がんと診断されたら、仕事は辞めないといけないの?

がん研究の実験室(写真:アフロ)

読売新聞(ヨミドクター)によると、がんになって退職する患者の41%が、治療が始まる前に辞めていることが厚生労働省の研究班による調査で分かりました。調査は昨年10~12月、国立がん研究センターなど3つのがん専門病院で行われました。がんと診断された時、働いていた患者950人が答えています。

がんと診断されて仕事を辞めたのは199人(21%)。このうち診断確定時が32%、診断から最初の治療までの間が9%でした。治療開始後に辞めたのは48%。辞めた理由は「職場に迷惑をかけるから」「仕事とがん治療を両立させる自信がないから」が多かったそうです。

少し古くなりますが、厚生労働科学研究費補助金、厚生労働省がん研究助成金「がんの社会学」に関する合同研究班(2004年)の調査では、がんの診断後、現在も勤務しているが48%だったのに対し、30%が依願退職し、4%が解雇されていました。自営業者の場合、13%が廃業しています。

またNPO法人がん患者団体支援機構・ニッセイライフ共同実施アンケート調査(09年)によると平均年収は診断前が約395万円だったのに診断後は約167万円にまで減っています。

出所:内閣府の世論調査
出所:内閣府の世論調査

内閣府が14年11月に実施したがん対策に関する世論調査では、「日本の社会は通院しながら働き続けられる環境と思いますか」という質問に対して「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」と答えた人は合計で実に65.7%にのぼりました。

同

治療と仕事の両立を困難にしている最大の要因については、

「代わりに仕事をする人がいない、またはいても頼みにくいから」22.6%

「職場が休むことを許してくれるかどうかわからないから」22.2%

「休むと職場での評価が下がるから」8.8%

と答えています。

国立がん研究センターによると、15年のがん罹患数は98万例、死亡数は37万人とみられています。がんと診断されてショックを受け、抗がん治療で心身ともに打ちのめされる中、仕事も失うとなると相当なダメージです。日本ではがんと診断されても、なかなか職場で言い出せないという話を聞いたことがあります。

筆者も彼女(現在の妻)が11年に受けた乳がん手術と抗がん治療が、28年勤めた新聞社を退職するきっかけとなりました。最近、「経過観察の必要なし」と診断され、ホッとしたところです。

英国では英BBC放送のプレゼンター、ビクトリア・ダービーシャーさんが闘病生活のビデオダイアリーを発表。チャンネル5のニュースアンカー、シャーン・ウィリアムズさんも両乳房を全摘出していたことを明らかにし、大きな感動を呼びました。

がん患者の家族や生活を追ったBBCのドキュメンタリー「The Big C & Me」も話題になっています。

がん患者を支援している英国の民間団体「マクミラン」によると、生産年齢(15~64歳)のがん患者は英国で70万8576人(10年)。がん患者の3分の2は出費が増え、以前のように働けなくなったことでうつや自信喪失に陥ったり、罪の意識を感じたりする人が少なくありません。

がん患者の80%は働き続けることは大切と考えていますが、47%は仕事を止めたり転職したりしなければならなかったそうです。そのうち43%が体力的に働くのは無理と感じていますが、適切なサポートさえあれば多くの人は仕事に復帰することができます。

英国では10年平等法でがんと診断されると、障害者として認定され、さまざま社会保障が受けられます。しかし、雇用者の71%はがんが障害と認定されていることを知りませんでした。がん生存者が仕事に復帰できなかったことによる損失はイングランド地方だけで53億ポンド(約8300億円)にのぼると試算されています。

厚生労働省の「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」報告書(14年)によると、がんを明らかにして治療のための休暇を取得しやすい職場環境や企業風土が日本ではまだ十分には形成されていません。外来治療に合わせて柔軟に休みがとれる時間単位、半日単位の休暇制度、短時間勤務制度を導入している企業もありますが、全体には行き渡っていません。

退職勧告や、がん既往歴により就職が困難になることを恐れて、病名を言えないことさえあるそうです。

非正規雇用の立場はもっと弱くなります。会社や立場により基本的な権利に違いが生じることはあってはならないことです。相談支援や企業向けガイドラインなどの啓蒙活動、がん患者が就労を継続できるよう専門の相談員が調整を行うだけでなく、一律にがん患者の就労が守られる枠組みが必要だと思いました。

(おわり)