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世界のサカクラ、IOC総会で空手パフォーマンス アジアに「自制心」訴え

木村正人在英国際ジャーナリスト

日本の「カッコ良さ」を理解していたのは日本ではなく、アジアだったーー。

IOC総会の開会式典でパフォーマンスを披露したサカクラさん(サカクラさん提供)
IOC総会の開会式典でパフォーマンスを披露したサカクラさん(サカクラさん提供)

ロンドンの筆者宅でのサマーパーティーに飛び入り参加し、「日本のカッコ良さ」について真剣に語ってくれたダンスパフォーマー、サカクラ・カツミさん(52)=本名・坂倉勝己=が30日、マレーシア・クアラルンプールで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会開会式典でアジアの代表としてパフォーマンスを披露した。

サカクラさんは子供の頃から空手の修行を重ね、その後、ボクシングにも魅入られた。しかし、同じ格闘技でも空手とボクシングには大きな違いがあることに気づいた。「ボクシングのパンチは後ろ足の踵を上げて内側に回転させ、足、腰、上体、肩と次々に回転させることによりパワーを生み出します。この理論ではより体重の重い者の方がパンチ力が強くなってしまうため『小よく大を制す』が成り立ちません」

「空手の突きはボクシングとは全く逆で、踵を地面に着け、足や腰を回転させることなく、上体もひねらずに突きます。ちょうど相手と地面の間に自分自身がつっかえ棒のように存在し、相手の体重が重ければ重いほどカウンターパンチのようにダメージが与えられるということになります」

相手が攻撃してきた場合にのみ、空手はセルフディフェンスとして威力を発揮する。「日本のカッコ良さ」をサカクラさんは悟った。

「空手を『攻撃の技術』と誤解している人もいますが、実は空手とは他者への攻撃を自ら戒めることのできる自制心を養うものであり、決して暴力を増長させるものではありません。自制心とは『自ら行動を起こす前にその結果を考える』というシンプルなものです。これが、私が世界中の人々に知ってほしい『日本のカッコ良さ』です」

コンピューター・グラフィックス(CG)で舞台に自分自身の「影」を映し出し、戦ってみせる。相手は自分だからなかなか勝てない。しかし自分の心の中に潜む「敵」に気づいたとき、平常心に戻り、「影」は消えていく。サカクラさんはこの日のパフォーマンスで訴えたのは「無心」だ。

サカクラさんのパフォーマンスは日本以上に海外で評価されており、年間の海外公演は20回超。これまでに世界35カ国を回っている。今回は、マレーシア・オリンピック委員会が「アジアを象徴するパフォーマンス」とサカクラさんに出演を依頼した。

IOC総会は7年ぶりのアジア開催。31日に約100人のIOC委員の投票で北京とアルマトイ(カザフスタン)のどちらかが2022年冬季五輪の開催地に選ばれる。どちらの都市が選ばれても2018年冬季五輪の平昌大会、2020年夏季五輪の東京大会に続いてアジア開催は3大会連続になる。

サカクラさん(提供写真)
サカクラさん(提供写真)

「アジアの代表として、各国のオリンピック委員会の方々の前でパフォーマンスを披露できるのは大変光栄で名誉なことです。日本自体がなかなか私の行っていることに価値を見い出して頂けないという残念な状況の中、いち早くその存在価値を理解してくれたのはやはり海外でした」

「マレーシア・オリンピック委員会はこれぞアジアの代表パフォーマー!という人材を探していたそうです。私にとって大変光栄なことです。パフォーマンスに魂を込めました」

急激な経済成長を遂げた中国は南シナ海や東シナ海で独断的に振る舞っている。マレーシアのオリンピック委員会が「自制心」や「調和」をアピールする日本人のサカクラさんを開会式典のパフォーマーに選んだのは偶然ではない。戦前・戦中の軍国日本と同じ冒険主義に中国が陥らないよう「己に勝つ大切さ」や「自制心」を伝えていくのが日本の役目だからだ。

日本もスシ、マンガ、コスプレというステレオタイプだけを発信するのではなく、サカクラさんのいう「本当のカッコ良さ」にそろそろを気づくべきだ。サカクラさんが動画でコメントを送ってくれた。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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