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ギリシャの「ユーロ離脱」崖っぷちで回避 根本問題は解消されず

木村正人在英国際ジャーナリスト

ギリシャと欧州単一通貨ユーロ圏(19カ国)は3年間で820億~860億ユーロ(11兆2千億~11兆7500億円)に相当する第3次支援策を実施することで合意した。ギリシャのユーロ離脱という最悪の事態は文字通り、崖っぷちで回避された。

合意に向け協議するチプラス首相、オランド大統領、メルケル首相(EUのHPより)
合意に向け協議するチプラス首相、オランド大統領、メルケル首相(EUのHPより)

約17時間に及んだ交渉のあと、記者会見に臨んだメルケル首相は「ギリシャとの信頼関係を再構築する必要があった」と述べた。合意というより、ギリシャのユーロ離脱やむなしというメルケル首相の最後通牒に、ギリシャのチプラス首相が屈したのが実情だ。

ギリシャに1100億ユーロを融資した2010年5月の第1次支援策、1300億ユーロの公的な追加支援とギリシャ国債を持つ銀行などが債務の減免に応じた12年2月の第2次支援策。第3次支援策までの道のりはしかし、これまで以上に紆余曲折があった。

今回は特に、チプラス首相が突然、国民投票を宣言し、投票した人の61.3%が欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の財政・構造改革案に反対するという絶望的な展開を見せた。それでもギリシャを突き放したメルケル首相の前に、チプラス首相は事実上の500億ユーロものギリシャ国有資産差し押さえをのまされた格好だ。

500億ユーロの国有資産は民営化され、銀行への資本注入の原資、借金の返済などに充てられる。しかし、ユーロ圏とチプラス首相が合意した第3次支援策の法制化が15日までにギリシャ議会で承認されるかどうかはまだ見通せない。

第3次支援策では、ギリシャが約束通り、財政・構造改革を実行するかどうかを監督するIMFや欧州委員会のチェックも一段と厳しくなる。

チプラス首相とメルケル首相を中心とする債権国のチキン・ゲームとなった交渉は、金銭の差は縮まっても、国民感情というギリシャと債権国の政治的な距離は埋めるのが難しいほど広がっていることを改めて実感させた。

しかし、最終段階でフランスのオランド大統領が仲裁役としてチプラス首相とメルケル首相の間に入り、ユーロ崩壊の引き金になりかねないギリシャ離脱を回避した。20日に迫った34億5700万ユーロの欧州中央銀行(ECB)への返済期限が本当のデッドラインだった。

第3次支援策でギリシャの財政破綻は回避されたものの、これでギリシャ経済が上向くかといえば、かなり難しいというのが一般的な見方だろう。これまでの第1次、第2次支援策がうまく行かなかったことを見れば一目瞭然だ。

ギリシャ統計局によると、2015年3月の輸入総額は43億6680万ユーロ(前年同月比7.8%増)、輸出総額は23億5560万ユーロ(前年同月比8.5%増)。4月の観光客は70万7486人で前年同月比6.6%増となっている。

経済は少し上向きつつあるものの、「経済の体温」と呼ばれる消費者物価指数は4月に前年同月に比べ2.1%の下落となっている。2月の失業率も前月から0.2%減少したものの、25.4%と高止まりしている。

在ギリシャ日本大使館のHPより
在ギリシャ日本大使館のHPより

結局、チプラス首相は国民投票でEUとIMFの財政・構造改革案を否決したギリシャ国民の意思に背いて第3次支援策に合意した。しかしユーロが抱える構造問題は完全に解消されたわけではない。

メルケル首相が主導する財政・構造改革案がギリシャ経済にとって正しい処方箋でないことは、チプラス首相が何度も指摘している通りだ。ギリシャ経済と雇用が回復しない限り、ギリシャ国民の不満は解消されない。

今年第1四半期のユーロ圏の国内総生産(GDP)の成長率は0.4%。ギリシャは14年第4四半期のマイナス0.4%に続いて今年第1四半期もマイナス0.2%。

ギリシャの債務を再建可能なレベルまで減免するとともに、ユーロ圏経済が力強く回復しない限り、ギリシャ危機がいずれ再燃するのを避けることは難しい。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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