フェイスブックやグーグルを追い詰めた名も無きヒーローたち

フェイスブックを起業したマーク・ザッカーバーグ氏(写真:ロイター/アフロ)

FB英国法人が14年に納めた法人税はなんと70万円

英国の広告主からの収入を法人税率が12.5%と低いアイルランドの海外事業本部の収入として申告し、悪質な租税回避を行ってきた米フェイスブックが4日、英国での広告収入は英国で申告して法人税(税率は20%)の納付を増やす方針を明らかにしました。

フェイスブックはこうコメントしています。「英国の税制改正に照らして、今回の変更は英国でのフェイスブックの事業活動に透明性を与えるでしょう」「この4月から英国のチームが直接獲得した英国内での売り上げはアイルランドではなく、英国で計上されます」

ご存じの方も多いと思いますが、昨年10月にこんなショッキングなニュースが流れ、筆者も「フェイスブック英国法人の法人税は昨年わずか80万円」という記事をエントリーしました。英紙フィナンシャル・タイムズが非常に分かりやすい数字を列挙しているので、それをもとに簡単なグラフィックスを作ってみました。

出典:英紙FTを参考に筆者作成
出典:英紙FTを参考に筆者作成

為替レートを1ポンド=162円で計算して日本円に置き換えました。昨年10月と数字が変わっているのは為替が円高方向に変動したからです。2014年に英国での売り上げは170億円を超えていたのに、納めた法人税はわずか70万円。一方、362人の従業員に賃金計66億円、ボーナス計57億円を大盤振る舞いしています。

従業員に気前が良いとは言え、法人税額が13年51万円、14年70万円というのはいくら何でも少なすぎます。これを知った英国の納税者の怒りは頂点に達しました。英国歳入関税庁(HMRC)がメディアに情報をリークし、名前をさらして恥をかかせ納税を促す「ネイム・アンド・シェイム」の戦術をとったことは容易に想像がつきます。

悪名高き「ダブルアイリッシュ」と「グーグル税」

フェイスブックも検索エンジン、グーグルの悪名高き「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」と同じような租税回避の手口を用いていました。

グーグルの「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」の手口(筆者作成)
グーグルの「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」の手口(筆者作成)

欧州ではグローバル化と欧州連合(EU)拡大によって企業活動も多国籍化しています。英国の法人税率は30%(08年当時)から段階的に引き下げられ、現在20%。フェイスブックが租税回避スキームに使っていたと報じられているアイルランドは12.5%。タックスヘイブン(租税回避地)のケイマン諸島は0%です。

法人税が低いアイルランドに2つの関連会社を設立し(ダブルアイリッシュ)、米国の本社から海外事業のライセンスを与えます。そして利益の大半をタックスヘイブンにある管理会社に移して英国での利益を最小化していたとみられています。

グーグルは210億円を追加納税

英国では今年1月、グーグルがHMRCとの間で2005~14年度について1億3千万ポンド(約210億円、延滞税を含む)を追加納税することで合意しました。グーグルの英国での納税額(13年)は約2千万ポンド(約32億4千万円)でした。

英国では、グーグルやスターバックスなど米超多国籍企業がタックスヘイブンや知的財産に対する優遇税制をフルに利用して悪質な租税回避を行っていることが大きな社会問題になってきました。こうした納税者の怒りを受け、オズボーン財務相は昨年4月から、懲罰的な意味を込め、法人税(20%)より高い税率25%を適用する「グーグル税」を導入しました。

経済協力開発機構(OECD)や20カ国・地域(G20)も悪質な租税回避を許さない国際的な枠組みをつくることで合意し、EUも超多国籍企業の租税回避に対する包囲網を狭めています。フェイスブックは英国で懲罰的な「グーグル税」を適用される前に租税回避スキームの撤廃を表明したように見えます。

が、英紙インディペンデントなどは、フェイスブックには2140万ポンド(約34億6700万円)にのぼる繰延課税免除があり、今後、どれぐらい法人税を納税するのか現時点ではっきりしたことは言えないと報じています。フェイスブックのようなテクノロジー企業の場合、収益の大半はシリコンバレーで開発された技術によるところが大きく、どこで利益と開発費を計上するのか難しい面があります。

09年から超多国籍企業の悪質な租税回避を追及してきた公認会計士で市民運動「タックス・リサーチUK」代表のリチャード・マーフィー氏は「前進と言えば前進だが、アイルランドがダブルアイリッシュを使った租税回避スキームを廃止せざるを得ない状況に追い込まれた。ダブルアイリッシュを使えなくなったフェイスブックが残された控除申請の道を選んだだけ」とブログで手厳しく書いています。

そして、「これは消費者の圧力と市民社会の行動が税制を改革したことを雄弁に物語っている。もしそれがなければ超多国籍企業による悪質な租税回避を追及した経済協力開発機構(OECD)によるBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトも動かなかった」と指摘しています。

フェア・タックス・タウン

先のエントリーでも紹介した話ですが、風光明媚な英ウェールズ地方のブレコンビーコンズ国立公園にクリックホーウェルという人口2800人の小さな街があります。この街のカフェ「ナンバー18」の経営者は、大型コーヒーチェーン「カフェ・ネロ」が07年から英国で法人税を納めていないと知って、びっくり仰天します。

小さなカフェ「ナンバー18」でも5年間で13万7千ポンド(約2200万円)も税金を納めているのに、どうしてカフェ・ネロの法人税はゼロなのか、納得できません。街の住民はタックスヘイブンの英王室属領マン島でペーパーカンパニーを作ったり、アムステルダムで知的財産に対する優遇税制を使ったりする合法的な税逃れを公認会計士や弁護士から教えられ、目を丸くします。

英BBC放送のドキュメンタリー番組「The Town That Took on the Taxman」で、「もし私たちも超多国籍企業と同じような租税回避スキームを利用して税金を納めないようにしたら、私たちの街の学校や病院、道路はどうなるの。私は超多国籍企業のようにはできないわ」と眼鏡店の女性経営者は漏らします。クリックホーウェルの人々は「フェア・タックス・タウン」運動を起こし、超多国籍企業に自分たちと同じように税金を納めるよう働きかけてきました。

フェイスブックやグーグルを追い詰めたのはOECDでも、EUでも、英国のオズボーン財務省でもありません。クリックホーウェルの商店主や、租税回避を行っていたコーヒーチェーン・スターバックスに対するボイコットを呼びかけた消費者、公認会計士のマーフィー氏ら名も無きヒーローたちなのです。

(おわり)