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外務省内定者に「TOEFL100点以上」とは、あまりにトホホ過ぎないか

木村正人在英国際ジャーナリスト
APEC会場で会見する日本の外交官(写真:ロイター/アフロ)

外務省が2016年度から、内定者に英語力テストTOEFLで100点以上(またはIELTSで7.0以上)の獲得を目標に課すそうです。読売新聞が伝えています。なんと言うか、トホホなニュースですね。外交官と言えばエリート中のエリートのはずなのに、英語圏留学のために必要なTOEFLのスコアを義務化しなければならないとは、日本は大丈夫なんでしょうか。

今春入省予定の総合職の新卒内定者約30人のうち、内定時にTOEFL100点以上の基準を満たしていたのは3割程度だそうです。TOEFL100点以上を持っていたとしても、海外でどれだけ通じるのか疑問です。エリートの役割は時代とともに変わってきました。優秀な人材が以前のようには外務省に集まらなくなってきたことが背景にあるのでしょう。

2001年度から外務公務員1種試験が国家公務員採用1種試験に統合されました。外交官を志す人も行政法や民法など幅広い知識が試されるようになり、語学や国際関係に秀でた人材に絞って採用できなくなったという弊害が以前から指摘されていました。

さらにグローバル化が急速に進んだため、英語の重要性が増し、中国語やアラビア語の習得者にもより高い英語力が求められるようになっています。TOEFL100点以上の義務化は、時代の変化に対応するための軌道修正とみることができます。しかし、問題はそれだけでは済ませられません。

「生涯賃金が外資系企業に比べて見劣りする」「官僚に対する世間の目がこれだけ冷たいと、希望者が少なくなる」という声をよく耳にします。天下りという特典もなくなりました。優秀な人材が海外留学や海外勤務を経た後、外資系や民間に転職するというケースもあります。有名高校、東大、外務省、天下りというルートは、かつての輝かしいエリートコースではなくなりました。

日本人は英語が苦手と言われますが、果たしてそうでしょうか。英語を流暢に話せる日本人はたくさんいます。帰国子女、英語を話す外国人と結婚し、海外で働いている人、海外で起業しているビジネスパーソン。海外のNGO(非政府組織)で活動する日本人。在外公館にも外交官より英語が達者な専門調査員は決して少なくありません。

外務省も民間との人材交流に取り組んでいますが、大学、法曹界、企業、NGO(非政府組織)との交流枠を広げ、期間も長期化するなど人事をもっと柔軟に行うべきでしょう。国際貢献においてNGOや企業など民間の役割は非常に大きくなっています。国際経験のある若者も増えています。外務省こそグローバル化の先頭を走るべきなのに、お役所の古い体質を引きずっているのではないでしょうか。

少子高齢化で人材はますます少なくなってきます。優秀なグローバル人材を集めるためには、職場や働き方のデザインを21世紀仕様に変える必要があります。内定者に「TOEFLで100点以上」を義務化するというニュースを聞いて、外務省も焼きが回ったというか、明治以降、日本を支えてきたシステムに相当、ガタが来ていると思いました。

『韓国のグローバル人材育成力 超競争社会の真実』の著者、岩渕秀樹さんが2015年1月のウエブマガジン『留学交流』で、日本のグローバル指向についてお隣の韓国と比較しています。

米国の大学に留学する日本人は21世紀に入り急速に減少したのに対し、韓国の留学生は急増し、2000年代半ばに日韓の留学生数が逆転、韓国の留学生数は日本の約4.3倍に達しているそうです。韓国の人口は日本の約4割なので人口比で言えば、日本の10倍以上に達しています。

日本語と韓国語の文法は似ていますが、岩渕さんによると、TOEFL受験者の平均スコアは2013年で韓国は85点、日本は70点と大きく水を開けられています。TOEFLのスコアがすべてではありません。しかし、英語ができると情報収集の幅が飛躍的に広がり、日本と外国の違いに目を向けることで視野が大きく広がるのは間違いありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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