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それでも北朝鮮の核開発は止まらない 金正恩「核先制不使用」の真意

木村正人在英国際ジャーナリスト
北朝鮮 朝鮮労働党 36年ぶり党大会開催(写真:ロイター/アフロ)

改めて「核保有国」宣言

朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩第1書記は36年ぶりに開かれた朝鮮労働党大会で以下のように開会演説しました。

「第7回党大会が開かれる今年、わが軍と人民は初の水爆実験と地球観測衛星光明星4号(テポドン2号改良型とみられる)の打ち上げという偉大な成功を収めた。5千年に及ぶ国家の歴史の金字塔となり、可能なまでチュチェ(主体)朝鮮の尊厳と力を押し上げた」

「国防科学セクターはチュチェ朝鮮初の水爆実験で意義深い年の前奏曲を演じ、国家の尊厳と主権を守る奇跡的な勢いをもたらした。(生産や建設などを集中的に行う)70日戦闘と勝利者の誇りに満ちた党大会の開会を告げた」

また、活動総括報告ではこう述べました。

「戦争のない平和な世界を構築するのがわが党のゴールだ。わが党と北朝鮮政府は地域と世界の平和と安全保障のため弛まなく努力してきた」

「わが国は責任ある核保有国として、核を保有する敵意ある攻撃的な国によって主権が侵略されない限り、核兵器は使用しない。我々はすでに宣言している通り、核不拡の義務を忠実に果たし、世界の非核化に努める」

「わが党と北朝鮮政府は、北朝鮮の主権を尊重すれば、かつては敵対した国々であっても、関係を改善して正常化し、友好を深める」

金正恩の演説にも、活動総括報告にも中国という言葉は出てきません。「核兵器の先制不使用」を宣言して、中国の習近平国家主席との関係改善を図ろうとしています。それとも完全な中国と北朝鮮の出来試合なのでしょうか。

環球時報「北朝鮮はさらに核実験を行う」

今回の党大会には3千人以上が出席し、中国の国営メディア、環球時報を含め外国の報道陣100人以上が取材しています。しかし、会場からは締め出されているそうです。金正恩の言葉は朝鮮中央通信からの引用です。中国は金正恩の発言をどうみているのでしょう。

環球時報は金正恩の発言について、中国共産党中央党校の北朝鮮専門家Zhang Liangui氏から取材して「金正恩の開会演説は北朝鮮が核兵器保有国になったことを改めて強調している。実際には北朝鮮は核兵器保有国ではない。核兵器保有国というステイタスは金正恩が絶賛する特別な政治的な達成の一つだ」という分析を紹介しています。

Liangui氏はまた「米国のオバマ大統領がレームダック(死に体)化している残る数カ月の間を利用して、北朝鮮はさらに核実験を行う可能性がある。しかし新しい大統領が就任した後は米国との緊張を緩和するよう努めるかもしれない」との見方を示しています。

核兵器・ミサイル開発は金正恩自らと北朝鮮の体制を保障する決め手になっています。北朝鮮は核戦力増強と経済建設の「並進路線」を進め、今年から「国家経済発展5カ年戦略」を遂行するとしています。

しかし、核兵器・ミサイル開発を止めないかぎり、北朝鮮に対する経済制裁が解除されることはないでしょう。

イメチェン図る金正恩

マーク・フィッツパトリック所長(筆者撮影)
マーク・フィッツパトリック所長(筆者撮影)

核問題に詳しい国際シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)ワシントン事務所のマーク・フィッツパトリック所長に解説してもらいました。

「金正恩は責任ある行動を取るように見せようとしています。また彼の核政策について、他の核兵器保有国と同じように核兵器を使用するのは防衛のためだけだと印象付けようと試みています。欧米諸国と同じように装うことで金正恩は新しいイメージを作ろうとしているのです」

「しかし金正恩の新しい試みが、核兵器でニューヨークを破壊する、ホワイトハウスを蒸発させる、ソウルを火の海にするといった北朝鮮のつい最近の恫喝からくる向こう見ずな印象を打ち消すのは簡単なことではないでしょう」

「北朝鮮は主権が脅かされていると考えない限り核兵器を使用しないという金正恩の発言は信じるに足るでしょう。なぜなら、いかなる核兵器の使用も米国や韓国から即座に破壊的な報復を受けるからです。金正恩が完全に正気ではなく、自滅的にならない限り、核兵器を使う計画はないでしょう」

「しかし金正恩が間違って主権が脅かされたと考えるかもしれない危機のエスカレート状況は容易にイメージできます。だから金正恩の責任あるように見せる努力によって安心することはできません。北朝鮮の核兵器は近隣諸国の恐ろしい脅威になっています」

米国を6カ国協議のテーブルに戻したい中国

「中国に関して言えば、金正恩が核兵器についてより責任あるマナーで語ることを歓迎しているでしょう。しかし中国は金正恩の核政策が何一つ変わっていないことを理解しています。中国は金正恩が攻撃のために核兵器を使うと考えたことがありません」

「中国は間違った認識の結果、または他の誤りによって金正恩が核兵器を使用する危険性について理解しています。米国が緊張緩和のため交渉のテーブル(6カ国協議)につけるよう、中国は金正恩に核実験の中止を求めています。しかし中国は金正恩が核兵器を手放すよう十分な圧力をかけるつもりはないのです」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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