Yahoo!ニュース

【腐敗の帝国FIFA】W杯南ア大会予選、アンリのハンドも6億2千万円でもみ消し

木村正人在英国際ジャーナリスト

2010年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会の欧州予選。出場権を目指すプレイオフでフランスとアイルランドが対戦した09年11月18日の「疑惑のゴール」を覚えておられるだろうか。

ダブリンで行われた同月14日のファーストレグはアイルランド0-1フランス。サン=ドニで行われた18日のセカンドレグはフランス0-1アイルランド(1-1)で延長に突入した。

103分、仏FWアンリがゴール前で2回にわたってハンドしたボールを仏DFギャラスが決勝ゴール。フランスが計2-1でW杯出場権を獲得した。

審判はアンリのハンドを見逃したが、ビデオが克明にとらえていた。出場権を逃したアイルランドは国際サッカー連盟(FIFA)に再試合を求めると息巻いた。

アイルランド代表の主将キーン主将は英BBC放送に「ブラッターFIFA会長も欧州サッカー連盟(UEFA)のプラティニ会長も試合結果を喜んでいるだろう」と皮肉をぶちまけた。

アンリは試合後、正直にハンドを認め、当時、所属していたバルセロナ(スペイン)の公式サイトに「最も公正な解決策は再試合だが、自分にはどうすることもできない」とコメントした。

怒りが収まらないアイルランドのカウエン首相(当時)は「フェアプレーはスポーツの基本。再試合を求める政府の立場をFIFAに伝えるようスポーツ相に指示した」と表明。

サルコジ仏大統領(同)は「カウエン首相には何度も遺憾の意を伝えた」ととりなした。

FIFAは再試合要求を却下。アイルランド・サッカー協会は「フェアプレーに対する信頼は損なわれた」と失望感をあらわにして、一件落着した。いや、ように見えた。

汚職事件の中、5選を果たしたものの4日後に辞任したブラッターFIFA会長に対する風当たりが一段と厳しくなってきた。

「水に落ちた犬は打て」とばかりに、アイルランド・サッカー協会のチーフエグゼクティブ(CEO)、ジョン・デレーニー氏が地元の公共放送RTEに、再試合を求める法的措置を回避する見返りにFIFAから資金提供を受けたことを暴露したのだ。

「アンリ選手のハンドでアイルランドはW杯出場を逃した。アイルランドはFIFAに対して法的措置を取らなければならないと感じていた」

「ブラッター会長の振る舞い方、もしあなたが覚えているなら、彼は我々を笑ったのだ。私は彼に対してどう感じているのかをぶつけた。感情的なやり取りがあった後、我々は合意に達した」

「木曜日に話し合いがあり月曜日には署名が交わされた。アイルランド・サッカー協会にとっては非常に良い、しかも正当な合意だった。しかし守秘義務があるので金額については言えない」

ブラッター会長は当時、「アイルランドはW杯南アフリカ大会の33カ国目(出場権枠は32カ国)の出場国になりたいと言っている」と苦笑いした。

FIFAの説明では、FIFAがアイルランドのサッカー競技場建設のため500万ドル(約6億2千万円)をアイルランド・サッカー協会に融資する。同時にUEFAが同じサッカー競技場に同じ金額を提供するという枠組みだった。

UEFAのプラティニ会長はフランス人である。審判の判定は絶対とは言うものの、筆者は裏のカネで片付けるより、表で再試合するのがスポーツマンシップと思うのだが…。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事