Yahoo!ニュース

マクロン効果でフランスがソフト・パワー世界一に 日本は6位

木村正人在英国際ジャーナリスト
就任式で妻ブリジットと口づけを交わす仏大統領マクロン(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]イギリスのPR(パブリック・リレーションズ)会社ポートランドの調査報告書「ザ・ソフト・パワー30」が7月18日発表され、史上最年少の大統領エマニュエル・マクロン(39)を選出したフランスがソフト・パワー世界一になりました。

日本は2015年から毎年8位、7位、6位と順位を上げています。ソフト・パワーとは、国家が軍事力や経済力などのハード・パワーによらず、文化や外交、教育などを通じて国際社会からの信頼を得て、発言力や影響力を行使することを言います。

筆者作成
筆者作成

「ザ・ソフト・パワー30」では客観的要素として(1)政府(2)文化(3)国際協力(4)大学など高等教育(5)デジタル(6)進取の気性を指標化し、主観的要素として25カ国で1万1000人を対象に実施した世論調査の結果を加味しています。報告書の内容をかいつまんで見ておきましょう。

(1)フランス

フランスはイギリス、アメリカ、ドイツ、カナダをごぼう抜きして堂々の1位に輝きました。1年前は大統領フランソワ・オランドの女性スキャンダルと低支持率、大規模テロの続発、右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペン旋風で散々な状況でした。

しかし先の大統領選でマクロンがルペンを退けたことでソフト・パワーとして世界の主役に躍り出ました。欧州連合(EU)の統合と改革、市場主義と社会政策の組み合わせを唱えるマクロン人気は国内外で急上昇しています。

文化や芸術、料理はもともとフランスの十八番。テロにもかかわらず観光客の流れは止まっていません。マクロンのデジタル志向もフランスのソフト・パワーを拡大させています。マクロンはカナダの首相ジャスティン・トルドーと並ぶソフト・パワーのチャンピオンです。

マクロン改革に大いに期待したいところです。

(2)イギリス

イギリスは世界2位の座を守ったものの、指標のポイントを下げました。EU離脱交渉の難航が予想されるからです。国際協力や文化、高等教育、デジタル分野でイギリスの優位は保たれています。

世界に張り巡らされた英BBC放送や国際文化交流機関ブリティッシュ・カウンシルのネットワークは絶大な影響力を持っています。

イギリスはサッチャー、ブレア、キャメロンと続いた市場開放路線の遺産で何とか食いつないでいます。しかし、先の総選挙で首相テリーザ・メイ率いる保守党はよもやの過半数割れを喫し、今や内部分裂状態です。イギリスの未来は楽観できません。EU離脱をめぐって暗雲が垂れ込めているのは言うまでもありません。

(3)アメリカ

アメリカの大統領ドナルド・トランプが唱える「アメリカ・ファースト(第一)」主義は、アメリカの「孤立」を意味しています。第二次大戦後、アメリカは民主主義と自由貿易を掲げて、世界のスーパーパワーになりました。依然としてアメリカは高等教育や、音楽、映画など文化輸出、技術革新の分野で他国の追従を許しません。

トランプは世界が協力して温暖化対策に取り組む「パリ協定」や環太平洋経済連携協定(TPP)からの撤退はアメリカを孤立させ、米中逆転を早めるだけです。トランプはアメリカのソフト・パワーにとって大きな脅威です。アメリカが西側のネットワークから離脱することになると、そのインパクトは計り知れません。

(6)日本

日本は安倍政権の長期化で政治の安定を実現し、国際社会での存在感を増しています。安倍晋三首相は戦争放棄をうたった日本国憲法を改正ししようとする中、ソフト・パワーとして日本は存在感を増しています。ポートランド社のコメントを引用しておきましょう。

ポートランド社提供
ポートランド社提供

「日本のソフト・パワーや影響力が成長軌道にあることを示しています。海外142カ所に大使館があり、2016年には92億8700万ドルの純ODA(政府開発援助)を行うなど、国際開発にも積極的に貢献する日本は、外交面で最も国際的関与度の高い国の一つです」

「2016年には1300万人以上の観光客が訪れ、ミシュランの星を獲得したレストランが世界で2番目に多い日本にとって、その文化も一貫した強みとなっています」

「安倍首相が平和憲法の改正を目指す中、政府はパブリック・ディプロマシーに関してより強硬なアプローチへ移行しつつあるようですが、日本は引き続きソフトパワーを通じて世界に多大な影響を与えています」

「日本の効率性や、高い品質基準、革新的な技術産業、独特な文化、人気の料理は世界中で好意的な世論形成に役立っています」

「中国の経済大国としての台頭や北朝鮮による核の脅威は、今後も数年にわたり日本にとって大きな課題となるでしょう。日本は自国の文化を促進し、世界において平和で安定した役割を担うことにより、引き続きソフトパワー戦略を推進していく必要があります」

2020年東京五輪・パラリンピックは日本のソフト・パワーを世界にアピールする最高のショーケースになるでしょう。ちなみにアジアのライバル、韓国は21位、中国は25位でした。経済力では陰りが見えるものの、日本のソフト・パワーは元気いっぱいのようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事