低インフレと不機嫌な猫が流行る理由
英誌エコノミストのビル・エモット元編集長がよく「インフレ体質の国とそうでない国がある」と英国と日本を比較したが、英国もだんだん低インフレが顕著になってきた。
17日、英政府統計局(ONS)が発表した消費者物価指数(CPI)は昨年12月の0.5%から0.3%(いずれも年率)に低下した。記録をとり始めてから最低の水準だ。
英イングランド銀行(中央銀行)によると、今年3月にインフレ率は0%に、その後、マイナスに転落する可能性がある。しかし、今年末までには再び消費者物価は上昇するという。
原油価格の急落に合わせて自動車の燃料費が下落、食品の価格も下がったためだが、衣服や家具の値段は上昇している。食料品など価格変動の大きい品目を除いたコアCPIは1.4%だった。
キャメロン政権は「成長率も上昇し、雇用も増えている。低インフレは英国にとって長く持続する景気回復を享受する黄金の機会だ」と歓迎する。
イングランド銀行のカーニー総裁も「持続して価格が下がり、消費も減る悪いデフレの兆候はない」と断言、今後3年のうちにインフレ率はターゲットの2%を上回ると予測する。
2008年、英国のインフレ率は5%。世界金融危機で1年もしないうちにCPIは1%まで低下し、11年後半には再び08年9月と同じ5.2%まで上昇した。
景気が良くなっているのに低インフレが進むのはなぜだろう?
新興国の需要が減り、原油や鉄鉱石価格が下がっていることが大きい。英国通貨ポンドが強いので、輸入コストが低くなる。
少し古いデータになるが、13年4月時点で英国の労働者の平均時給は09年以降、8.5%も低下した。企業収益が伸びず、賃金はなかなか上がってこない。
賃上げ、消費拡大という景気の好循環を起こすため、キャメロン首相は英ビジネス界に賃金を上げるよう呼びかけた。安倍晋三首相も同じように賃上げを継続するよう業界に要請している。
インフレの優等生だった英国でも低インフレが進む。デフレ体質の日本は、14年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は実質で前期比0.6%増(年率で2.2%増)、3四半期ぶりにプラスに転じた。
日本や欧州に比べ、米国や英国では安定した人口増が続く。それでも経済のグローバル化でもうけたオカネが海外に投資され、国内の景気循環になかなか結びつかない。
低インフレが悪化してデフレになれば、物価と賃金の下落が連続して起こり、経済がどんどん縮小していく。
人口が増え、シェールガス、情報通信技術(ICT)革命が進行する米国でさえ、「長期停滞論」(サマーズ元米財務長官)がくすぶる。
英国で423のフード・バンクを運営する慈善団体によると、3日間の食糧緊急支援を受けた人は08年度の2万5899人から12年度に34万6992人、13年度は91万3138人に膨らんだという。
賃金の下落で食費が足りなくなる人が増えたからだ。米国で「不機嫌な猫」が大ヒットしているのも、日米欧を覆い始めた低インフレと無関係ではあるまい。
(おわり)