シリアやイラクに外国人戦士1万5千人流入 欧州からは3千~5千人
狂信的イデオロギー
米国のオバマ大統領と英国のキャメロン首相は16日、ワシントンで会談した。キャメロン首相は世界各地に広がるイスラム過激思想への警戒心を次のように表現した。
「われわれは有害で狂信的なイデオロギーに直面している。そのイデオロギーは世界の主要な宗教であるイスラム教を悪用し、紛争とテロ、死を作り出そうとしている。それがどこで出現しようと、われわれは同盟国とともに立ち向かうつもりだ」
オバマ大統領は情報活動や軍事力では問題は解決できないとして、「特に若者をテロへと駆り立てるため人々を過激化させ、動かしている暴力過激主義と闘う戦略をともに構築していく」と述べた。米国と英国は合同タスクフォースを作り、専門知識を交換する。
外部スタッフ、エドワード・スノーデン容疑者による米国家安全保障局(NSA)の市民監視プログラムの暴露でノートパソコンやスマートフォンなど端末やデータの暗号化が進んだ。
このため、NSAや英政府通信本部(GCHQ)によるテロリスト予備軍の監視が以前ほど機能しなくなっている。
オバマ大統領とキャメロン首相は「暗号化された新しい製品が出てきたことで政府が過激派の攻撃を防ぐのを妨げる可能性がある」との懸念を示した。
フランスの風刺週刊紙シャルリエブドやユダヤ教系食料品店が襲撃され17人が殺害されたテロを利用して、NSAやGCHQの監視プログラムの重要性を強調した格好だ。
プライバシーと生命の安全を天秤にかけた場合、やはり「生命の安全」が優先される。監視プログラムは市民の生命を守るための必要悪、つまり必要最低限のプライバシー侵害だというわけだ。
ベルギーでもテロ計画
フランスの隣国ベルギーでは大掛かりなテロ計画が発覚。治安当局は15日、ブリュッセルなど12カ所を一斉捜索。グループのメンバーと銃撃戦になり2人を殺害し、15人を逮捕した。
自動小銃のカラシニコフ4丁や拳銃、弾薬、爆弾の材料のほか、警官の制服も押収した。警官の殺害を計画していたという。中東の民主化運動「アラブの春」以降のリビヤやシリアの内戦で武器が氾濫し、欧州大陸に流入している実態が改めて浮き彫りになっている。
ベルギーでもモロッコ系移民の2世、3世の過激化が進んでいる。バックグランドはいろいろで、外国からの養子だったり、父親と母親の背景が違う家庭で育ったりするケースも目立つという。
これまでベルギー国内ではジハーディストのテロはほとんどなかったが、2004年にスペインで起きた列車爆破テロなど海外の事案に関係していたことが過去に報告されている。
シリアやイラクに流入する外国人戦士は1万2千~1万5千人。Europol(欧州刑事警察機構)によると、欧州からの参戦組は3千~5千人とされる。
米国議会が出資するラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティーがまとめた「シリアやイラクに流入する外国人戦士の出身国」をご覧いただきたい。
黒い地域は600人以上、赤茶色が300人以上、色が薄れるにつれ、少なくなっている。
【中東】
サウジアラビア3千人強。
チュニジア3千人強。
モロッコ1500人。
トルコ1千人強。
【欧州】
フランス930人。
英国500~2千人。
ドイツ450人。
ベルギー300人。
人口100万人当たりの割合(下のグラフ)でみると、欧州ではベルギーがスウェーデンに次いで多くなっていることがわかる。シリアやイラクに集結している過激派が少しずつ欧州に逆流し始めている。
フランスのテロで特殊部隊に殺害されたクアシ兄弟ら3人の経歴を見ると、社会に対する漠然とした不満、過激イマーム(礼拝の導師)との出会い、逮捕、尋問、刑務所でイスラム過激派からテロの伝授、海外でテロ訓練に参加、テロ実行という典型的な過激化のスパイラルに陥っていた。
イスラム過激主義という狂信的なイデオロギーをいかにして解体するか。テロリストの攻撃を受けるイスラム社会の協力、引いては西洋とイスラムの共生なくして解決策は見出だせないだろう。
(おわり)