Yahoo!ニュース

年金運用で連続赤字のGPIF 理事長報酬3130万円は高いか、安いか

木村正人在英国際ジャーナリスト
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)(写真:ロイター/アフロ)

総務省が23日に発表した2015年度「独立行政法人役職員の給与水準」によると、99法人のうちトップの年収が最高だったのは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で3130万5千円でした。理事の年収は2873万6千円です。

GPIFは厚生年金や国民年金の保険料を原資とする年金積立金の大半を国内外の債券・株式に投資して運用しています。中国経済の減速による円高で日本の株価が下落したこともあって15年度は5兆3098億円の赤字。今年度も4~6月期に5兆2342億円の赤字を出しています。

出所:厚生労働省データをもとに筆者作成
出所:厚生労働省データをもとに筆者作成

高度人材確保のため、GPIFは15年1月から理事長の年間報酬を2148万円から大幅に引き上げました。現在の理事長は今年4月に就任した高橋則広氏です。高橋氏は1980年に農林中央金庫に入庫し、債券投資部長や開発投資部長を歴任した実務型で、農中の専務理事まで務めました。

まずGPIFがどれだけ大きいのか世界の政府系ファンド、年金・公的基金と比べてみましょう。ファンドに詳しい調査会社SWFIのまとめでは今年6月時点で日本のGPIFの資産運用額は1兆2640億ドルで、米国の社会保障信託基金の2兆8130億ドルに次いで2番目です。

出所:SWFIデータをもとに筆者作成
出所:SWFIデータをもとに筆者作成

世界トップ10のファンドマネージャーがどれぐらい稼いだかといえば、世界で最も成功したヘッジファンドマネージャーである米大手ヘッジファンド運用会社シタデル・インベストメント・グループの創業者ケネス・グリフィン氏は17億ドル(1717億円)です(alphaより)。

出所:alphaデータをもとに筆者作成
出所:alphaデータをもとに筆者作成

高橋理事長の年間報酬3130万5千円はこの世界ではお話にならないほど低いことが分かります。最高投資責任者(CIO)には14年7月から水野弘道氏が就任しています。水野氏は住友信託銀行のニューヨーク勤務などを経て03年から未公開株(PE)の流通市場を専門にする英コラー・キャピタルに転職、パートナー20人の1人となった人物です。

水野氏は未公開株の流通市場が専門で、130兆円もの年金資産を国内外の債券・株式市場で運用するのは「畑違い」「未知数」という声が就任時点からありました。未曾有の量的緩和で日本と欧州の国債の金利が下がり、中国経済の減速で国内外の株価も低迷しているため、GPIFの運用は難しくなっています。

GPIF役職員の報酬が安いか高いかと言えば、安すぎるのだと思います。14年10月、日銀の量的緩和に合わせて運用ポートフォリオ(資産構成割合)を見直すなど、GPIFの資産運用と人事からは株価を押し上げて政権の支持率上昇につなげたい安倍政権の思惑がはっきり見えることが一番の問題ではないでしょうか。

GPIFで安定した収益をしっかり上げていくためには、政治と距離を起き、世界の政府系ファンドや年金・公的基金並みの高額報酬で高いパフォーマンスを出せる人材を雇って成果主義を徹底するのが最善策だと思うのですが。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事