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デジタル時代に敗れた平均63歳「24億円シルバー宝石泥棒」の哀れな末路

木村正人在英国際ジャーナリスト
有罪判決を受けたシルバー宝石泥棒(ロンドン警視庁発表写真より筆者作成)

英ロンドン中心部の宝飾店街ハットン・ガーデンで昨年4月、貸金庫業者の金庫が破られ、現金や宝石類など1400万ポンド(約23億8千万円)が盗まれた事件で、平均年齢63歳余、合わせて442歳というシルバー宝石泥棒の7人が14日、ロンドンにあるウリッジ刑事裁判所で有罪判決を受けました。

上の写真を見ても、かなりシルバーな窃盗団です。英国でも犯罪者の高齢化が進んでいます。首謀者のうち2人は1980年代の巨額強盗事件にも関与しており、今回は老後をスペイン南部アンダルシア州のコスタ・デル・ソル(太陽海岸)で過ごそうと3年がかりで金庫破りを計画していました。ところがロンドン警視庁のデジタル捜査網に引っ掛かって、あえなく御用となり、一攫千金の夢は潰えました。

370万ポンド(約6億3千万円)は被害者の手元に戻りましたが、まだ1千万ポンド(約17億円)分の宝石が未発見です。44歳と35歳とまだ若い2被告に対する判決は3月末に言い渡される予定で、ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)は姿をくらましている通称「Basil」の行方を追っています。

有罪判決を受けた7人は以下の通りです。

ブライアン・リーダー被告(76)。1983年、武装した6人組がヒースロー空港の倉庫から2600万ポンドの金塊やダイヤモンド、現金を強奪した事件に関与。「油をまいて火だるまにしてやる」と従業員を脅して金庫を開けさせるという荒っぽい手口。奪った金塊は溶かし、「ゴールドフィンガー」と呼ばれる地下ブローカーを通じて売りさばいていました。内通者が協力していました。

テリー・パーキンズ被告(67)。1983年、15人の覆面男が武装して倉庫を襲撃し、600万ポンドの現金を強奪した事件に関与。女優バーバラ・ウィンザーの夫だったルーニー・ナイトらナイト兄弟が首謀していました。

ジョン・コリンズ被告(75)

ダニエル・ジョーンズ被告(58)

ヒュー・ドイル被告(48)

ウィリアム・リンカン被告(60)

カール・ウッド被告(58)

事件の舞台はハットンガーデン・セーフデポジット社の貸金庫。昨年4月2~5日のイースター(復活祭)ホリデーを狙った犯行で、ハットンガーデン・セーフデポジット社の貸金庫には多くの宝石商が在庫品や宝石類、現金を預けていました。

被告らはビルの共用エレベーターを止め、ワイヤを伝って地下室に侵入。大型ドリルで貸金庫のコンクリート壁に人1人がようやく通り抜けられる奥行き50センチ、幅45センチ、高さ25センチの穴を貫通させていました。

大型ドリルで開けられた穴(C)ロンドン警視庁
大型ドリルで開けられた穴(C)ロンドン警視庁

さらにバールやグラインダーなどを使って72個の貸金庫を壊して、現金や宝石類が入った56個のセーフティーボックスを持ち去りました。

バールなどで貸金庫を捜索していた(C)ロンドン警視庁
バールなどで貸金庫を捜索していた(C)ロンドン警視庁

不審者が侵入したことを知らせるビルの警報が作動しましたが、正面玄関も裏口も施錠されていたため、警備員は異常に気づかなかったそうです。警察に通報があったのは連休明けの4月7日で、大型ドリルなどの機材は現場に放置されていました。

もしこれが20世紀なら被告らはまんまと大金をせしめて、太陽海岸で優雅な老後を過ごせていたのかもしれません。しかし時代はデジタル化が進んだ21世紀です。街のいたる所にCCTV(防犯カメラ)が設置されています。さらにデータベースを使った前歴者の洗い出しや携帯電話の盗聴も容易になっています。

警察は捜査の網を絞り込み、隠しカメラや隠しマイクを使って被告らの行動確認を始めます。溜まり場のパブで被告らが金庫破りを手振り身振りで再現してみせる様子を捜査員は隠しカメラで撮影しています。シルバー宝石泥棒が追いかけたピカレスク・ロマンはデジタル捜査の前に完敗してしまいました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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