【大阪都構想】あと1週間、「橋下嫌い」は反対「橋下好き」は賛成で本当にいいの?
大阪市をなくして五つの特別区を設ける「大阪都構想」の住民投票(17日)を前に、在阪報道各社が世論調査を実施した。いずれも反対派が賛成派を上回っている。
朝日新聞・朝日放送(ABC) 9~10日電話調査
Q「大阪都構想」に賛成ですか。反対ですか
賛成33%
反対43%
Q賛成の理由
行政のむだ減らしにつながるから50%
大阪の経済成長につながるから27%
住民サービスがよくなるから4%
橋下市長の政策だから14%
Q反対の理由は
行政のむだ減らしにつながらないから17%
大阪の経済成長につながらないから20%
住民サービスがよくならないから27%
橋下市長の政策だから25%
共同通信 9~10日電話調査
賛成39.5%
反対47.8%
さて、大阪の街の空気はどうなのか。ソウルから大阪に戻ったつぶやいたろうラボ(旧つぶやいたろうジャーナリズム塾)4期生、笹山大志くんが賛成派、反対派のタウンミーティングをルポした。
[笹山大志=大阪発]大阪市を廃止し、5つの特別市に分割する大阪都構想の是非を問う住民投票の投票日まで1週間。(1)二重行政の有無と解消効果(2)広域行政一体化の効果(3)住民サービスの向上につながるか(4)特別区の権限と財源――が大きな4つの論点。
市制施行から126年の大阪市が解体されるという大改革に大阪では否応なしに関心が高まっている。松井一郎大阪府知事との二枚看板で連日、大阪市内のタウンミーティングに繰り出す橋下徹大阪市長と反対派の集会を取材した。
連動する支持率と都構想の賛否
「大阪を日本の中の二極にしていくために、僕は1ミリでも2ミリでも前に進めるということであれば、みなさんと一緒に進んでいきたいと思います」
絞り出すような声で訴える橋下市長の演説に聴衆は大きな拍手と声援で応える。9日午後、大阪城公園前には200人近くの聴衆が集まった。立ちっぱなしの1時間半だったが、聴衆は最後まで熱い視線を送る。
聴衆をひきつける魅力は橋下市長の演説のうまさにある。都構想を市民の身近な問題として考えられるように議論に巻き込む手法だ。橋下市長は演説冒頭で、大阪の財政状況が危機的であることを徹底的に訴えた。
「いま、年に200億円、300億円のお金が足りない」
「(開発行政の失敗例として大阪市弁天町のオーク200をあげ)1027億円使って建てたホテルが失敗。先日、裁判を起こされ650億円を現金で、皆さんからの年65億円の税金を使って銀行に支払わなければならない。こんなことを二度とさせないようにしましょう」
聴衆を虜にするのは都構想の中身や演説のうまさだけではなく、橋下市長のキャラクターによるところが大きいようだ。
「橋下さんの言うことはハキハキしていて分かりやすい。橋下さんが来る前に何人か議員さんが話していたけど、何もわからなかった。橋下さんが言うから信頼できるのかも」
2人の小さな子供を連れて聞いていた30代の主婦はそう語る。大阪市城東区に住む高校教員の男性(23)も「都構想というよりも、行動力のある橋下さんが好きで、通りがかりに演説を聞きに来た」と話す。
野球帰りの少年たちや通りがかった大学生グループが「あッ、橋下さんや」と演説に聞き入る場面もあった。聴衆からは「橋下さん、がんばれ」という声が飛び交った。
これまでの世論調査では、橋下市長の支持層では87%が都構想に賛成、逆に不支持層では93%が反対していた。橋下嫌いは都構想に反対、橋下好きは賛成という明確な相関関係が現れている。
橋下包囲網を築く反対派
「自共民合作、大阪市を守るためには左右、保守革新も関係ない。みんなで力を合わせて頑張ろう」(共産党の清水忠史・衆院議員)「我々は大阪党として立っている」(民主党の辻元清美・衆院議員)
10日午前、大阪・梅田で都構想反対を訴える街頭演説会には自民・民主・共産党の3党が一堂に会するという珍しい光景が見られた。自民党の宣伝カーに3党が乗り込み、握手を交わす。200~300人を超す聴衆に3党の弁士は組織票の強さを強調し続けた。
「大阪市全体の町会の代表である大阪市地域振興会、大阪市のにぎわいを作ってくれている大阪市商店街総連盟が反対表明された。大阪府医師会、歯科医師会、薬剤師会の三師会も昨日、都構想に正式に反対を表明した」
共産党の山下芳生書記局長(参院議員)の言葉に聴衆から大きな拍手が起きる。20近くの市民団体と14もの業界団体が反対を呼びかけているという。
こうした包囲網に橋下市長自身も大きな懸念を示している。
「いま、反対の方が優勢。反対派が組織をフル稼働して、回覧板を回して組織票を集めている」「自民党、公明党、民主党、共産党という既存の政党、医師会といった業界団体に対抗して大阪維新の会だけが(都構想を)進めようとやっている。」
ネット上でも都構想に逆風
ネット上でも都構想に対するネガティブな反応が強い。グーグルトレンドに「都構想 メリット」「都構想 デメリット」と打ち込んで傾向を調べてみた。「都構想 デメリット」が「都構想 メリット」を常に上回っている。
Yahooのリアルタイム検索でも賛成感情が4%に対して、反対感情は35%。
残り1週間、浮動票の争奪戦
大阪都構想の是非を問う住民投票は大都市地域特別区設置法に基づく手続きで投票結果には法的拘束力が伴う。投票率に関係なく1票でも賛成が反対を上回れば大阪市の解体、特別区設置が決まる。
橋下市長は7日、「何度もやるものではない。1回限り」と今回の結果を尊重する考えを示している。17日の住民投票は天下分け目の決戦となる。
まだ投票行動を決めていない浮動票を取り込もうと賛成派、反対派も必死だ。選挙運動とは異なり、住民投票を呼びかける運動はチラシや看板の数量、活動資金に制限はないそうだ。
産経新聞によれば、大阪維新の会は広報費に4億円をつぎ込み、市内全戸への折り込み広告を15回配布、テレビCMで支持を訴える。橋下市長の肉声録音テープを使って、電話でも投票を呼びかけているという。
大阪の未来を大きく変えるかもしれない大阪都構想は誰のための大改革なのか。残り1週間、大阪からお送りします。
笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。現在、韓国延世大学語学堂に語学留学中。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。
(おわり)