Yahoo!ニュース

ジハーディストの花嫁、自爆テロの4分の1は女性が実行【パリ無差別テロ】

木村正人在英国際ジャーナリスト
女性ジハーディストのアスナ・アイトブラセン(英大衆紙サン)

「お前のボーイフレンドはどこだ」

パリ北郊サンドニの住宅街で18日未明、銃撃戦が繰り広げられた。その様子が生々しく録音されている。

警察の特殊部隊「お前のボーイフレンドはどこにいる」

女性ジハーディスト「私のボーイフレンドではないわ」

警察の特殊部隊「お前のボーイフレンドはどこだ」

女性ジハーディスト「私のボーイフレンドじゃないわ」

この後、自爆する爆発音が響き渡る。

フランス警察は、90人近い犠牲者を出したパリ・バタクラン劇場のゴミ箱の中から見つけた自爆テロ犯の携帯電話からこの隠れ家を突き止めた。携帯電話には「俺たちは着手した。(聖戦が)始まった」というメッセージと女性ジハーディストの連絡先が残されていた。

バタクラン劇場(筆者撮影)
バタクラン劇場(筆者撮影)

女性ジハーディストは、首謀者のモロッコ系ベルギー人アブデルハミド・アバウド(27)のいとこで、モロッコ系フランス人のアスナ・アイトブラセン(26)。アバウドとアスナがこの隠れ家に入っていくのを警察が確認している。

当初は「欧州で初の女性自爆テロ」と報じられたが、その後、別の男が自爆したことが判明している。

首謀者アバウド(右端)。甘いマスクでアイドル的な存在だった(DABIQより)
首謀者アバウド(右端)。甘いマスクでアイドル的な存在だった(DABIQより)

この現場ではアバウドとアスナ、もう1人の計3人が遺体で発見された。甘いマスクのアバウドは過激派組織「イスラム国(IS)」に参加するジハーディストのアイドル的存在で、アスナと結婚していたとみられている。

恵まれなかった子供時代

アスナの友人ケミサさんは英BBC放送にこう語る。「父親が母親とアスナら子供たちを残して家を出ました。彼女の家庭は問題を抱えていました。アスナは悲しい子供時代を過ごしました。それでも彼女がこんなことをするとは考えもしませんでした。彼女はいつも笑っていて、とても丁寧でした」

アスナの素行を報じる英紙タイムズ
アスナの素行を報じる英紙タイムズ

英紙タイムズの報道によると、パリで生まれたアスナは両親が別れた後、年に3、4回、父のもとを訪れていた。その後、家庭問題が絶えず、里親に預けられた。2001年9月、11歳のアスナは米中枢同時テロでツインタワーが崩れ落ちるTV映像を見て手をたたいて喜び、里親を困惑させた。

里親は「初めは良かった。普通の子供でした。しかし、家の中で怒鳴り散らす、許可なく外出する、何でもやりたい放題になりました」と証言する。月に1度、実の親と面会するようになってから、アスナは里親との関係がこじれ、08年に里親の家を飛び出している。

ソーシャルメディア漬けのカウガール

10代の時から、クラブに出入りし、過度の飲酒、喫煙を繰り返し、麻薬ディーラーと付き合いがあった。ソーシャルメディア中毒で、エキセントリックな服装を好み、大きなつばの帽子をかぶっていたので「カウガール」と呼ばれていた。

兄弟によると、コーラン(イスラム教の聖典)を読んだことがなく、「自分の世界に生きていた。イスラム教には興味がなく、コーランも開けたことがない。延々とスマホでフェイスブックやワッツアップ(WhatsApp)をのぞき込んでいた」「ずっと何かを批判していた。生活改善を促しても、聞く耳を持たなかった」という。

友人の1人はこう証言している。「ドイツのナイトクラブでアスナは言い寄ってきた男に腹を立て、ペッパースプレーを浴びせたことがあります。ひどく酔っ払って、そこら中にまき散らしました。かわいそうな子供時代だったのか、いろいろと問題を抱えていました。大量にお酒を飲んでいました」

過激化の兆しは1年足らず前

アスナは建設作業のマネージャーをしていたことがある。顔全体を覆うベールをかぶるようになってから1年も経っていない。シリアのISに行きたいとフェイスブックに書き込んでいたが、前出のケミサさんは「意味もなく書き込んだだけと思っていた」。

