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「表現の自由」を守れ 風刺画のネット投稿相次ぐ フランス風刺週刊誌銃撃事件で

木村正人在英国際ジャーナリスト

イスラム過激派のテロで12人の犠牲者を出したフランスの風刺週刊紙シャルリエブドは1970年に創刊された左派の雑誌で、発行部数は4万5千部。過去にイスラム過激派とみられる爆破テロに遭ったこともある。

同週刊紙は2006年、前年にデンマークのユランズ・ポステン紙に掲載され、世界中のイスラム教徒の怒りに火をつけたイスラム教預言者ムハンマドの風刺画を再掲した。

11年11月、同週刊紙のウェブサイトはハッキングされ、オフィスが爆破された。前日付で「シャリア(イスラム法)ヘブド」と題した特集号を発行。

イスラム教の預言者ムハンマドを編集長に指名したとして、表紙に「もし笑い死にしないなら、100回のムチ打ちの刑に処す」と話すムハンマドの風刺画を掲載をしたのが原因とみられている。

本当の編集長は爆破テロに対して、「イスラムや(過激な)イスラム主義がもたらす結果に一切触れずにフランスで読者の笑いを誘ったり、何かについて語ったりできるとしたら、うっとおしいことだ」と述べ、イスラムを風刺することは表現の自由だという姿勢を鮮明にした。

反イスラム映画『イノセンス・オブ・ムスリム』の公開に抗議して米国の在外公館が次々と襲撃されたのを受け、12年9月には、同週刊紙はシリーズでムハンマドの風刺画を掲載。この際は仏警察が同週刊紙のオフィスを取り囲んで守った。

今回の銃撃事件では護衛の警官も殺害されている。

フランスのイスラム系移民の人口は約500万人。全体の約7.8%、欧州の中でも最大のモスリム・コミュニティーを抱えている。

イスラム教徒はムハンマドの風刺画は受け入れられないという共通の認識を持っているが、西洋には西洋の絶対に譲れない価値観がある。

それが表現の自由だ。ロンドンのトラファルガー広場では7日夜、ペンを握りしめ、天に向かって突き上げるパフォーマンスが行われた。ネット上には「風刺画はテロには屈しない」とシャルリエブド支援の風刺画投稿が広がった。

以下はその風刺画の一部だ。

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欧米メディアも「表現の自由」を支持する論評を一斉に掲載した。

英紙フィナンシャル・タイムズ

「自由と笑いは生き続ける/事件は笑顔を消し去る血塗られた行いだ。しかし、テロリストは風刺を封殺することはできない」(Simon Schama氏)

英紙タイムズ

「宗派を越えて、私たちは、テロによる検閲に反対したジャーナリストたちの大量殺人を非難するため団結しなければならない」(社説)

米紙ニューヨーク・タイムズ

「パリでのシャルリエブド銃撃事件で非難されるのはムスリムなのか?/イスラム世界のテロや抑圧、女性嫌悪症を非難しよう。しかし、私たち自身、テロリストの非寛容に反応しないよう気をつけよう」(Nicholas Kristof氏)

日本ペンクラブ(浅田次郎会長)

「表現の自由を脅かすテロ行為は、いかなる思想信条に基づくものであれ、許されない。言葉が憎悪を生み出し、さらに憎悪が憎悪の連鎖を生まないことを強く願うとともに、全ての人々が萎縮することなく自由にものを言える社会が守られることを求める」

各国首脳からも非難が相次いだ。

安倍晋三首相「言論、報道の自由に対するテロだ。卑劣なテロは決して許すことはできない」

オバマ米大統領「卑劣で邪悪な攻撃」

キャメロン英首相「言論の自由や法の支配、民主主義という価値観に挑戦するテロと戦うフランスと一緒にいる」

メルケル独首相「野蛮な攻撃」

一方、日本ではこんなニュースが流れた。

3日にNHK総合で放送された「初笑い東西寄席2015」で司会を務めたお笑いコンビの爆笑問題の田中裕二さんが7日未明放送のTBSラジオ番組で、NHKの番組スタッフに事前にネタを見せた際、「政治家さんのネタは全部駄目と言われた」と明かした。

コンビの太田光さんは「政治的圧力は一切かかっていない。テレビ局側の自粛っていうのはありますけど」と応じたという。

このネタは笑えない。「表現の自由」を滅ぼすのは、その担い手であるメディアの「自粛」や「自主規制」だからだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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