挙は大接戦の模様です。別の世論調査(エル・パイス紙)では55%が独立宣言に反対、賛成は41%止まりでした。

中央政府のダスティス外相は「私が否定しているのは完全な独立で自治権の拡大ではない」と述べながらも「プチデモンは投獄されていなければ州議会選に立候補できるだろう」と言い放ちました。これは挑発のようにも聞こえます。

非合法の独立住民運動を主導したプチデモン州首相と全閣僚は罷免されました。自治州政府で働く100~150人と地元メディアの将来がどうなるのかは分かりません。カタルーニャ州警察のトップは住民投票を真剣に阻止しなかったとして解任されました。

非合法の独立を主導した州政府や州議会の指導者たちは国家反逆罪で訴追され、最悪の場合、30年間服役しなければなりません。独立派指導者はアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃運動のネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領たちと同じように獄中闘争を続ける覚悟でしょう。

スペイン国家警察は月曜日の30日、プチデモン州首相や閣僚が州政府に登庁してきたら一斉に逮捕する方針です。独立派は完全にコーナーに追い込まれたかたちです。

カタルーニャ人7割、スペイン人3割

「ビバ・エスパーニャ」に合わせて踊る統一派の市民(筆者撮影)
「ビバ・エスパーニャ」に合わせて踊る統一派の市民(筆者撮影)

カタルーニャにはフランコ独裁下の1960~70年にスペインの他地域から大量の移民が流入し、現在、約7割がカタルーニャ人、残り約3割が他地域からやって来た人々です。モロッコやルーマニアからの移民も増え、カタルーニャ人の人口割合は徐々に減っています。

スペイン内戦で最後までフランコに抵抗したカタルーニャは公の場でカタルーニャ語を使うのを禁止されました。フランコの死後、カタルーニャ語教育が許され、話せる人が1986年の64%から80%に増えました。2013年の統計では、15歳以上のうち36%が普段使う言語はカタルーニャ語と答え、スペイン語は51%、両方は7%でした。

「カタルーニャがスペインであることを望んでいます。しかし今、政治の戦争が続いています。両親もカタルーニャ人ですが、私の母国語はスペイン語。周りの人がスペイン語を使っていたからです」

ヒット曲「ビバ・エスパーニャ」が大合唱される中、バルセロナ生まれの女子大学生アルワ・ガルシオさん(21)はこう話しました。

アルワ・ガルシオさん(左、筆者撮影)
アルワ・ガルシオさん(左、筆者撮影)

大集会に参加したカタルーニャ出身のボレル元欧州議会議長は「私もカタルーニャの人々の1人だ。プチデモンは私の代わりに語ることはできない」と訴えました。

しかしカタルーニャ語で話し、考える人の中には独立を支持する人が多いようです。カタルーニャではもともと独立を支持する人はそれほど多くありませんでした。

カタルーニャ州の新自治憲章について、憲法裁が2010年に「新自治憲章は憲法の定める『スペインの揺るぎなき統一』に反している」と違憲判決を下したことがカタルーニャ・ナショナリズムに火をつけてしまいました。

スペインのカタルーニャ支配の構造をつくるな

ラホイ首相とフランコ体制の流れをくむ国民党はカタルーニャの分離・独立派を追い込み過ぎです。独立住民投票は中央政府・議会と州政府・議会が話し合って民主的なかたちで実施すべきでした。

スペイン国家警察が投票を阻止するためカタルーニャの人々約900人を負傷させた暴力が全くおとがめなしなのに、プチデモン州首相や州議会理事会メンバーを国家反逆罪で30年間投獄できるというのではあまりに法の公平性を欠いています。

州議会の解散・選挙も、自治権剥奪という非常事態下ではなく、膝を交えて話し合えば円滑に行えていたはずです。

地元メディアを取り囲み、罵声を浴びせる統一派(筆者撮影)
地元メディアを取り囲み、罵声を浴びせる統一派(筆者撮影)

大集会では統一派がカタルーニャの地元メディアを取り囲み、罵声を浴びせました。一部の右派が暴力を振るおうとする一幕がありました。カタルーニャ州警察もトラブルを恐れて国家警察任せです。

興奮し、もみ合う統一派の右派(筆者撮影)
興奮し、もみ合う統一派の右派(筆者撮影)

TV局のバンやラジオ局の玄関が壊され、カタルーニャ州警察や公共交通機関の職員を挑発する統一派右派の狼藉ぶりが報告されています。

ラホイ首相がプチデモン州首相と対等の立場で話し合わず、公権力を行使して投獄するようなことになればスペインによるカタルーニャ支配の構造がますます強まり、カタルーニャ州内の独立派と統一派の感情的対立は修復できなくなるでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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