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エリート・クリントンVS毒舌トランプ「史上最悪の闘い」は嫌われ度で決まる

木村正人在英国際ジャーナリスト
米民主党候補指名争い クリントン氏、指名確実に(写真:ロイター/アフロ)

米史上初の女性大統領候補

米国で女性参政権が認められたのは1920年。それから96年、米大統領選の民主党候補指名争いでヒラリー・クリントン前米国務長官(68)が指名獲得に必要な過半数の代議員を確保したようです。複数の米メディアが報じています。

民主、共和の二大政党で女性が大統領候補指名を受けるのは初めてのことです。しかし、黒人初の米大統領になったオバマ氏が8年前に起こした「Yes We Can(イエス・ウイ・キャン)」旋風のような高揚感はまったくありません。

11月の大統領選に向け、共和党の候補指名が確実になっている不動産王ドナルド・トランプ氏(69)のヒラリーに対する中傷が一段とエスカレートすることを考えただけでも、うんざりするからです。選挙資金や陣容ではヒラリー陣営に到底かなわないトランプ最大の武器はツイッターです。

フォロワーは870万9825人

トランプ氏のツイート
トランプ氏のツイート

ツイッターや「twitonomy」という無料の分析ツールを使って、トランプのツイートを簡単に分析してみましょう。ツイート数は7日午前8時半(ロンドン時間)で3万2201件、フォロワーは870万9825人です。1日平均15.05回ツイートし、リツイート率は97.1%で計1017万7597回もリツートされています。

お気に入り率も97.1%で、計2827万4206回お気に入りに加えられています。ものすごい影響力です。すでにヒラリーに対するツイート攻撃はエスカレートしています。

もしヒラリー・クリントンが自分の夫も満足させられないのなら、彼女が米国を満足させられると考える根拠はいったい何?」(4月27日)

「歪んだヒラリー・クリントンが国境を完全に開放することを求めている。数百万人の民主党支持者が彼女のもとを離れて私を支持する」(5月7日)

「面白い。歪んだヒラリーが女性に関して私を非難する広告を打てるのか。彼女の夫は米国の政治史上、最悪の女性虐待者なのに」(5月17日)

「クリントンは、トランプは危険だと言っている。いったい誰が(リビアの)ベンガジで4人の米国人を殺したんだい」(6月3日)

歪んだヒラリー・クリントンはもう7カ月以上も記者会見を開いていない。彼女の記録は最悪だ。彼女はタフな質問に答えられないのさ」(6月7日)

「クリントン前大統領時代のシークレット・サービスのエージェントが歪んだヒラリーの化けの皮を剥がした。彼女は気まぐれで暴力的だ、と。大統領には向かない気性だ」(同)

だんだん下がるヒラリー支持率

米政治専門サイト、リアル・クリア・ポリティクスが集計した世論調査の結果をグラフにしてみました。まだヒラリーの優勢は続いています。トランプの支持率がヒラリーを上回ったのは78回中9回ですが、ヒラリーの支持率がだんだん落ちてきているのが気がかりです。

出所:リアル・クリア・ポリティクスのデータをもとに筆者作成
出所:リアル・クリア・ポリティクスのデータをもとに筆者作成

ヒラリーVSトランプ対決になった場合、どちらがどれだけ嫌われているかで勝敗が決まると言われています。トランプは共和党予備選でメキシコ系、イスラム系移民や女性を敵に回し、グローバル化、デジタル化から落ちこぼれた「白人男性」の票を集めました。

嫌われるヒラリー

ビル・クリントン元米大統領の妻で、エリートの階段を上り詰めたヒラリーは、いま世界中で嫌われている政治支配層や既得権のシンボルです。エリート臭をぷんぷん漂わせ、民主党予備選でも若者の支持を集めることができませんでした。

それが社会改革を唱えるバーニー・サンダース上院議員(74)に最後の最後まで苦しめられた理由です。米ギャラップの世論調査(5月29日~6月4日)によると、支持率から不支持率を引いたネット支持率はサンダースが+9ポイントでトップ、2位がヒラリーで-17ポイント、トランプは-31ポイントです。

出所:ギャラップ・データをもとに筆者作成
出所:ギャラップ・データをもとに筆者作成

メキシコ系、イスラム系、女性を敵に回したトランプの嫌われ度は相当なものです。

機能不全に陥る二大政党制

米国政治はこれまで共和党と民主党の二大政党制でしたが、今回の大統領選予備選で「四極化」していることが浮き彫りになってきました。二大政党制と言えば、米国と英国が代表選手でしたが、英国はすでに多党化しており、米国でも二大政党制が機能不全に陥っています。

出所:筆者作成
出所:筆者作成

簡単なマトリクスを作ってみました。サンダースもトランプも民主党や共和党の候補者というより、党内無党派と表現した方が適切でしょう。英紙フィナンシャル・タイムズのワシントン・コラムニスト、エドワード・ルース氏はこう指摘しています。

「トランプが毒舌で剣闘士(グラディエーター)のようにヒラリーを仕留めようが仕留めまいが、米国の民主主義はすがた形を変えることになる」

拡大する下流社会

画像

先のエントリーで掲載したバブルチャートをもう一度、見てみましょう。米ピュー研究所のデータと英紙フィナンシャル・タイムズの記事を参考にしたものです。横軸は2000年から14年にかけての229都市圏(米国全人口の76%)の人口変化率、縦軸は世帯収入(中央値)の変化率です。バブルの大きさは人口を表しています。

人口はグラフの右側の方向に増える一方、世帯収入は下の方向に下がっていることが一目瞭然です。バブルの大きさは人口を表しているので、収入の下がった世帯がものすごく増えていることが分かります。

それに伴うように民主党と共和党の支持率も下がっています。ギャラップの政党支持率を見てみましょう。

出所:ギャラップHPより抜粋
出所:ギャラップHPより抜粋

共和、民主の二大政党の支持率は下がり続け、4月時点でそれぞれ25%と31%です。無党派はどんどん増え続け、44%に達しています。アンチ・エリートの無党派層がヒラリー不支持に動けば、悪夢の「トランプ大統領」は絶対にあり得ないシナリオとは言い切れないでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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