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極右からも極左からも好かれる強面プーチン大統領のヒミツ

木村正人在英国際ジャーナリスト

ウクライナ軍が撤退

ウクライナ東部ドネツク州の要衝デバリツェボでは17日も停戦合意が守られず、戦闘が激化。親露派が地域をほぼ手中に収め、プーチン露大統領はウクライナ政府に同国軍兵士を投降させるよう要請した。

ウクライナ軍は18日、デバリツェボの主要都市から撤退した。これは、どう見てもプーチン大統領の思惑通り、事が進んでいると言わざるを得ない。

プーチン大統領は17日、欧州連合(EU)加盟国ハンガリーの首都ブダペストを訪れ、同国のオルバン首相と会談、今年で契約が切れる天然ガスの供給を継続することで合意した。

クリミア編入強行に端を発するウクライナ危機で、プーチン大統領は昨年6月以降、2国間の首脳会談のためEU加盟国を訪問していなかった。

ロシア・EU関係が緊張する中、ハンガリー市民は抗議のデモ行進を行ったが、オルバン首相はプーチン大統領を歓迎し、こう言った。

「ロシアを欧州から締め出すことは合理的ではないと私たちは確信する。ロシアとの経済協力なしに欧州の競争力を発揮できる、ロシアからのエネルギー供給なしに欧州のエネルギー安全保障が成立すると考えている人は亡霊を追いかけているのと同じだ」

トルコ、ギリシャ、ハンガリーのパイプライン代替案

オルバン首相とプーチン大統領はEUの反対でロシアが断念せざるを得なかった「サウス・ストリーム」(南ルート)ガスパイプラインに代わるパイプライン建設計画を支持する考えを表明した。

トルコからギリシャを経由してハンガリーにロシアの天然ガスを供給するルートだ。

ソ連が軍事介入した1956年のハンガリー動乱の記憶が残っているにもかかわらず、今、ハンガリーでプーチン大統領を支持する人が増えている。

ハンガリーは天然ガスの国内消費量約8割を輸入に依存しており、輸入の約8割をロシアに依存している。昨年1月には、オルバン首相はロシアを訪問し、原子力平和利用に関する協力協定に署名した。

同国唯一の原子力発電所、パクシュ原発の4基は旧ソ連が建設、新たに建設される2基もロシアのロスアトム社が行うことになった。ハンガリーの対ロシア・エネルギー依存は一段と強まる。

オルバン首相は社会主義を崩壊させた民主化組織フィデス(青年民主連盟)の創設メンバーだが、自由民主主義を懐疑するナショナリスト。メディアを規制し、米ワシントンやブリュッセルから批判された。

権威主義的な傾向が強く、プーチン大統領との関係を深めている。2人とも家父長的な臭いを漂わせる。

プーチン大統領絡みの記事をエントリーしていて筆者が感じるのは、日本でもプーチン人気はかなり根強いということだ。天然ガスを絡めたプーチン大統領の人たらしぶりは有名だ。

昨年10月のASEM首脳会議(Councile of EU)
昨年10月のASEM首脳会議(Councile of EU)

イタリアのベルルスコーニ元首相、ドイツのシュレーダー元首相、フィンランドのリッポネン元首相が天然ガスをエサにプーチン大統領に取り込まれた。

今や、ハンガリーのオルバン首相だけでなく、反緊縮を掲げてユーロ圏を揺るがすギリシャの急進左派連合(SYRIZA)とも気脈を通じる。

SYRIZAはかつて北大西洋条約機構(NATO)からの離脱と、クレタ島の米海軍基地の撤廃を唱えていた。プーチン大統領が泣いて喜びそうな政権がバルカン半島に誕生したわけだ。

もともとEU内でもギリシャとキプロスはロシアの「トロイの木馬」と言われてきた。

欧州にプーチン支持政党続々

プーチン大統領の支持率はクリミア編入を境に急上昇。米世論調査会社ギャラップによると、ロシア国内の支持率は昨年7月に83%を記録した。

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それで驚いていてはいけない。ギリシャ国内のプーチン支持率は35%まで上昇している。それもEU首脳への支持率23%を大幅に上回っている。

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シリア軍事介入をめぐり二転三転し、世界をあ然とさせたオバマ米大統領、頼りないフランスのオランド大統領、英国のキャメロン首相と比較して、「武闘派」プーチン大統領は強く見える。

英誌エコノミストによると、欧州で増殖する極右と極左のポピュリスト政党はプーチン大統領に反対しているどころか、支持しているというのだ。

プーチン大統領を支持するポピュリスト政党は次の通りだ

態度保留は(保留)とした。

【ギリシャ】SYRIZA、極右政党・黄金の夜明け党

【ブルガリア】極右政党・アタッカ

【ハンガリー】排外主義を掲げる極右政党・ヨッビク

【オーストリア】難民受け入れ制限や外国人対策強化を主張する極右政党・自由党

【フランス】極右政党・国民戦線(FN)

【英国】英国国民党(BNP) 英国独立党(UKIP、保留)

【スペイン】新党・ポデモス(Podemos、保留)

【イタリア】北部同盟、ベルルスコーニ元首相が党首を務めるフォルツァ・イタリア

【ドイツ】極右政党・ドイツ国家民主党(NPD)、「ドイツのための同盟(ドイツのための選択肢、AfD)」(保留)

【ベルギー】フラーマス・ベラング(VB、フランデレンの利益)

こうしたポピュリスト政党の多くがEUの欧州議会に議席を持っているため、ロシアに不利に働く政策に反対票を投じる恐れがある。

英紙フィナンシャル・タイムズの著名コラムニスト、ギデオン・ラクマン氏もプーチン大統領の「お友達」について書いている。

【中国の習近平国家主席】天然ガスの開発と供給で利害が一致。

【エジプトのシシ大統領】エジプトは米国がムバラク大統領を見捨てたことに対し、不信感を募らせている。

【トルコのエルドアン大統領】シリア内戦やイランでは方針を異にするが、欧米諸国に対する猜疑心などが一致。性格が合う。

【イスラエルのネタニヤフ首相】オバマ大統領と気が合わないネタニヤフ首相はプーチン大統領とは「相性が良い」と発言。

【南アフリカのズマ大統領】13~14年の15カ月間に4回も会談。ロシアが原発建設へ。

プーチン大統領の特徴は「家父長的」「男性的」「権威主義」「国家資本主義」「地政学重視」「武力の行使をためらわない」「ナショナリスト」「強い国家志向」などだ。

大衆は強いリーダーに憧れ、国家指導者も本音で話のできる強いリーダーシップを求めている。西洋が衰退し、不確実性が増す中、プーチン人気は国内外で上昇している。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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