フランス大統領選はマクロンVSルペンで決選投票「マクロンは女性首相候補指名」仏識者

投票所前に並ぶパリ市民(23日午前8時前、筆者撮影)

[パリ発]フランス大統領選の第1回投票が4月23日行われ、上位2人の右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首のマリーヌ・ルペン(48)と中道政治運動「前進!」の前経済産業デジタル相エマニュエル・マクロン(39)がいずれも過半数に達しなかったため、5月7日にこの2人による決選投票が行われることになりました。

英BBC放送などが一斉に出口調査の結果を速報しました。

これまでの世論調査では6対4で欧州連合(EU)統合推進派のマクロンが優勢となっており、メディアは決選投票ではマクロン大統領が選出されると報じています。しかし、イギリスのEU国民投票で離脱派が勝利、アメリカの大統領選では共和党指名候補のドナルド・トランプが当選するなど、ことごとく世論調査の予想は外れており、安心するわけにはいきません。

決選投票に向けて激しさを増すマクロンVSルペンの戦いから、ますます目を離せなくなってきました。6月の国民議会選をにらんで、両陣営からどんな隠し玉が飛び出すか予想できません。

フランスを代表する国際政治学者ドミニク・モイジは「マクロンは国民議会での多数派形成を目指し、女性首相候補を指名する可能性がある」とロンドンでの勉強会で予想しました。女性首相候補の名前については明らかにしませんでした。

投票するパリ市民(筆者撮影)
投票するパリ市民(筆者撮影)

投票日の23日、パリ17区にある投票所をのぞいてみました。投票開始の午前8時の少し前から有権者が列を作り始めました。投票所の責任者に頼んで写真を撮影させてもらいました。

受付で有権者登録名簿と身分証明証のチェックを受けた後、候補者11人の名前を記した11枚の紙と封筒を受け取り、カーテンで覆われたブースの中で意中の1枚だけを選び出して封筒の中に入れます。再び有権者登録名簿と照合した後、透明の投票箱に封筒を入れると投票終了です。封筒の中に2枚以上の名前が入っていると無効になるそうです。

投票所前の選挙ポスターの掲示板を見てみると、ルペンのポスターは落書きだらけ。これに対してマクロンのポスターはピカピカです。しばらくするとマクロン陣営の運動員が投票日当日だというのに新品のポスターに張り替えに来たのには驚きました。「前進!」は草の根政治運動で支持者やボランティアによって運営されているのに、すごい組織力だと感じました。

フェイスブックやツイッターなどソーシャルメディアや映像の使い方、プロモーションビデオの作り方といった空中戦ではルペン陣営がマクロン陣営よりはるかに進んでいます。しかし、地上戦では落書きされたポスターも張り替えられないルペン陣営に比べ、マクロン陣営は資金面でも人手面でも優位に立っているようです。

シャンゼリゼ通りでイスラム過激派に射殺された警官(筆者撮影)
シャンゼリゼ通りでイスラム過激派に射殺された警官(筆者撮影)

投票所で会った夫婦は17年間、パリで警官をしています。

「仲間がテロの犠牲になり、とても悲しいです。わが国のテロ警戒レベルは非常に高くなっています。大統領選最終盤でルペンら右派に有利に働いたように思いますが、マクロンも非常に良いアイデアを持っています。EUはさらに結束を固めて、域外との境界管理を強化する必要があります。EUからの離脱は答えではありません」

観光客でにぎわうパリのシャンゼリゼ通りで20日夜、過激派組織IS(イスラム国)とつながりを持つ男が自動小銃をぶっ放しました。警察や在仏トルコ大使館の一部が入居するビルではなく、市民や観光客に銃口を向けていたらと思うと、ゾッとします。被害はもっと拡大し、有権者の投票行動に与える影響が増幅していたのは間違いないからです。

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フランス世論研究所(Ifop)の調査では、パリ同時多発テロ発生前の2015年11月6~7日の調査ではテロ対策18%、失業問題35%だったのに、シャンゼリゼ通りでの警官銃撃テロでテロ対策と失業問題は30%で並んでいます。マクロンは決選投票ラウンドで、テロ対策における有効な政策をアピールできるかどうかがポイントです。

