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「ヴォルデモートもトランプ氏の邪悪さには及ばない」ハリー・ポッター作者 英下院は氏の入国禁止を審議

木村正人在英国際ジャーナリスト
米共和党候補指名争い。大学で演説するトランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

これまで84人を入国禁止にした英国

米大統領選の共和党指名争いで支持率トップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏の英国への入国禁止を求める電子署名が57万6千人以上も集まったため、18日、英下院で約3時間にわたって審議が行われました。トランプ氏がイスラム教徒の米国入国禁止を呼びかけ、メキシコ系移民を犯罪者やレイプ犯人と決めつける差別発言を行ったためです。

英国では、公序良俗を乱し、公益に反する言動を繰り返す人物について入国禁止にするかどうか決める権限が内相にあります。

これまでにヘイトスピーチでイスラム教の聖典コーランを燃やした米フロリダ州ゲーンズビルのキリスト教会「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター」の牧師テリー・ジョーンズ氏、イスラム排斥を公然と唱えるオランダの極右政党・自由党のヘルト・ウィルダース党首ら84人が入国禁止になっています。

トランプ語録

まずトランプ氏の問題発言を見ておきましょう。

「私たちの国の代表が、何が起きているのか把握できるまでイスラム教徒が米国に入国するのを全面的かつ完全に禁止することを要求する」

「ロンドンには、過激化が非常に進み、警察官が自らの命の危険を感じている地域がある」

「メキシコが人々(移民)を送り出すとき、最良の人ではなく、多くの問題を抱えた人を送ってくる。こうした人々が米国にドラッグや犯罪など問題を持ち込んでくる。彼らはレイプ犯人たちだ。一定の人たちは確かに良い人たちだ」

自分の成功について「人生のすべては運にかかっている」と語り、ヘアスタイルに関しては「実際のところ私の髪型はそんなに悪くない。ハゲの上に髪を乗せて隠していると言われているが、本当はそうじゃない」と反論しています。オバマ米大統領は「おそらく米国の歴史上、最も透明性の少ない大統領だ」とこき下ろしています。

もし米大統領選で共和党の指名候補者に選ばれたら「共和党は大勝利を収めるだろう。ひょっとしたら、あなた方は勝利することにうんざりしてしまうかもしれない」と豪語しています。

「トランプ氏をローストにしてやろう」

トランプ氏のイスラム教徒入国禁止発言などについて、人気魔法使いシリーズ「ハリー・ポッター」の作者J.K.ローリング氏は「邪悪なヴォルデモートもトランプ氏の足元にも及ばない」と反発し、保守党のボリス・ジョンソン・ロンドン市長も「私がニューヨークの特定箇所に行かないであろう理由はトランプ氏に会う危険性があるからだ」と批判しています。

英国では、間接民主制を補完する手段として、10万人以上の電子署名が集まった場合、下院で審議を行うかどうか検討するルールが2010年に導入されました。トランプ氏を入国禁止にするかどうかについての電子署名は57万6千人を超えました。これを受けて、下院で3時間に及ぶ審議が行われ、約40人の下院議員が発言しました。

「英国人は牛肉をローストするのが得意だ。代わりにトランプ氏をローストにしてやろう」(保守党議員)

「トランプ氏が私の選挙区の有権者に会ったら、彼らはトランプ氏を馬鹿な奴!と言うでしょう」(保守党の女性議員)

「奴をここに連れて来い。足の間についている尻尾と一緒に送り返してやる」(北アイルランドの民主統一党議員)

「トランプ氏を英国の海岸から1千マイル以上を遠ざけるべきだ。英国だけでなくポルトガル、スウェーデン、ポーランドにも入れるべきではない」(労働党議員)

「好むと好まざるとにかかわらず、トランプ氏は世界で最も強力な国の有力な候補者だ。英国は、トランプ氏よりもっと悪い不正に言及せずに、サウジアラビアや中国の指導者を歓迎している」(保守党議員)

審議には入国禁止の決定権を持つメイ内相や有力議員は出席しませんでした。「入国禁止にすればトランプ氏を『殉教者』にすることになり、逆に利用されるだけ」「表現の自由を優先すべき」といった発言のほか、米国との特別な関係に差し支えるといった趣旨の発言もありました。結局、採決も行なわれず、言い放しの審議になりました。

「ゴルフ場への投資を引き揚げる」と逆ねじ

キャメロン首相はトランプ氏のイスラム教徒入国禁止発言について「不和を引き起こし、愚かで、間違っている」と批判しています。しかし英国政府の公式な立場は「個人の入国管理や入国禁止の決定にコメントしない」ということだそうです。これに対して、当のトランプ氏は英国が自分を入国禁止にしたら、スコットランドのゴルフ場に投資している7億ポンド(約1167億円)を引き揚げると逆に脅しています。

最大野党・労働党のコービン党首は英BBC放送の番組で「トランプ氏はメキシコ系移民やイスラム教徒と問題を抱えているので、英国を訪れた際には自分の選挙区を訪れるよう招待することを決めた」と話しました。ロンドン北部のモスク(イスラム教の礼拝所)を案内したいそうです。

「私の 妻はメキシコ人です。私の選挙区はとてもとても多文化です。是非、トランプ氏に一緒にモスクに来てもらって、住民と話してほしいものです」

トランプ氏が共和党の指名候補者になるのも、米国の大統領になるのも想像したくありません。もし将来、トランプ氏の訪英が決まったら、その時は真剣に議論して、「イスラム教徒入国禁止」などの問題発言を撤回しない限り、入国は絶対に認めないという厳しい決定を下して欲しいものです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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