海の見えない復興でいいの 総延長400キロの「巨大防潮堤」は総事業費1兆円

建設進む「万里の長城」

[福島県、宮城県、岩手県]岩手県から宮城県、福島県まで総事業費約1兆円、計約600カ所、総延長400キロメートルの防潮堤が建設される。400キロメートルと言えば直線距離にして東京―大阪間に匹敵する。そこに最大高さ15.5メートルの防潮堤を築く計画だ。

福島県南相馬市の海岸で進む防潮堤の建設工事(筆者撮影)
福島県南相馬市の海岸で進む防潮堤の建設工事(筆者撮影)

津波で1万8466人(警察庁調べ、7月10日現在)の死者・行方不明者を出した東日本大震災を受け、内閣府の中央防災会議は数十年~百数十年に一度の津波をレベル1とし、海岸防潮堤や海岸防災林で防ぎ、東日本大震災のような数百年から千年に一度の巨大津波をレベル2とし、避難を軸とする津波対策をまとめた。

津波で防潮堤がすぐには壊れない「粘り強い構造」を持たせるため、人工的に大きな台形の土手を造るよう国から指示が出された。

レベル1の1896年の明治三陸地震、1933年の昭和三陸地震、1960年のチリ地震の津波からそれぞれの地域ごとにシミュレーションを実施して、津波を防げる防潮堤の高さを算定した。

津波が防潮堤にぶつかった際のせり上がりを想定して、防潮堤の高さを設定する。岩手県では高さ6.4~15.5メートル、宮城県で2.6~14.7メートル、福島県では7.2~8.7メートルの防潮堤が造られることになった。

被災3県の防潮堤計画

岩手県

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宮城県

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福島県

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日本建築学会の資料より

水色が被災前の堤防の高さ(岩手県は被災前の計画の高さ)を示しており、赤線で囲まれた枠が新しく建設される堤防の高さを示している。黄色の丸印は東日本大震災の津波の高さ(堤防付近で測定)だ。

福島県南相馬市の建設会社「石川建設工業」の石川俊社長と海岸線を見て歩いた。「福島県では新しい巨大防潮堤の計画はなく、以前の堤防に1メーターのかさ上げ(原発周辺は2.5メーター)が計画され、6.2メートルから7.2~8.7メートルになりました」

「福島の場合、地域住民も避難者も防潮堤に反対や懸念を示す人はいません。もともとあったものの改良だからです。相馬の漁港地区や沿岸部の住民はむしろ『低すぎる』という人も多くいます。どちらかというと、防潮堤裏側の防災林・防災緑地の工事について本当に必要なのと思っている人の方が多いと思います」と石川社長は言う。

360億円の巨大防潮堤で守られるのはわずか37億円

しかし、岩手県や宮城県ではそれぞれ事情が異なる。岩手県では最大2.4倍、宮城県では最大6.5倍というかさ上げとなることや一部の地域で住民との合意が十分でなかったことが背景にある。

宮城県七ヶ浜町の編み物クラブ「ヤーン・アライブ」でメンバーの主婦、星まゆみさん(54)らから話をうかがった際、「防潮堤で逆に海が見えなくなって、怖い」という不安の声が聞かれた。

宮城県気仙沼市の小泉海岸。松原の前に白い砂浜が広がり、絶好の海水浴場だった。サーフィンにも最適で、「白砂青松100選」や環境省の「快水浴場百選」に選ばれたこともある。しかし東日本大震災の影響で現在も休業している。

小泉海岸は東日本大震災で高さ20メートルもの津波に襲われた。同地区の小泉海岸では海岸線が200メートルも後退し、松原や砂浜が消失した。そこに高さ14.7メートル、底辺90メートルの巨大防潮堤を建設する計画が進んでいる。

宮城・小泉海岸の防潮堤計画見直しを訴える阿部さんのツイート
宮城・小泉海岸の防潮堤計画見直しを訴える阿部さんのツイート

しかし、「総工費226億円をかけて巨大防潮堤を建設しても、守ることができるのは国道や農地など約37億円だ」という問題点が東京大学公共政策大学院のレポートで浮かび上がった。住宅は高台に移転されるため、防潮堤で何を守ろうというのかはっきりしない。建設費は建設資材や人件費の高騰でさらに6割増し(約360億円)になるという。