フランスが抱える失業率10%(失業者600万人)、イスラム系移民の社会統合、テロ対策などの問題は誰が大統領になっても容易に解決できるものではありません。首尾よくマクロンが大統領になったとしても政党基盤がないのに国民議会の多数派を形成できるのか、停滞するフランス経済を立て直すことができるのかという大きな壁が立ちはだかります。

欧州問題に詳しい英キングス・カレッジ・ロンドン教授アナンダ・メロンはこう指摘しています。

「一番見たくないシナリオは、マクロンが議会で多数派を形成できず、失業問題などで大胆な政策を打てない場合です。ルペンは『それ見たことか。これがエスタブリッシュメント(政治支配層)の限界だ。彼らでは何も変わらないことが証明された』と騒ぎ始めるのは目に見えています」

「オランダ総選挙で極右政党・自由党の勝利を阻止したことでEU統合推進派は『大勝利だ』と喜びましたが、政権が失敗した場合、極右政党が非難を強めるのは避けられません」

【欧州の政治日程】

3月29日、メイがEU大統領トゥスクに離脱交渉の開始を通告

4月18日、メイが解散・総選挙を緊急発表

4月23日、フランス大統領選第1回投票

4月29日、イギリスを除く27カ国でEU首脳会議を開催

5月3日、イギリス下院を解散

5月7日、フランス大統領選の決選投票

6月11日、フランス国民議会第1回投票

6月18日、フランス国民議会第2回投票

6月8日、イギリス総選挙の投票

9月24日、ドイツ総選挙

エマニュエル・マクロン(39)中道政治運動「前進!」、前経済産業デジタル相

筆者撮影
筆者撮影

マクロンは3人の子供を持つ24歳年上の高校時代の国語教師と結婚したことで有名です。いったん官僚になりますが、4年で辞め、ロスチャイルド投資銀行のバンカー時代に世界最大の食品会社ネスレによる米製薬会社ファイザーのベビー食品部門の買収を手掛け、巨額の富を手にしたと報じられています。

オランドの側近を務めた後、経済産業デジタル相時代に「経済の成長と活性のための法律案(マクロン法)」を提出。長距離バス路線開設の自由化、商業施設の日曜・深夜営業の拡張など身近な規制緩和策を盛り込みました。昨年4月に「前進!」を立ち上げ、経済産業デジタル相を辞任、11月に大統領選への出馬を表明します。自分にはフランスを救うジャンヌ・ダルクかナポレオン1世の使命が与えられていると信じています。

【政権公約】

EU統合推進派で、ユーロ圏経済政府、ユーロ圏財務相の創設を主張。財政赤字を3%以内に抑える。法定週35時間労働を維持するが、民間企業に交渉の余地を残して柔軟化する。法人税率を33%から25%に切り下げ。低賃金労働者の社会保障費負担を免除。年金や失業保険システムの統合を進める。5年間で600億ユーロの歳出を削減し、能力向上・職業訓練、再生利用可能エネルギーの促進、農業改革などに500億ユーロの公共投資を行う。現在10%の失業率を7%に下げる。年金支給年齢を62歳に据え置く。

マリーヌ・ルペン(48)国民戦線党首

筆者撮影
筆者撮影

国民戦線を結成した父ジャン=マリー・ルペンはナチスのユダヤ人虐殺を「第ニ次大戦の些末事」と言い放つなど反ユダヤ主義と人種差別発言で悪名を馳せました。しかし、父は2002年の大統領選で決選投票に進み、フランス社会を震撼させます。3人娘の末っ子に生まれたマリーヌは父の跡を継いで党首に就任。反ユダヤ・人種差別主義という暗いイメージからの脱却を図る「脱悪魔化」を進め、父を党から追放してしまいます。

【政権公約】

EU離脱の是非を問う国民投票の実施と単一通貨ユーロ圏からの離脱。自国通貨の復活。旅券なしで域内を自由移動できるシェンゲン協定からの離脱。自由貿易協定(FTA)拒絶。中銀による財政ファイナンス。外国人雇用企業への課税。イスラム原理主義活動の禁止。過激モスク(イスラム教の礼拝所)閉鎖。合法移民の抑制。

極右と極左、エリートとノンエリートが激突するフランス大統領選 イチから分かる入門編(上)

「3メートルの距離で自動小銃は連射された」テロに狙われるフランス大統領選 イチから分かる入門編(中)

イスラム化と経済問題の虚実、フランス大統領選 イチから分かる入門編(下)

(おわり)