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離婚の財産分与オンライン・システムに誤り 英国でやり直し数千件

木村正人在英国際ジャーナリスト
離婚届と結婚指輪と印鑑(写真:アフロ)

裁判所による財産分与や慰謝料の判定が女性に有利なことからロンドンは「離婚の都」と呼ばれている。人気歌手のポール・マッカートニー、ミック・ジャガーの離婚訴訟はロンドンで行われた。亡命ロシア人の大富豪・故ボリス・ベレゾフスキー氏が支払った慰謝料は英国の離婚訴訟で過去最高の2億2千万ポンド(約400億円)。財産分与の前提が5対5になっているからだ。

英国の司法省は昨年4月から、離婚する際、それぞれの資産と負債をオンラインに入力すれば財産分与を自動的に算定するシステム「フローム・E」を導入した。これなら双方が争わず、離婚訴訟の泥沼にはまらずに済む。

ところが、とんでもない落とし穴が見つかった。ある家族法コンサルタントが依頼者のデータを入力してみたところ、表示された財産分与の金額が自分で計算した結果と異なっているではないか。何度も確かめたあと、今月初めに司法省にシステムの誤りを指摘したところ、負債として入力した金額が財産の総額から減算されていないことが分かった。

日本と違って英国には信じられないぐらい計算に弱い人がいるが、1人のコンサルタントが誤りを指摘するまで、離婚を専門に手掛ける弁護士も含め、誰も間違いに気づかなかったというから驚きだ。

英国政府が電子化を推進する中、この問題は英紙ガーディアンのスクープで明らかになり、司法省も調査を始めた。この20カ月間でシステムを利用した数千人が対象になる。それでなくても気が重い離婚手続きのやり直しとは。当事者に同情の念を禁じ得ない。

英国では第二次大戦後と、離婚要件を緩和した1971年の離婚法の改正で離婚件数が急増した。最近では結婚件数の減少とともに離婚件数も減っている。

出典:英国家統計局のHPより
出典:英国家統計局のHPより

英国家統計局によると、離婚をめぐる13の事実とは次の通り。(2012年、イングランド、ウェールズ両地方の統計)

1 1時間に13のカップルが離婚

2 離婚件数は年間11万8140件

3 離婚の約半数は結婚から10年以内に起きる

4 離婚の65%は女性が引き金

5 60歳以上で離婚した男性は9703人。女性は6026人

6 離婚のうち7件に1件は不倫が原因

7 妻や夫が家を出た離婚は719件(全体の1%未満)

8 離婚の平均年齢は男性45歳、女性42歳

9 離婚の71%は初婚

10 両方とも離婚経験者の離婚は全体の9%

11 離婚の48%は少なくとも1人の子供が16歳になるまでに起きている

12 離婚は結婚4周年から8周年の間に起きやすい

13 結婚の42%は離婚に終わると予測できる

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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