「小泉海岸及び津谷川の災害復旧事業を学び合う会」の阿部正人事務局長(47)はこう振り返る。

「防潮堤をつくらなければ住宅の高台移転は進まないと思い込んで、防潮堤計画に賛成した人もいます。とにかく目の前の自分の生活や家をどうするかが先になって、10年先、100年先より、どうでも良いから早くやってくれという流れになってしまいました」

大規模な公共工事では費用対効果が分析されるが、復旧・復興の一環として行われる防災事業では安全が最優先され、費用対効果は二の次だ。

阿部事務局長はこれから建設される盛り土構造の三陸自動車道や国道45号を防潮堤代わりに使用する代替案を出した。が、宮城県の地元説明会では阿部事務局長ら少数の慎重派を押し切る形で議事が進行され、地元の多数形成が優先された。

壊れた「万里の長城」

岩手県宮古市田老地区では1934年から陸側の防潮堤が建設され、その後、海側の防潮堤も78年ごろまでに完成した。総延長2433メートル、海面からの高さ10.45メートルというX字型、二重の防潮堤は「万里の長城」と呼ばれた。

チリ地震の津波は防潮堤を越えず、世界中から注目を集めた。しかし、東日本大震災の津波は海側と陸側の防潮堤を越えて田老地区をのみ込んだ。海側の防潮堤は破壊された。今回は巨大津波だったとは言え、防潮堤をつくるだけでは万全ではないということだ。「万里の長城」に安心し切って、逃げなかった人もいる。

田老地区ではどこにいても山に向かって真っ直ぐ避難できるよう避難経路がつくられ、誘導標識が整備されていた。「万里の長城」は巨大津波を防ぐことはできなかったが、住民が避難する時間を稼いだという指摘もある。

田老地区の人口に対する死亡率でみると、明治三陸地震は83.1%、昭和三陸地震は32.5%、東日本大震災は3.86%と最も低くおさえられた。

1993年の北海道南西沖地震による津波で被災した北海道・奥尻島には津波対策として最高10メートル、総延長14キロの防潮堤が築かれた。しかし、風光明媚な海岸線が一変し、観光業が打撃を受けた。漁業も高齢化や後継者不足に苦しめられている。このままでは「限界集落」になる恐れがある。

「海が見えない復興でいいの」

安倍晋三首相の妻、昭恵夫人は2013年12月、自民党の環境部会で「防潮堤で覆われた海が見えない復興でいいんだろうか」と発言。「必要ないところはやめればいい。景観が崩れ、海の生態系が変わって環境も破壊され、漁業にも影響するかもしれない」と巨大防潮堤の建設に慎重論を訴えた。

昨年3月の参院予算委員会で、安倍首相も「景観も重要で、震災直後とは住民の意識も相当変わってきた」と答弁した。国は海岸法を改正し、防災を検討する際、住民や識者を加えた「協議会」を都道府県が設置できるようにした。

小泉海岸を指し示す阿部さん(阿部さん提供)
小泉海岸を指し示す阿部さん(阿部さん提供)

しかし…。「宮城県の村井嘉浩知事はとにかく安全第一で、海岸をコンクリートで固めようという考えです。行政と住民がきちんと話し合ってやろうというスタンスがありません」と阿部事務局長は言う。「もう地元だけではダメです。小泉海岸を利用する人はたくさんいるわけです。もっと幅広い声を集めていかなければ」

被災3県以外でも、津波対策として防潮堤の建設が進められている。大震災から約4年半。景観や環境、地元の産業と暮らし、住民の安全と財産保全のバランスをもう一度考えてみる必要がある。コンクリートの海岸構造物は寿命が50年程度。半世紀後、被災3県では老朽化した総延長400キロの巨大防潮堤の建て直しや保全を迫られる。

(おわり)