中国人旅行者のマナーの悪さに「善意」は通じない 稼げるルール作りを
今年上半期の訪日客は914万人
日本を訪れる外国人旅行者が今年上半期、前年同期から46%も増えて過去最高の約914万人を記録した(日本政府観光局調べ)。2011年上半期の283万人の3倍以上だ。
ロンドン在住の筆者は7月、約2年ぶりに帰国、徳島、大阪、東京などを訪れたが、中国や韓国などアジアからの旅行者の多さに改めて驚かされた。
安倍晋三首相の経済政策アベノミクスのおかげで円安が急激に進み、中国の人民元も2012年1月には1人民元=12円超だったが、今年6月には20円を突破した。これに比例するように訪日外国人旅行者も急増している。
今年上半期、中国からの旅行者が最も多く、217万8600人(前年同期比116.3%増)。次いで韓国181万9300人(同42.6%増)、台湾179万2600人(同28.9%増)、香港69万1600人(同64.2%増)、米国50万7千人(同13.6%増)。
世界のひんしゅく買う中国人旅行者
中国、韓国、台湾、香港からの旅行者を合わせると648万2100人で、訪日外国人旅行者全体の7割を占める。中でも中国人旅行者は初めて海外を旅行する人が多く、マナーの悪さで世界中の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。
筆者も淡路島のパーキングで買い物中、中国人夫婦の旅行者が支払いを済ませていない食品をほうばりながら、レジの列に横入りしてくるのにすっかり閉口してしまった。声も大きく、騒々しい。あまりのマナーの悪さに露骨に顔をしかめる日本人の年配者もいた。
その一方で台湾からの家族連れにホテルまでの行き方を教えてあげると、丁寧に礼を言われて、うれしくなった。日本暮らしが長い中国人の中には日本人以上に公共マナーやエチケットをわきまえている人もいる。
中国人旅行者のマナーの悪さに振り回されているのは日本に限った話ではない。今年3月、タイの女性モデルが韓国の済州国際空港で並んでいるとき、中国人旅行者のグループに集団で横入りされ、その様子を録画して自分のフェイスブックなどに投稿した。
フェイスブックやユーチューブに投稿された動画は200万回以上も再生された。女性モデルの動画は中国の動画投稿サイトにも転載され、逆に「これは中国人に対する民族差別だ。このオンナは小さな例をあげつらって、他の数百万の人民を裁こうとしている」と非難された。
しかしタイでは、中国人旅行者が公共トイレの洗面所で足を洗ったり、バンコクの空港で下着を干したり、水路をトイレ代わりに使ったりするなどの騒動が相次いでいる。世界中で中国人旅行者のトラブルが多発している。
香港では混雑しているレストランでビンの中に小便をしたり、北朝鮮ではアヒルにエサをやるように子供たちにお菓子を投げ与えたり、南京から来た15歳の少年がエジプトの古代浮彫に自分の名前を彫ったり。
中国共産党がつくった「べからず集」
中国の対外イメージが悪化するのを恐れる中国共産党指導部も中国人旅行者のマナーの悪さには頭を痛めている。2013年秋には64ページにのぼる外国旅行指南書「洗練された観光のためのガイドブック」を発行している。
それを見ると、中国人旅行者のマナーが逆にどれだけひどいか手に取るように分かる。
鼻毛をきちんと切りなさい。
指で歯くそをほじらないこと。
プールで小便はしないこと。
トイレを長時間、独占しないこと。
便座に足跡を残さないこと。
飛行機の座席の下にある救命具を持ち去ってはいけません。万一のとき、他の人が救命具を使えないからです。
公衆の面前で鼻くそをほじってはいけません。
国別「べからず集」もある。
イタリアではハンカチをプレゼントしてはいけません。縁起が悪いからです。
英国人にご飯を済ませたかどうか尋ねてはいけません。
ネパールでは足で他人の所有物に触ってはいけません。
イスラム教の国で豚を注文してはいけません。
アフリカ系の黒人を「ニグロ」とか「ブラック」と呼んではいけません。
インドでは人に触るとき左手を使ってはいけません。
パンを一度に食べたり、飛行機の中で麺をすすったりしてはいけません。
「エコノミック・アニマル」と呼ばれた1970~80年代の日本人旅行者も欧米では同じような目で見られていたのかもしれない。
中国人旅行者でいかに稼ぐか
昨年、1億900万人の中国人旅行者が外国を訪れた(前年比20%増)。その7割が香港やマカオ、台湾だ。
バンクオブアメリカ・メリルリンチの報告書によると、2019年までに毎年1億7400万人の中国人旅行者が2430億ユーロ(約32兆8500億円)を消費する見通しだ。アイルランドの国内総生産(GDP)2140億ユーロを軽く上回る。
国連世界観光機関(UNWTO)の予測では2010年に9億4千万人だった旅行者は20年に14億人、30年には18億人に達するという。
14年の実績で旅行者が最も訪れた国の1位はフランスで8370万人で、観光収入は554億200万ドル(約6兆8900億円)。日本は1341万3千人で22位と韓国やオランダの後塵を拝している。観光収入も188億5300万ドル(約2兆3400億円)止まりだった。
日本は中国人旅行者のマナーの悪さに顔をしかめるよりも、フランスを見習ってがっぽり稼ぐべきだ。そのフランスでも高級ホテルが中国人旅行者を拒絶してニュースになったことがある。
善意より分かりやすいルールを
単純計算でも今年、1800万人以上の外国人旅行者が日本を訪れる。いろいろな国の人が日本を訪れるようになれば、これまでのように「性善説」に基いて日本のおもてなしをというような甘いことを言っていると大変なことになる。
アイルランド国籍の格安航空会社ライアンエアーのビジネスが参考になる。筆者はチェックイン・カウンターでパスポート・チェックの確認印を押してもらわなかったため、搭乗を拒否された苦い経験がある。確かに搭乗券に確認印がなければ搭乗を拒否しますと明記されている。
旅行者の買い物で飛行機の離陸が遅れる恐れが生じた場合、ライアンエアーを見習って搭乗口をシャットアウトするなど厳格なルールを導入してはどうだろう。ペナルティーがないルールは守られないというのがグローバル・スタンダードの現実だ。
日本ではこれまで低賃金の非正規労働者があふれていたため、サービス産業のIT(情報技術)化があまり進んでいない。外国人旅行者が日本の人口の10%以上も年に訪れるようになれば、否が応でも国内のグローバル化やデジタル化を整備する必要が出てくる。
格安サービスと高級サービスの差別化をはっきりさせた方が良い。格安サービスはインターネットで、丁寧な接客は高級サービスでという違いを打ち出す。
携帯電話やインターネットへのアクセスなど、海外と国内のインターフェイスが滑らかにつながるよう規格や標準を合わせる。英語だけでなく中国語や韓国語でのサービス提供も導入しなければならない。
円安による外国人旅行者の激増は、皮肉にも日本がグローバル化する大きな一歩になるかもしれない。
(おわり)