「彼女は普通の状態ではなかったと思う。彼女は薬を飲まされていたんだと思う。そうでなければこんなことをできるわけがない」

フェイスブックには仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃犯の未亡人への同情や仏政府への脅し文句を書き込んでいた。3週前にサンドニにある母の家を出て、首謀者アバウドと合流する。パリ無差別テロの2日後、兄弟に電話があり、「将来をあきらめたような口ぶりだった」という。

タイムズ紙によると、母親は「娘は洗脳されている」と漏らした。アスナは「私を助けて」と金切り声を上げたのが最期だった。

ジハーディストの花嫁が続出

自由と民主主義、豊かさを捨て、欧米諸国からシリアやイラクに向かうイスラム系移民の若者は、英シンクタンク「戦略対話研究所」によると今年5月時点で、約4000人。そのうち「ジハーディストの花嫁」と呼ばれる女性は550人だ。その中でもフランスからの花嫁が一番多い。

同研究所のメラニー・スミスさんとエリン・サルトマンさんは、フェイスブックやツイッター、インスタグラム、タンブラー、Ask.fmのイスラム女性のアカウントを追跡している。イスラム女性の過激化を調査するためだ。

残酷な映像を目にすることが多く、研究員の中には心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患ったメンバーもいる。サルトマンさん自身、殺害予告の脅しを受けたことがある。

昨年6月、英マンチェスターの高校に通っていた17歳のサルマ・ハレーンとザハラの双子姉妹は戦士になるためシリアに渡った兄の後を追った。2人はソマリア難民の家庭に生まれた。シリアのIS戦士と結婚したが、夫は戦死。サルマは今年6月、長男を出産した。2人は高校の成績も良く、大学の医学部を目指していた。

今年2月には、ロンドンで暮らす15歳と16歳の少女3人がイスタンブールに向かう旅客機に搭乗し、シリアに向かった。5月には、イングランド北部ブラッドフォードに住む3人の姉妹と9人の子供たちがイスラム教の巡礼のためサウジアラビアのメディナに向かった後、連絡を絶った。いずれもISに参加したとみられている。

ISはソーシャルメディアを通じてイスラム女性をリクルートしている。カリフ(イスラム社会の最高指導者)による「イスラム国家(IS)」建国を宣言してから、男性の医師や技術者、弁護士に加えて、子供を増やすためジハーディストの結婚相手を募集している。

心理学やIT(情報技術)の専門家が、不満を漏らすイスラム女性を見つけて、ソーシャルメディアを通じて巧みに近づいてくる。思春期の少女に対してはアイデンティティーを揺さぶり、パリ同時多発テロの首謀者アバウドのようなイケメン・ジハーディストから甘いメッセージを送る。成人女性には「イスラム国(IS)」では暮らし向きが良くなるとささやきかける。

自爆テロを志願する女性

ISがイスラム女性に注目するのは、リクルートに成功すればプロパガンダ効果が極めて大きいからだ。「女性の力」を使えば同世代の女性や男性を吸い寄せることができる。結婚させて出産させれば次世代のジハーディストを再生産できる。だが、男性と同じようにジハーディストを志願する女性も少なくない。

キングス・カレッジ・ロンドンのキャサリン・ブラウン氏によると、1981~2007年の自爆テロリストの性別を調べたところ、26%が女性だった。

スミスさんとサルトマンさんの研究では、ジハーディストの花嫁の年齢、居住地、宗教的背景をプロファイリングするのは不可能だという。

ただ、男性と同じで、西洋文化の中で暮らすイスラム系移民のアイデンティティーに疑問を持ち、孤独感に苛まれている。イスラム社会は暴力的に迫害されているという感情を持っている。国際社会が迫害に対応していないことに対する怒り、悲しみ、フラストレーションを募らせているという共通項があるという。

次第に情報機関や警察の監視が強まり、シリアやイラクへの渡航が難しくなった。このため、ISは欧州の志願者にその国にとどまってテロを実行するように呼びかけている。第二、第三のアスナは至る所に潜んでいる。

首謀者アバウドとアスナの潜伏先(グーグルマイマップで筆者作成)
首謀者アバウドとアスナの潜伏先(グーグルマイマップで筆者作成)

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事