マケドニア国境で難民に催涙ガスを水平撃ち このままではEUは崩壊する

マケドニア警察が難民に向け催涙ガスを発射(写真:ロイター/アフロ)

ギリシャのマケドニア国境で29日、数百人の難民が国境を封鎖しているフェンスを破壊しようと試みたのに対し、マケドニア警察は催涙ガスの水平撃ちで応じる騒ぎに発展しました。至近距離から被弾した難民は胸を押さえて倒れました。

英紙ガーディアンや英BBC放送の報道では、子供たち10人が催涙ガスで呼吸困難に陥り、緊急医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」の手当てを受けました。うち4人は5歳未満だったそうです。少女が水で目を洗うシーンがテレビ画面に映しだされました。

トルコから近接するギリシャの島々にゴムボートで渡ったシリアやイラク、アフガニスタンの難民はバルカン半島を北上してドイツやスウェーデンを目指します。

パスポートがなくても国境を自由に行き来できたシェンゲン協定国(26カ国)の中でもテロ対策や難民の流入管理のため、緊急措置として国境を管理する国が相次いでいます。欧州連合(EU)域内ではスウェーデン、デンマーク、ベルギー、オーストリア、ドイツ、フランス、域外ではノルウェーの計7カ国です。

ドイツの緊急措置が今年5月に期限を迎えるため、難民危機が落ち着くまで2年間にわたってシェンゲン協定を中断しようというシナリオが浮上しています。シェンゲン協定は事実上、すでに崩壊しています。

フェンスで封鎖された国境(赤線) BBCをもとに筆者作成
フェンスで封鎖された国境(赤線) BBCをもとに筆者作成

シェンゲン協定国の7カ国が国境管理を実施しているため、大量の難民がバルカン諸国で滞留してしまう恐れがあります。このためオーストリアやスロベニア、ハンガリー、マケドニア、ブルガリアが国境に有刺鉄線のフェンスを設けて難民の流入を阻止しています。

マケドニア国境のギリシャ・イドメニでは簡易施設に7千人以上の難民が足止めされ、フラストレーションがたまっていました。難民は「国境を開けろ」と叫びながら柱でフェンスを突き破ろうとしたり、投石をしたりするなどして警官隊と衝突しました。

ギリシャ全体では2万5千人が足止めを食っています。

マケドニア政府は、アフガン難民を「経済難民」とみなして越境を認めていません。その一方でシリア・イラク難民約300人の通過を認めた数時間後に騒ぎが起きたそうです。ギリシャ警察もマケドニア側から発射された催涙ガスを浴びせられました。ギリシャはご存知の通り、EUから厳しい財政再建を迫られ、財政はギリギリまで切り詰めています。

十分な難民対策を行う余裕はないにもかかわらず、EUからは、難民が入ってこないようトルコとの国境管理をしっかりしろとお尻をたたかれています。EUはトルコに30億ユーロの支援金を渡す代わりに難民の流出を止めるよう求めていますが、あまり効果は上がっていません。

EUは、残留・離脱を問う国民投票に忙しい英国に代表されるように、四分五裂の状態です。ハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアでは東欧ナショナリズムが台頭し、難民の受け入れに拒絶反応を示しています。

ギリシャやイタリアに上陸した難民16万人をそれぞれ人口や経済力に応じてEU加盟国が自主的に受け入れる割当制で合意したはずなのに、実際に受け入れられたのは600人という有様です。

ドイツのメルケル首相は「私たちはギリシャを破綻させるために、債務危機から救済したわけではない」とオーストリアとバルカン諸国が有刺鉄線のフェンスで国境を閉鎖したことを強く非難しています。

昨年ドイツに流入した難民は110万人に達しました。メルケル首相自身、政権基盤のキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)から「難民の受け入れは年20万人が限界」と突き上げられています。

EUが難民危機を乗り越える方法は利己主義に走らず、加盟国が協力して解決策を見出すことです。しかし、その兆候は見えません。難民問題は支持率に直結するため、どの政権でも強硬意見に流される傾向があります。

しかし、このままではシェンゲン協定は2年間にわたって中断され、EUという欧州統合プロジェクトは瓦解してしまう恐れすらあります。

(おわり)