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ベルギー連続テロで地下鉄が狙われた 利用客が世界最大の東京は大丈夫か

木村正人在英国際ジャーナリスト
爆破されたブリュッセルの地下鉄マルベーク駅(写真:ロイター/アフロ)

標的になった空港ターミナルビルと地下鉄

ベルギーのブリュッセル国際空港と地下鉄のマルベーク駅で起きた連続爆破テロで死者が今のところ、少なくとも計30人、負傷者は222人にのぼっています。空港の防犯カメラは荷車を押す3人組の男を撮らえていますが、2人は爆死、残り1人が逃走したとみて、ベルギー捜査当局は行方を追っています。

過激派組織ISは「ターゲットは慎重に選ばれた。敵対する十字軍の国々にはさらに悪いことが起きる」と犯行声明を出しました。ベルギーのミシェル首相は「恐れていたことが起きた。わが国にとって暗黒の瞬間だ」と述べました。

爆破された現場は空港ターミナルの国際線出発ロビーと、地下鉄という公共スペースでした。空港の警備は搭乗券を提示してゲートを通過した後、X線検査装置、CT(コンピューター断層)スキャン、高性能爆発物検査装置で爆発物や火薬、ガスボンベや引火性の液体を厳しくチェックしています。

2001年の米中枢同時テロのようなハイジャック・テロや爆破テロによる大規模被害を防ぐことに重点が置かれ、今回狙われた空港ターミナルビルの警備はほとんど行われていないのが実態です。国際コンサルタント会社HISジェーンズ空港レビューのベン・ボーゲル氏はこう指摘しています。

「警備当局にとっては頭の痛い問題だ。これまではスクリーニングのチェックポイントに注意を払っていれば良かった。これに対してテロリストはやり方を変えてきた。ターミナルビルの玄関でセキュリティ・チェックを行うとなると大混雑を引き起こすし、不便で旅客機の出発時間を遅らせる。しかも、それで行列ができるとテロの格好のターゲットになる」

破壊された車両

05年のロンドン同時爆破テロでは地下鉄やバスで自爆テロが行われ、乗客52人が死亡しました。テロの再発防止のため地下鉄やバスの利用客に対するセキュリティ・チェックを行うか否かが検討されました。が、ロンドン地下鉄の駅数は270、路線延長は計402キロメートル、1日の利用客数は321万人にのぼり、「警備にかかるコストと利用客への不便さを考えると非現実的」と棚上げされました。

IHSカントリー・リスクの アナリスト、ローラ・チャカロバ氏とIHSジェーンズ・テロリズム&インサージェンシー・センターのマシュー・ヘンマン所長は今回のテロについて次のように分析しています。

「インターネット上の画像が本物なら、今回の爆発物はパリのテロより威力がある。地下鉄車両は完全に破壊された。空港に向かうすべての鉄道、ロンドンやパリからブリュッセルに向かう高速列車ユーロスター、ブリュッセルの美術館はすべて閉鎖された。ブリュッセル国際空港は23日午前6時まで閉鎖され、旅客機は行き先を振り返られた」

仏エネルギー大手エンジーはベルギー南部のティアンジュ原子力発電所から、稼働に必要な作業員は残して残りの作業員を避難させました。テロリストが攻撃方法を変えてきたのは自動小銃や重火器などの武器の入手が容易になったことや爆発物の威力が増したことが背景にあります。

シリアやイラクで実戦経験を積んだISの外国人兵士が欧米諸国に潜伏するテロ細胞と合流する大規模テロの危険性が飛躍的に増します。

昨年12月、ISは情報漏れを警戒して欧米諸国のテロ細胞は作戦上の独立を保つべきだという内容のガイダンスを出しています。ベルギーの連続テロに呼応して、それぞれの国に潜伏するテロ細胞が行動を起こす可能性があるため、英国やフランスはロンドンやパリの主要空港の警備を強化するとともに、警官隊を首都や国境、交通機関のハブに配置してテロ警戒に当たっています。

五輪控える東京の備えは

出典:metrobits.orgのデータより筆者作成
出典:metrobits.orgのデータより筆者作成

日本の羽田国際空港は年間利用客が7530万人でロンドンのヒースロー空港(7495万人)より忙しい空港です。世界中で一番混雑している東京の地下鉄は駅数290、路線延長計304.5キロメートル、利用客は1日850万人です。

日本の治安当局は英政府通信本部(GCHQ)のような監視プログラムを実施しているわけでも、ロンドンのように地下鉄やバス、街のいたるところに防犯カメラを設置しているわけでもありません。ベルギーの連続テロは、20年に五輪・パラリンピックを控える東京にとっても大きな警鐘を鳴らしています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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