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急加速する北朝鮮の核開発 それでも安保関連法案は不要か

木村正人在英国際ジャーナリスト

「北朝鮮は核兵器20個に相当する濃縮ウランを保有」

北朝鮮からとんでもないニュースが飛び込んできた。国際軍事情報会社IHSジェーンは11日、衛星写真の分析から北朝鮮が寧辺(ニョンビョン)に2つ目のウラン濃縮施設を完成させ、稼働させている恐れがあると指摘した。

IHSジェーン提供(C)IHS Global Limited
IHSジェーン提供(C)IHS Global Limited

これが何を意味するかと言えば、北朝鮮がウラン型だけでも年間3.2 個の核兵器を製造できる能力を獲得した可能性があるということだ。先のエントリーで紹介したストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の統計では北朝鮮が保有する核弾頭は6~8個と推定されている。

しかし、「中国の専門家は今年初め、北朝鮮は20個の核兵器を製造できる量の濃縮ウランを保有している可能性があると指摘しました」と英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック不拡散・軍縮プログラム部長は筆者に語る。

IISSや他のシンクタンクの推定はその半分の核兵器10個分の濃縮ウランを北朝鮮は保有しているというものだった。

ウラン型は、「爆縮」という極めて高度な技術を要するプルトニウム型と違って、砲身状の構造を用いる粗雑な核兵器を簡単に製造できるとフィッツパトリック氏は警鐘を鳴らす。このためテロリストグループはこれまでにもウラン型の核兵器には強い関心を示している。

テロリストへの核兵器移転をにおわせる北朝鮮

IISSのフィッツパトリック氏(筆者撮影)
IISSのフィッツパトリック氏(筆者撮影)

「北朝鮮の外交官は少なくとも過去に2度、テロリストグループへの核兵器移転に関与する可能性について警告を発しています」とフィッツパトリック氏は言う。

日本国内では日米同盟を強化する安全保障関連法案について「戦争法案」「違憲」とレッテルをはる反対論が強いが、日本の安全保障についてもう少し冷静に考えた方が良い。観念論や感情論、一国平和主義の幻想に浸っているだけでは日本の平和と安全を守れない。

筆者は安倍晋三首相とそのシンパの偏った歴史観や国家観にはまったく賛同できないが、安全保障関連法案の目指す方向は間違っていないと確信する。政権が交代しても必要不可欠な法律である。安倍政権は幅広い国民の理解を得るよう説明に努め、何が何でも今国会で成立させるべきだ。

北朝鮮の濃縮ウラン保有量(C)2015 IHS
北朝鮮の濃縮ウラン保有量(C)2015 IHS

IHSジェーンの報告書によれば、北朝鮮の低濃縮ウラン(LEU)と核兵器を製造できるレベルの高濃縮ウラン(WGU)の製造能力は上のグラフのように増えていく。2つ目のウラン濃縮施設が稼働を始めた2015年から製造能力がアップしている。

IHSジェーンのカール・デューイ氏は「一つ目のウラン濃縮施設は2010年後半から稼働、2つ目は稼働したばかりなので、今年、北朝鮮は150~170キログラムのWGUを保有すると仮定しています」と筆者に説明した。

濃縮3.5%レベルの低濃縮ウランの保有量は2021年には累計で27.5トン以上。核兵器を製造できるレベルの高濃縮ウラン(WGU)の保有量は累計で650キログラム前後に達していると仮定している。

高濃縮ウラン40キログラムで1.6個の核兵器が製造可能とされるので、単純計算でも北朝鮮は21年には26個のウラン型核兵器を製造できる高濃縮ウランを保有していることになる。

雪解けがあぶり出した北朝鮮の核開発

もう一度、IHSジェーンが公表した衛星写真を見てみよう。

上の衛星写真は今年1月1日に撮影されたもので、2つ目のウラン濃縮施設(写真では北側のHall Two、長さ120メートル)の屋根の上に積もった雪は解けていない。その一方で、すでに稼働している1つ目(南側のHall One)の屋根の雪は解けている。

2月6日に撮影された2枚目の写真を見ると、2つ目のウラン濃縮施設(Hall Two)の屋根の雪も解け、特に北側の2カ所にある通気孔に接した雪が解けている。こうしたことから今年1月、稼働に向けた試験を開始し、翌2月初めには稼働を始めた可能性が強いという。

1つ目のウラン濃縮施設に遠心分離器2千基を設置して稼働できるようになるまでに2009年4月から翌10年11月までの約1年半を要した。2つ目の建設工事は1つ目に隣接する場所で13年3月に始まり、外側の工事は同年11月に終了した。1つ目の施設と同じように遠心分離器2千基を稼働させるには約1年半かかるとみられていた。

これで稼働できる遠心分離器は1つ目のウラン濃縮施設と合わせて4千基とみられ、遠心分離機がすべてパキスタンが開発した高性能のP2と想定した場合、濃縮レベルが90%の高濃縮ウランを年に最大80キログラム製造できるという。

別の場所に移送される恐れも

国際原子力機関(IAEA) の指標によれば、少なくとも年間3.2 個の核兵器が製造できる量に相当する。問題なのは、寧辺で製造された濃縮ウランがまったくわからない別の場所に移されて高濃縮化が行われる恐れを払拭できないということだ。

北朝鮮は当初、ウラン型ではなくプルトニウム型の核開発を進めていた。韓国の金泰栄(キム・テヨン)合同参謀本部議長(当時)はこれまでに核弾頭 6~7 個の製造が可能なプルトニウム40キログラムを保有しているとの見解を示している。

また、2010年に寧辺を訪れた米スタンフォード大学のジークフリート・ヘッカー氏は、北朝鮮は核爆弾 4~8 個分に相当するプルトニウム 24~42キログラムを備蓄していると分析。「北朝鮮が寧辺の原子炉を再稼働させた場合、年間にプルトニウムを約6キログラム製造できる」との見方を示している。

プルトニウム6キログラムは核爆弾1個分の原料に相当する。

米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)は今年4月に北朝鮮が、寧辺の原子炉を再稼働させた可能性があると明らかにしている。

北朝鮮は2005 年 2 月に核兵器の製造・保有を宣言した。06 年と09 年にはプルトニウム型の核実験を実施。09 年 6 月にウラン濃縮に着手すると表明した。ウラン濃縮は表向き「軽水炉の燃料を確保するため」とされるが、核開発の口実に過ぎない。

「北朝鮮が間もなく完成する軽水炉の核燃料を製造するために遠心分離器を使うのか、それとも核兵器のための高濃縮ウランをつくるのか断言するのは不可能だ」と前出のフィッツパトリック氏は言う。

ウラン型の核開発は地下に施設をつくった場合、衛星などでの監視が難しくなる。北朝鮮は核開発を急激に加速させている。それでも安全保障関連法案は不要と言うのだろうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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