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アマゾンやイーベイ悪用し「付加価値税」脱税 英税務当局が課税強化へ

木村正人在英国際ジャーナリスト
アマゾンの仮想市場を悪用した付加価値税の脱税が発覚(写真:ロイター/アフロ)

勝手に「ゼロ税率」適用

日本では2017年4月から消費税の税率が8%から10%に引き上げられるのを控え、食品全般と宅配の新聞に軽減税率が適用されたことが大きな話題になりました。英国では日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)をめぐる悪質な脱税手口がスクープされました。

VATの税率が20%の英国では生活必需品に5%の軽減税率とゼロ税率の例外が認められています。例えば、食品、飲料、ベビー服や子供服、印刷された書籍・地図・新聞にはゼロ税率、省エネ機器、高齢者の移動用補助具、子供用カーシートには5%の軽減税率が適用されます。

子育て世代や所得の低い家庭にはとてもありがたい制度です。

しかし、中国や香港、米国を「所在地」とする業者がアマゾンやイーベイ(eBay)といったインターネット販売を悪用して、20%のVATをごまかして安売りしている実態が市民団体や英紙ガーディアンの調査報道で分かりました。英税務当局の目を逃れて悪質業者が自分で勝手に「ゼロ税率」を適用していたわけです。

発端は「英国におけるイーベイとアマゾンのVAT不正と戦おう」という市民団体の独自調査に基づく告発でした。イーベイに出品している業者を2~3日かけてざっと調べただけでも、500社以上がVAT登録番号や完全な会社名、取引の所在地を表示していませんでした。

客になりすまして商品を購入し、VAT込みの請求書の送付を求めると、「我が社はVATの登録をしておりません」という回答が返送されてきました。こうした業者の所在地は中国や香港、米国になっており、英国内に発送拠点となる倉庫を持っていました。

4年間で360億円の脱税

市民団体の調査によると、500社以上の売上総額は2014年だけで3億ポンド(約540億円)にのぼったそうです。4年間で単純計算すると売上総額は12億ポンド(約2160億円)。イーベイの手数料は1億1千ポンド(約198億円)とみられ、2億ポンド(約360億円)のVATが脱税されたことになります。

ガーディアン紙によると、英国内から商品を発送する国外業者は売り上げがいくらであれ、アマゾンやイーベイで販売を始めた時からVATについて申告しなければなりません。年8万2千ポンド(約1476万円)以上ある場合、VATの登録番号を取得することが義務付けられています。

悪質な業者はVATの登録をせずに、アマゾンやイーベイの「詳しい出品者情報」欄にデタラメのVAT登録番号を記入したり、他社の番号を共有または無断で掲載したりしていました。所在地も会社名もVAT登録番号もすべてバーチャルだったわけです。

大半の欧州連合(EU)加盟国では22ユーロ(約2900円)未満、英国では15ポンド(約2700円)未満の小包についてはVATの課税対象外にするという規定があります。しかし客は実際には100ユーロ支払っているのに、悪質業者は代金20ユーロと偽って申告し、VATの課税を逃れていました。

アマゾン、イーベイ「取り締まる権限なし」

これは明らかな詐欺、不正、脱税行為です。にもかかわらず、アマゾンやイーベイは出品者の脱税を取り締まる立場にはないとガーディアン紙の取材に回答しています。

アマゾン「出品者はそれぞれVATの法令を守る義務を負っています。私たちには出品者の納税についてチェックする権限はありません。VAT登録番号の提示は求めていません」

イーベイ「サービスを利用するすべての事業者に法的義務を守るよう注意を喚起しています。役に立つガイダンスも提供しています。もしVATの法令違反があった場合、英税務当局と協力します」

アマゾンやイーベイを通じてアップルウォッチやiPad、パナソニックのカメラをVATなしで購入できたそうです。量販店アルゴスではiPad AirがVAT(53.17ポンド)込みで319ポンド(約5万7400円)もするのに、アマゾンに出品している中国の業者からは282ポンド(約5万800円)で買うことができました。

Fitbitのリストバンドは百貨店ジョン・ルイスでは93.95ポンド(約1万6900円)もするのにネット上の国外事業者からは92.89ポンド(約1万6700円)で買えます。これではとても公正な競争とは言えません。

4倍以上に膨らんだ小包便

EU加盟国への小包は2000年の2600万個から13年には1億1500万個にまで膨らみ、電子商取引は昨年1年で14%も増えました。今年5月、EUの欧州委員会は、悪質業者によるVATのごまかしで年間5億ユーロ以上の税収が失われると推定しています。

EUは取引が成立する前に出品者の情報を開示するよう求めており、オンラインの仮想市場を通じて販売される場合はウエブサイトで情報は提供されなければならないとの立場です。これまでテロ、薬物、模造品対策が優先され、VATのごまかしは後回しになってきたのが実態です。

世界金融危機で先進国の財政は苦しくなり、米国の多国籍企業による行き過ぎた租税回避が国際的な批判を浴びました。英国では厳しい財政再建が行われているだけに、英税務当局はあらゆる手段を講じてアマゾンやイーベイに出品している悪質業者に対するVAT課税を強化すると言います。

時代遅れになった税制

グローバル化とインターネットの急速な進展で各国の税制は時代遅れとなり、10月には日米欧に中国などを加えた20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議でタックスヘイブン(租税回避地)などを使った多国籍企業の税逃れを防ぐ新たなルールが採択されました。

日本では2009年に東京国税局が千葉県にあるアマゾンの配送センターを「支店」とみなして法人税140億円の追徴課税処分を決めたことがあります。しかしアマゾンは反論し、支払いに応じませんでした。日本と米国の相互協議の結果、「配送センターは倉庫で、『恒久的施設』ではない」というアマゾンの主張が認められ、追徴課税処分は取り消されたことがあります。

G20では、アマゾンのような重要な活動を行う現地大型倉庫は「恒久的施設」として課税すべきであるという合意ができ、今後、租税条約の改定が進めば課税できるようになりました。

日本でもアマゾンやイーベイに出品している国外事業者による消費税のごまかしはないのでしょうか。非常に気になるところです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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