欧州中銀156兆円の量的緩和 日銀・黒田バズーカをしのぐ ユーロにヒビ割れ

ドラギ・バズーカ

いよいよ欧州中央銀行(ECB)も量的緩和(QE)に動き出した。ドラギECB総裁は今年3月から国債など月600億ユーロ(約8兆2200億円)ずつ、2016年9月かインフレ率が2%に近づくまで量的緩和を継続すると表明した。

月500億ユーロと予想されていたが、それを100億ユーロ上回る。来年9月までなら今年6千億ユーロ、来年5400億ユーロで総額1兆1400億ユーロ(約156兆円)となる。日銀の黒田バズーカ2(質的・量的緩和)を上回る規模だ。

買い取りの対象となるのはユーロ圏参加国、欧州連合(EU)関連機関が発行するユーロ建て債券など。

量的緩和に踏み切ったドラギECB総裁(ECBのHPより)
量的緩和に踏み切ったドラギECB総裁(ECBのHPより)

焦点のギリシャ国債買い入れについて、ドラギ総裁は「ギリシャに対する特別なルールはない。どの参加国にも基本的に適用されるルールがあるだけだ。買い入れができる条件はいくつかある。例外的なルールではなく、以前から存在していたものだ」と説明した。

昨年12月、欧州単一通貨ユーロ圏(19カ国)の消費者物価指数はマイナス0.2%に落ち込み、デフレが目の前に迫ってきた。一つの政府、自前の中央銀行を持つ米国や日本と違って、ユーロ圏がいったんデフレ入りすると参加国全体が協調して対応するのは難しい。

ユーロ圏はデフレ・リスクがあるのなら効果の程ははっきりしないにせよ、量的緩和を実施するのが賢明だ。ドラギ総裁は2兆ユーロに縮む見通しのECBのバランスシートを3兆ユーロ強まで膨張させる。

リスク共有は20%

国債購入によるリスクをユーロ圏全体で共有するのか、19の各国中銀がそれぞれ背負うのか。ドラギ総裁はリスク共有の原則を維持したかったが結局、リスク共有が20%、80%は共有しないことになった。

つまりギリシャ国債を購入するギリシャ中央銀行のリスクは他の国は負わないということだ。これまで一枚岩だったECB内に80%分は国境が復活したことになる。離婚する場合に備えて共有財産を20%に限定したような印象を受けるのは筆者だけか。

リスクを抑えるため、ECBは銘柄当たり25%以上の買い入れ、発行体の抱える債務の33%以上の買い入れは行わないというルールを設けた。

ギリシャ・急進左派連合のツィプラス党首(アテネで筆者撮影)
ギリシャ・急進左派連合のツィプラス党首(アテネで筆者撮影)

借金返済の大幅免除を求める急進左派連合(SYRIZA)が議会第1党になることが確実のギリシャ総選挙が今月25日に迫る中、ユーロ圏はドイツのメルケル首相が主導してきた緊縮策から緩和策にカジを切ったと言える。

しかし、その代償は大きかった。これはギリシャ救済というより、あくまでユーロ圏のデフレ回避に主眼が置かれている。

メルケル首相周辺は年明け早々、ドイツ誌シュピーゲルに、SYRIZAが勝って債務返済の大幅免除を求めるようなら、「ギリシャのユーロ離脱もやむなし」との見方を示していた。ドイツを中心とした欧州「北部」とギリシャなど欧州「南部」のミゾは相当開いている。

一方、ギリシャ国民もSYRIZAもユーロ離脱は望んでおらず、ギリシャ支援策の見直しをめぐって駆け引きを繰り広げる構えだ。

かすむ黒田バズーカ2

この日、市場が注目したのはユーロ圏内の不協和音ではなく、「ドラギ・バズーカ」の規模だ。ドラギ総裁が目指す3兆ユーロ強は日本円にして411兆円。

黒田バズーカ2でマネタリーベース(資金供給量)は15年末に350兆円、16年末には430兆円に膨らむ見通しだ。

ECBも日銀もデフレ回避やデフレ脱却が目標なのだが、ユーロや円を切り下げる効果がある。原油価格が1バレル=50ドルを割り込む中、ユーロ安が進み円高に振れると、「2年程度で2%の安定インフレ」という黒田日銀の公約達成はいよいよ難しくなる。

日銀は21日、15年度の消費者物価指数の上昇率見通しを昨年10月時点の1.7%から1%に大幅に引き下げた。原油安やユーロ安で物価上昇率は今後、ゼロ近辺にまで下がる恐れすらある。

黒田バズーカ2の効果が薄まれば日本はデフレに逆戻りしかねない。その一方で膨れ上がった日銀のバランスシートは将来ハイインフレを呼びこむリスクをため込んでいる。

右を見ればデフレ、左を見ればハイインフレという切り立った尾根道を日本経済は歩いているのに、道幅は次第に狭くなっている状況だ。

GPIFは大丈夫?

そんな中、総合情報誌ザ・ファクタ2月号に「『130兆円GPIF』某重大事件」という記事が出た。

厚労省が所管する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」は130兆円の国民年金資産を運用。昨年秋、国内株式の割合を12%から25%に引き上げる運用見直しが行われ、最高投資責任者(CIO)兼理事に水野弘道氏が抜擢された。

水野氏は住友信託銀行のニューヨーク勤務などを経て03年から未公開株(PE)の流通市場を専門にする英コラー・キャピタルに転職、パートナー20人の1人となった人物だ。

その水野氏について、香港の富豪でパシフィックセンチュリーグループ会長兼最高経営責任者(CEO)李沢楷(リチャード・リー)氏が「『彼をCIOにして日本は大丈夫か』と危惧する声を漏らした」とファクタ誌は報じている。

リー氏に確認したところ、次のように語ってくれた。

「私は日本で安倍政権のような強い政権をこれまで見たことがない。市場は安倍政権の決定を支持している。私は民間セクターから専門家を抜擢するなどGPIFの改革を推し進めるのを歓迎している」

「ファクタ誌に私が水野氏への疑念を示しているかのような記事が掲載されたが、これは事実ではない。ファクタ誌から事実確認の取材はなかった。私は誇るべき師や友人、同僚を日本に持つ投資家の一人として、日本が経済を力強く回復させることを願っている」

リー氏の言葉はありがたい。しかし、水野氏がPEの流通市場が専門で、130兆円もの年金資産を運用するのは「畑違い」「未知数」という声はある。安倍政権の後ろ盾は、生き馬の目を抜く国際市場では何の役にも立たない。

日本の切り札、黒田バズーカがドラギ・バズーカの前に息切れするリスクが膨らむ中、国民年金資産の運命は水野氏の判断に委ねられていると言っても過言ではない。

(おわり)