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G20は中国への圧力を強化せよ 北朝鮮、初の大陸間弾道ミサイル発射 

木村正人在英国際ジャーナリスト
初のICBM発射実験を強行した金正恩(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]北朝鮮が7月4日に発射した弾道ミサイルについて、アメリカの国務長官レックス・ティラーソンは同日「アメリカは北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したことを強く非難する。ICBMの発射実験はアメリカと同盟国、パートナー国、地域、世界に対する脅威を増す」と指摘しました。

北朝鮮が初のICBM「火星14」の発射実験に成功したと大々的に宣伝するのを「中距離弾道ミサイル」と冷やかに一蹴していたアメリカですが、2500キロメートルを優に超える到達高度から見て今回のように高く打ち上げる「ロフテッド軌道」ではなく「スタンダード軌道」で発射していればアメリカのアラスカ州を直撃していた可能性があることを公式に認めたかたちです。

ティラーソンは「アメリカは平和的な朝鮮半島の非核化を模索している」「北朝鮮の核兵器保有は絶対に受け入れられない」として国連安全保障理事会で北朝鮮に対する制裁を強化する新たな決議を求める考えを明らかにしました。安保理は5日に非公開で会合を開く予定です。

ティラーソンはこうも強調しました。「世界的な脅威を止めるためには世界的な行動が求められている。北朝鮮の出稼ぎ労働者を受け入れているいかなる国、いかなる経済的・軍事的な利益を北朝鮮に提供している国、国連安保理決議を十分に実施できていない国は危険な体制を支援、幇助(ほうじょ)している」

一方、アメリカ国防総省報道官ダナ・ホワイトは「我々の精密な攻撃能力を示すため、アメリカと韓国は合同軍事演習を実施した」「アメリカは我々自身と同盟国を防衛し、拡大する北朝鮮の脅威に対抗するため自由に使える能力をフルに行使する用意がある。同盟国の韓国、日本に対するアメリカの防衛のコミットメントは強固なままだ」と述べました。

アメリカの大統領ドナルド・トランプは、北朝鮮の体制が崩壊して朝鮮半島の緩衝地帯(バッファーゾーン)がなくなり、中朝国境に北朝鮮難民が押し寄せるのを恐れて北朝鮮への経済制裁を手加減している中国に対してフラストレーションを募らせています。

KOTRA(大韓貿易投資振興公社)のデータから北朝鮮の対中国貿易を見ておきましょう。

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2014年までは右肩上がりに増え、過去15年間で10倍以上になりました。00年は4億8800万ドルでしたが、15年には57億ドルに膨れ上がっています。15年に輸出入とも減っているのは中国経済が減速し、北朝鮮産の石炭など主要な品目の価格が下がったためです。

00年には日本と中国がそれぞれ北朝鮮の貿易の4分の1ずつを占める主要な貿易相手国でした。日本人の拉致や核・ミサイル開発に関して中国以外の国々が北朝鮮への経済制裁を強化したことで06年には57%に過ぎなかった北朝鮮貿易の対中国依存度は15年には90%を超えました。

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中国はコンテナ貨物船の輸送ルートや高速鉄道を開設し、中朝国境に貿易ゾーンを設けました。

今年4月の中国当局の発表では、中国の対北朝鮮貿易(第1四半期)は昨年同期に比べて実に37.4%も増えています。中国の対北朝鮮輸出は54.5%も増え、鉄鉱石、亜鉛、その他の鉱石、海産物、衣類など北朝鮮からの輸入も18.4%増えました。1月、2月の鉄の輸入は昨年同期に比べて270%もアップしています。

その一方で北朝鮮の主要な輸出品目である石炭の輸入は第1四半期、51.6%もダウンしました。今年2月以降、マレーシアで北朝鮮の最高指導者、金正恩の異母兄、金正男が暗殺された事件を受けて、中国は北朝鮮からの石炭の輸入をストップしています。しかし中国が対北朝鮮制裁で手を抜いているのは明らかです。

安保理やG20でどこまで中国の国家主席、習近平に圧力をかけられるか。対北朝鮮制裁は、北朝鮮貿易の9割超を握る中国が本腰を入れないことには全く動かないのです。トランプは対中国圧力を強めていますが、今のところ逆効果にしかなっていないようです。

日本も巡航ミサイルや長距離攻撃機の保有など敵基地攻撃能力の獲得を真剣に議論する時が来ているのかもしれません。

【トランプ政権の対中国圧力】

(1)アメリカ国務省が2017年版の人身売買報告書で北朝鮮からの強制労働者を黙認しているとして中国を最低レベルに格下げ

(2)アメリカ国務省が台湾に約14億ドル相当の武器売却を決め、議会に通知したと発表。実現すればトランプ政権になってから、最初の台湾への武器供与に

(3)アメリカの財務長官スティーヴン・マヌーチンが北朝鮮の核・ミサイル計画に関連して中国の海運会社「大連寧聯船務有限公司」と中国人2人を制裁対象に加える

(4)北朝鮮のマネーロンダリング(資金洗浄)に関わったとして、中国の丹東銀行を制裁。米財務省金融犯罪取締ネットワークは丹東銀行をアメリカと世界の金融システムの中から締め出す

(5)南シナ海での「航行の自由作戦」を強化

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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