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フランスに続いてイギリスも2040年までにディーゼル車とガソリン車の販売禁止 加速する電気自動車化

木村正人在英国際ジャーナリスト
米テスラ、電気自動車用急速充電スタンド(写真:ロイター/アフロ)

大気汚染で年4万人死亡

[ロンドン発]イギリス環境相マイケル・ゴーブが大気汚染対策として電気自動車やハイブリッド車への切り替えを進めるため26日、2040年以降、ディーゼル車とガソリン車の販売を禁止すると発表する見通しです。英メディアが一斉に報じました。

窒素酸化物による大気汚染が違法レベルに達しているとして、イギリス政府は対策を講じるよう再三にわたって高等法院に命じられ、計画発表の期限を今月31日に定められていました。

労働党のブレア政権は地球温暖化対策を進めるため、温室効果ガスの二酸化炭素を排出するガソリン車よりも、窒素酸化物を出すディーゼル車を推奨しました。00年には320万台だったイギリスのディーゼル車は、1000万台まで増えました。ディーゼル車に力を入れるドイツを優遇する欧州連合(EU)の戦略で、ガソリン車を生産する日本に不利に働いたと言われています。

王立内科医協会と王立小児保健協会の調査報告書によると、イギリスでは大気汚染が原因で少なくとも年4万人が本来の寿命より早く亡くなっており、200億ポンドの被害が出ていると推定されています。15年には、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が排ガス試験をごまかすため不正ソフトウェアを搭載していたことが発覚しました。

メイ政権は、排ガスによる大気汚染がEUの水準を上回り、健康被害を広げる恐れのあるロンドンやバーミンガム、マンチェスターなど17都市、81の幹線道路を指定。30億ポンドの大気汚染対策費から2億5500万ポンドのディーゼル車対策基金を設置。排ガスのひどいディーゼル車のバスなどの改造、止まったり発進したりする回数を減らすため道路のレイアウト変更、速度規制用の凸凹撤去、信号機の改造を地方自治体に促します。

ディーゼル車向けの渋滞税、割増の駐車料金や燃料税を導入する前に、まず、1000~2000ポンドの補償金を出してディーゼル車から環境車への買い替えや排ガスから窒素酸化物を除去するフィルターの設置を呼びかけるそうです。

どんどん進む電気自動車化

石炭火力発電や石炭業界の雇用を守るため地球規模で温暖化対策を進める「パリ協定」から離脱したアメリカの大統領ドナルド・トランプと異なり、欧州は電気自動車化を進める動きが一気に加速しています。

7月5日、スウェーデンの自動車メーカー、ボルボが19年以降、すべての新モデルは電気自動車になると発表しました。内燃機関の自動車生産を止めることをちらつかせたのは、伝統的な自動車メーカーの中でボルボが初めてです。ボルボを所有しているのは中国の吉利汽車ですが、中国では大気汚染がひどく、環境対策が急務となっています。

7月6日、フランスのマクロン政権が40年までにガソリン車やディーゼル車の販売を禁止すると発表しました。現在、フランスのハイブリッド車は全体の3.5%、電気自動車はわずか1.2%です。50年までに、フランスは排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素が同じ量の「カーボン・ニュートラル」を達成すると宣言しました。

7月25日、ドイツの自動車メーカー、BMW傘下にあるMiniが19年からオックスフォードの工場でMiniの電気自動車を生産すると発表しました。

なぜ、電気自動車化の動きが一気に加速してきたかというと、二酸化炭素も窒素酸化物も出さずに、馬力があるエンジンはこれまでのガソリン車やディーゼル車の内燃機関ではとても作れないからです。作れたとしても、とてつもなく高くつくからです。大気汚染が進む中国も、トランプとは違って、本気で温暖化対策を進めようとしています。

2035年には、欧州の新車はすべて電気自動車に?

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オランダの銀行INGが最近発表した調査報告書によると、35年には欧州で販売される新車はすべて電気自動車やハイブリッド車になるそうです。欧州の自動車メーカーは内燃機関車の25%のシェアを占めていますが、電気自動車に使われる充電可能なリチウムイオン電池の生産シェアはわずか3%です。

ちなみにリチウムイオン電池の生産シェアは20年までに中国62%、アメリカ22%、韓国13%、ポーランド3%の4カ国に集中すると予測されています(visualcapitalist)。INGはリチウムイオン電池の生産シェアを握るアジアと北米が電気自動車、ハイブリッド車市場を制す可能性が強いと予測しており、トヨタ、日産、ホンダの日本勢にとっても気になるところです。

イギリスのエネルギー供給会社ナショナル・グリッドは30年までにイギリスの電気自動車やハイブリッド車は現在の9万台から900万台に達する可能性があると見ています。

一方、ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスの「電気自動車見通し」によると、40年までに新車販売に占める電気自動車の割合は54%(1年前の見通しでは35%)になると予測しています。バッテリーのコストが下がり、25~29年までに内燃機関の車より電気自動車の方が安く買えるようになるそうです。

20年代後半からバッテリー価格が急激に下がることで電気自動車への切り替えが加速。バッテリー価格は30年までに70%以上も低下します。40年までに電気自動車は日に800万バレルの交通燃料を節約し、世界の電気消費量を5%押し上げる見通しです。

マイカーを持っていない筆者の立場からすれば電気自動車やハイブリッド車への切り替えが、それでなくても負担となっている電気料金や税金をさらに押し上げないか心配です。自動車メーカーには申し訳ないのですが、鉄道やバスなど公共交通や自転車への切り替え、カーシェアリングのフル活用、自動車課税の強化などで自動車そのものの数を減らした方が根本的な問題解決になると思うのですが、皆さんはどう考えられますか?

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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